恋が実る味「普通のチョコが好き。簡単に食べられるようなやつ」
学生時代のことだ。バレンタインの数日前に三年生の教室に行き、勇気を持ってチョコレートの好みを訊ねた私に、五条さん――当時は先輩――はそう簡素に答えた。
「えっと……五条先輩の言う普通のチョコとは?」
「ん〜、コンビニとかに売ってるようなやつかな。そういうやつなら何でもいい」
机の上に長い両足を組んでのせて椅子に腰掛けている五条先輩は、手に持っていた飴玉の袋を開けて中身を取り出した後、文字通りに口の中へ放り込んだ。コロコロと飴玉を転がす音が微かに聞こえてきたと同時にギィギィと軋んだ音も耳に届く。五条先輩が椅子の後ろ脚を支点にして、揺籠のように揺れているから鳴っている音だと、目の前にある銀髪の毛先がふわふわと揺れていることで気付く。
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