私は小さな箱をギースに差し出した。簡単に包装されている。
「なんだ? 私にくれるのか?」
「バレンタインデーだ」
「まさか魔人様が直々に手作りチョコを?!」
わざと大げさに驚いているようだった。
「既製品だ」
ギースは嬉しそうに微笑み、包みを開ける。
「ほう、知っているぞ。日本の菓子だ」
中身はシガレットを模したチョコレートだった。軽く祈りを捧げ、包み紙を開き、口へと運ぶ。屈託ない笑顔をくれた。
「どこで手に入れた?」
「秘密だ」
「私が煙草ばかり吸っているからと、わざわざ探してくれたのか」
「少しは控えろというメッセージだ」
「私も貴様にチョコの一つでもやらんとな? 例えば、等身大のハワードチョコとか」
「それならルガールが既に用意している」
「は?」
「私達四人の姿を象ったチョコレートが、既に用意されている」
「バカだなあいつは。銅像のパロディか」
「どうだか……?」
一方その頃。
「ありがとう豪鬼! 君の助けがあってこその作品だよ!」
何らかの形を模したチョコレートというのは、型に流し込んで作るものだと記憶している。
だが、この四体のチョコレート像は木材のように削り出され、製作された。正しく狂気の作品である。
豪鬼は、割れない、砕けない、溶けないと三拍子揃った、もはや暗黒物質的なチョコレート像を、如何すべきかと眺めていた。