ああ、嬉しい。
喜びに涙が伝う。
愛しい猫がやっと膝の上にきてくれた。
この猫ときたら目を離せば、
無茶をして怪我を負い。
虚勢を張って不調を誤魔化す。
構って欲しいくせに牙と爪を立てる。
つんつん、つんつんとこちらの気を揉ませてくれる。
それでも可愛いと感じるのは、
過激な所作の裏にはわかりにくい優しさ。
気を許した身内には、鞭を振りかぶりながらもとことん甘く。
酒に酔い、擦り寄ってきたかと思えばべしべしとこちらを叩いてくる。
こちらを上げて落として、上げて落として。
じわじわ距離を詰めること数年。
やっと膝の上に。
この腕に抱くことができた。
だが焦ってはいけない。
私は知っている。
安心し切った可愛らしい顔を、その美しい毛並みを撫でようものならば、すぐにまた彼は爪を立てるだろう。
そうなればうっかり気を許した事を恥じ、次はいつ膝に来てくれることか。
不可焚燒雜物 不可交頭接耳
不可交往過密 不可夜不歸宿
不可威脅他人 不可考試掛科 ...
今まで耐えたのだから、このくらいなんの。
健やかに眠る愛しい猫を、足が痺れようとも、痛もうとも、決して起こさぬよう、家規を私は一晩でも二晩でも唱え続けよう。