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    ume8814

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    ume8814

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    モブスピ

    眩い金糸 陽の光を避けるように路地裏に滑り込ませたお陰で青白い肌、良くいえばスラリとした、悪く言ってしまえば肉付きの悪い長い手足、不自然に赤みを帯びてふっくらとした唇、ふわふわと揺れる金糸のような髪の毛、まるで誰かに操をたてているかのように慎ましさを忘れない後孔、それら全てを客は褒めそやした。
     ヤリ部屋もといホテルの小さな窓の外に建ち並ぶ建物。その隙間から覗く夜空を見て空に焦がれるのを意識の隅に追いやり金を誘う。さっさと終われと思いながら揺さぶられて、横隔膜を律動に揺すられるまま震わせて相手好みの喘ぎ声をあげてみせる。そうやって揺すぶられていれば知らぬ間に道行く馬車や酔っ払いの声するなんて聞こえなくなり、それからしばらく経った頃に解放される。相手がそのまま隣で寝たい人間なら隣で大人しくしているし、自分の身支度を整えたらすぐ出ていく人間だったなら息が落ち着けばそそくさとシャワーを浴びる。
    料金は始めたばかりの頃にヤり逃げされて以来前払いと決めていた。ホテルの料金は相手が払うことになっているから、そのまま朝までぐしゃぐしゃになったシーツを剥いだベッドで寝るのが常だった。

     朝起きて顔を洗うとそれなりに買い手の着いた娼婦の母親によく似た目の下にくっきりとクマができているのが見える。母によく似た眦と唇。全体的な顔の雰囲気は母に似ているけれどそれ以外の顔のパーツはきっと顔も知らない父親に似ているのだろうなと鏡を眺めて考える。自分の父親がどんな顔なのか考えていたこともあったが、最中に自分の顔を褒めそやす男達の中に母を抱いた人間が居るのではないかと考えてしまって以来父について思いをめぐらすことをやめた。ただ買い手がつく顔をしていることにほんの少し感謝した。自分さえ有れば隙間風こそ多いがベッドに寝る事が出来て食事を買う金の宛があるのは不安定な要素を多分に含みながらも精神的な安定に繋がった。
     客を取るのに見目が良いに越したことはない。まだ少年と呼べる時分なら外見が3枚目だろうが4枚目だろうが買い手はつく。若さに目が眩んだ大人の前であらゆる特徴はその善し悪しに関わらず愛らしさになる。滑らかな肌と性差の無い高い声、柔らかな肢体さえあればそれで充分だった。しかしそれが罷り通るのも僅かな期間だけ。スピードワゴンも成長期を迎え、声変わりが始まった時点で客足が悪くなるのではないかと思ったこともあったがそれは杞憂に終わったようだった。ガサガサとノイズの混じった喘ぎ声ですら大人達は笑って性交の糧とした。毛量が多い髪の毛や眉毛は幼い頃からだった。きっと時期が来れば体毛も濃くなり髭だって毎日剃らねばならないかと思っていたが、徐々に進んでいった声変わりもそろそろ終わろうという頃になっても一向に剃刀の出番は来なかった。きっとそういう体質なんだろう。身体の割に大きな手足からきっとそれなりの身長に育つだろうことは予想出来たがもう暫くこの身体で食いつなぐ事が出来るだろう。

    *****

     最近スピードワゴンには贔屓の貴族がいる。毎週木曜の午後に貧困街とその外の境界辺りに立っているとどこからとも無く人が近付いてきて金貨の入った小袋をスピードワゴンの服のポケットへと滑り込ませる。それでその晩のスピードワゴンの予定は決まるのだった。
     日が完全に落ちて貧困街の側に近づく人間が昼間よりも減った頃に貧困街から数ブロック離れたホテルへと向かう。まさか真っ当な使用人ではないだろうが自分のポケットへとものを滑り込ませる様な手癖の悪い人間を従える貴族。そんな奴に気に入られるのはリスクが大きいと分かってはいるがいつもより何倍も柔らかなベッドとポケットに落とされる金貨に抗う事は難しかった。
     豪奢なわけでは無いが小綺麗なホテルのエントランス。金貨と共に入っていたカードをフロントに提示すれば部屋番号のみが告げられる。それ以外の会話は無かった。
     3回ノックをしたら部屋の中かなから鷹揚な声が入室を許可するのが聞こえてくる。鍵がかちゃんと外されたのを聞いてスピードワゴンがドアノブを捻るよりはやく太い腕がスピードワゴンを部屋の中に引きずり込んだ。
     この貴族様はいつでもそうだった。部屋に引きずり込み有無を言わせず服を剥ぎ取られる。スピードワゴンがどれだけ茶化したふうに静止の言葉を紡いだところで無言でことを進める。引きずられたままドアのすぐ側で抱かれることもあれば、ベッドまで点々と服を脱ぎ散らしながら誘導されることもあった。ただただ大きな身体に無言で抱き込まれて荒い鼻息を首筋や耳元に受けながら、可もなく不可もなく味気ない快楽を与えられた。この男は最中は声をほとんど発さない。いつも最後に苦しそうな恍惚が滲んだような極まった声を出すだけだった。そのままそそくさと身体を清めて終わるのならばこれ以上楽なことは無かったが、そこまで上手くことが進むことは無かった。不思議な事にこの男は事後にこそよく喋った。ほかの客達の多くはニタニタと最中に様々な言葉を投げかけてくるものだったがこの男は俗に言うピロートークでまるで最中とは別人のように饒舌になる。今日も具合がよかった。綺麗な髪の毛だ。君の蕩ける瞳が可愛かった。それはそれはスピードワゴンの気怠さなどお構い無しに思い出すのも億劫なほどよく喋った。

     その日も特に問題無くすんなりと事が済んでいつものピロートークが始まった。今日は後背位だったからか髪の毛を誉めそやす言葉が多かった。片側に流した髪の毛から覗く首筋がいかに自分を昂らせたか、その柔らかな髪の毛ならどれだけ触れていても飽きることはない等とゆったりと瞼が落ちそうになっているスピードワゴンをしりめに男は喋っていた。眠気に抗いながら適度に相槌を打っているとしきりに髪の毛を撫でていた手を頬に滑らせて男が聞いた。君が髪の毛を伸ばしているのは何か願掛けの意味があるのかい?と。願掛け。スピードワゴンにとっては全く考えもしない行為だった。ただ少年だった頃から自分を抱く男達が色素の薄い地毛を好んでいたから、それならば長い方が良いのだろうかと安易に伸ばし始めただけだった。もし切らなかったことに理由があったとしたらそれはより長く生き長らえるためにほかならなかった。少しでも稼ぐ量が増えればそれだけ飯を食いっぱぐれる日が減るのだった。まさかそれを素直に伝えるわけにも行かなかったがより長く生きるため、男達と長く関係を続けるのは悪手ではない。

    「毎週髪を櫛削り貴方にこの髪の毛を誉めてもらいながらずっと可愛がってもらえますようにと願っています」

     完全な嘘とは言えないだろう。しかし我ながら下手なリップサービスだとと思った。言葉だけでは味気ないだろうと控え目に微笑んで見せたが鼻で笑われるかもしれない。相手の顔を伺えばその予想は裏切られた。喜色満面の笑みとはこういう表情を言うのだろうか。お手本のような笑顔がすぐ側にあった。向かい合うようにして寝そべり男の腕の中に収められていたが背後で手慰みにスピードワゴンの髪に触れていたはずの手はキツく身体を抱きしめてきた。

    「その願い、きっと必ず叶うだろう」

     感極まった男の声を聞きながらその異様さに背筋が冷えた。もしやこの男は自分の想像以上に自分に入れ込んでいるのではないか。あの発言は少し軽率だったかと引き際を考えなければならない。自分のような人間が何人貴族に攫われようが問題にならない。揉み消すほどの事件性すら問われない。引き際を間違えたせいで帰ってこない子供は何人いるかわからないだろう。流石に今晩のうちに男に攫われることは無いだろう。この男はいつも共を返している。明日の朝まで迎えは来ない。男が身支度を整える前に起きて適当な理由をつけてずらかるに限る。そうと決めたスピードワゴンは男の頬に小さく音を立てるだけのキスを落とし、少し疲れてしまったからとそうそうに瞼を閉じた。



    次の日そそくさと身支度をしてまた来週とかなんとか男に言われながら1ヶ月近く逃げるスピードワゴン。流石に貧困街の中なら深追いしてこないだろうと貧困街の中を点々としていたがやっぱり堅気じゃない奴らとの関わりがある貴族だったせいで捕まってしまい囲われて欲しい。すったもんだの末に頬にでっかい傷をこさえながらも逃げ出して欲しい。もうやめだやめだ!!!!!になって徐々に力をつけて貧困街のトップに踊り出ていって欲しい。貴族はクソ!!!!!!!!!!からジョースターさ〜んになるスピワ可愛いよ
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    ume8814

    DOODLEグリクリグリ
    読書 サイドテーブルを挟み緩く向かい合うように置かれた1人がけのソファで、クリーデンスとグリンデルバルドはそれぞれ本を読んでいた。日が落ちてから随分経ち分厚いカーテンの下ろされた部屋では照明も本を読むのに最低限の明かるさに絞られていた。その部屋には2人のページを捲る音だけが静かに響いている。


     クリーデンスが本を読むようになったのはつい最近、グリンデルバルドについてきてからのことだった。最低限の読み書きは義母に教えられていたが、本を読む時間の余裕も、精神的な余裕も、少し前のクリーデンスには与えられていなかった。
     義母の元でクリーデンスが読んだ文字と言えば自分が配る救世軍のチラシ、路地に貼られた広告や落書き、次々と立つ店の看板くらいのもので、文章と呼べるようなものとは縁がなかった。お陰でクリーデンスにはまだ子供向けの童話ですら読むのはなかなかに骨が折れる。時には辞書にあたり、進んだかと思えばまた後に戻ることも少なくないせいでページはなかなか減らない。しかしクリーデンスはそれを煩わしいとは思わなかった。今までの生活とも今の生活とも異なる世界、新しい知識に触れる事はなかなかに心が惹かれる。クリーデンスにとっては未だにはっきりとしない感覚だがこれが楽しいということなのかもしれないと、ぼんやりとだが思えた。それに今日のように隣で本を読むグリンデルバルドのページを捲るスピードは、自分のものとは異なり一定で、その微かに聞こえてくる紙のすれる音が刻むリズムがクリーデンスには酷く好ましかった。
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