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    karehari

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    karehari

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    キスディノ
    ディノが熱出したので甲斐甲斐しくキースが世話を焼いてくれます

    ねつよりあつい大切なものを増やすということは諸刃の剣だ。得られるものは決して強さだけではないとキースはもう知っている。そしてそれを教えてくれた愛と平和を謳う男は今日に限って随分とおとなしい。苦しげな息遣いが哀れでならなかった。

    「なかなか安眠できねえよなあお前は」

    真っ赤な顔のディノは昏昏と眠っている。じわりじわりと滲んでは流れる汗をタオルで拭ってやる作業はもう何度か繰り返した。額に乗せた冷却シートの温度を確認しながら、キースは少し前に起きた事件を思い出す。ちょっとしたアクシデントだ、本当にちょっとした。


    穏やかな昼下がり、ウエストセクターの歓楽街からの出動要請に応じた。もはや襲撃慣れした若者達は避難も早く、街の破壊も慌てた老人がよろけて店のシャッターを軽くへこませたくらいの最低限で、転倒して膝を擦りむいた市民が数人、死者もなし。ただふよふよと飛来したサブスタンスがしばらく雨を降らせただけだった。
    ただこの雨がなかなかに容赦なく、広範囲に降らせつつも自身の周辺何メートルかだけを特に局地的に土砂降りにさせるという現象を引き起こした。いわゆる"ゲリラ豪雨"だ。おかげでキースとルーキー達は雨の壁に阻まれ得意の遠隔攻撃が届かず、我が身が武器のディノが一人で前線に立つこととなったのだ。

    「どうやらそんなに攻撃性の高いサブスタンスじゃないみたいだ。俺がある程度削ってくるよ。雨が弱くなったら皆に任せて待避するから一気に片付けてくれ」
    「あんまり無茶しないでよね。あそこだけかなり降ってるから地盤緩んでるかもしれないし」
    「クソDJが音で合図するから巻き込まれねえようにすぐ避けろよ!」
    「オッケー!頼りになるなあ」

    フェイスとジュニアに自分の編んだ計画を共有するディノは、連携を苦ともせずむしろメンターの心配をするルーキーの成長を微笑ましく感じていた。そうしてふと、会話に参加せず少し距離を保った場所にいるキースに気がついて駆け寄る。しけた煙草を一本無駄にしたキースは些か機嫌が悪かった。一服できないせいだけではないだろうが。

    「キース」
    「ハイハイ聞こえてる聞こえてる」
    「ふふ、大丈夫だよ。ちゃちゃっと弱らせて回収しちゃおうな」
    「お前の大丈夫はあんま信用ならねえんだよなあ」

    キースが心配してくれていることを理解しているディノは出来るだけ、こんな雨の中でもわかるように大きく笑ってみせた。駄目になった煙草を乱雑にポケットに突っ込んで、キースもまた、おう、と応じた。

    「じゃ、行ってくる。あとは任せたぞ!」

    屈伸を二度。両肩を交互に回してからディノは、まるで獣のような脚力で豪雨の壁を築くサブスタンスの元へ跳んでいった。
    それからはあっという間で、とくに危機を感じて迎撃が行われるといったこともなくただディノの爪にばりばりとやられ裂傷を作ったサブスタンスは徐々に雨を弱め、打ち合わせどおり動いた後方の三人に総攻撃を叩き込まれて地面に落下した。
    かつてブルーノースを水に沈めたものの同タイプかと思われるのだが、ただ健気に雨を降らせるだけだったので、ぼこぼこにした本人は「なんだか可哀想だったな」と苦笑する。この未だ謎ばかりのお騒がせ物質に対して可哀想もくそもあるかよと反抗したかったが、なんとなく黙っておくキースであった。

    タワーに連絡を入れしばらく待っていると回収班がやってきて、スムーズな段取りでサブスタンスを持ち帰っていく。それを見届けて一件落着。万が一を考えて装着したままだったヒーロースーツも各々解除した。
    異変があったのはその帰路で、雨上がりの青空を映す水たまり、それに突如膝から崩れたディノが顔を突っ込みかけた。すんでのところで支えたフェイスに謝るディノだがその笑顔に覇気がないことは明らかで、前に回ったキースはまさかと額に手を当てる。酷い熱だった。

    「……お前なあ……しんどいならそう言えっての」
    「へへ……ごめん……」
    「大丈夫かよディノ!?」
    「なんかふらふらしてると思ったんだよね……早く気づいてあげればよかった」

    皆の心配がくすぐったくて嬉しくて、もう少し頑張れそうだと両足にぐっと力を入れたディノだったが、キースが許さなかった。

    「ほら」
    「……いや、いやいやキースそれは」
    「お前に選択権はねえよ。能力で浮かされたくなかったら自分で乗れ」
    「ぐぅ……」

    ディノの前にはしゃがんだキースの広い背があって、後ろ手がくい、と病人を誘う。別に高いプライドを持っているわけではないディノでも、ルーキーの前でおぶられる体調不良のメンターという絵面を展開することには少し、いやかなり抵抗があった。しかし頭はぼうっとするし身体は怠いし、自分のために準備された逞しい背中は相当に魅力的で、まるで導かれるようにディノはその身を預けた。

    「にひひ、キースの背中は乗り心地がいいな……」
    「こ~ら。ちゃんと前に手ぇ回せ。落っこちんぞ」
    「うん……」

    役得だ。自然な気遣いを演じつつもやましい気持ちがなくもないキースが内心そう思っているうちに、ディノの重みが急に増す。眠ったみたいだねとフェイスが小声で伝えてくるので寝顔を確認しようと目をやるが、体勢の都合で桃色の跳ねた髪を捉えるだけで精一杯だった。背中が熱い。何度あるのか分からないが早く診てもらわねば、とはやるキースの競歩じみた早足はタワーに着くまでまったく衰えることはなかった。

    ルーキー達とはロビーで別れた二人がタワー内の医務室に辿り着くと、慣れた気配を感じたのか背中のディノが一度目を覚ましたので、そのまま体温を計る。三十八度を過ぎたあたりで上がっていく数字を見るのを嫌がったディノに、キースはきっちりしっかり耳が痛くなるほど実況してやった。幸い九度にまで上がることはなかったが高熱には変わりないので、医療スタッフから渡された薬を飲ませ、設置されているベッドに寝かせてやろうとキースが肩に手を添えて支えようとすると、ちょっと待ってとディノの止めが入った。

    「なんだよ。寝ないと治んねえぞ」
    「寝るよ……寝るけどさ……制服が窮屈で」
    「ああそうか。気ぃ回らなかったわ、悪い。服借りてきてやるよ」

    そう告げてから退室し、薄い青色の病衣を手にして戻ってきたキースは、かつてこれを着ていた頃のディノを少し思い出していた。
    洗脳された状態でこちらに敵意を向けてくる彼の目も、自分を庇ったことで深手を負い意識を失って眠り続けた姿も未だ脳裏に焼き付いている。己の名を呼ぶ声を聞きたいと、決して贅沢ではないはずのキースの願いが叶う瞬間があまりにも遠く思えた、そんな日々。二度とは味わいたくないものだ。

    「キース……?」

    ディノの呼び声に我に返ったキースは、なにもなかったようにほらよと病衣を手渡す。これだけ熱があれば汗もかいているだろうと、ついでに借りてきたタオルも一緒にだ。ベッドの端っこに腰をかけてキースを待っていたディノは礼を言ってタオルを手に取り──少し悩んでから口を開いた。

    「……あのさ、手伝ってほしいって言ったら、怒る?」
    「いや怒りゃしねえけど……着替えをか?」
    「汗かいて張り付いてるのと、怠くて上手く腕上がらないのとで手間取っちゃいそうで……」

    ちょっとばかり間を置いてからキースは頷いた。大切なのは病人を思いやる不純のない優しさ。ボタンを外すディノの手が覚束ないから途中で代わって外してやる。インナーはなんとか自分でたくし上げていたが汗で張り付いて綺麗には脱げず、ぽいと雑に落とされてぐちゃぐちゃと裏返っている。そうして惜しげもなく晒される汗ばんだ素肌に、キースは不覚にもぐっときてしまった。
    何者からもキースが守ってやらねばならないようなか細さでは決してなく、今は体調こそ悪いものの健康的な肌色をしている、その肩、胸元。インドア派のキースと違い外で元気はつらつと身体を動かすことを好むディノの体格は、紛れもなく男のそれである。熱がある。しゃっきりとしない。そんな相手に抱くべき感情ではないのはキースだって分かっているのだが──

    「……キース、そんなに見つめないで……」
    「……………………わりぃ、ちょっと」
    「あはは、何か気になるところでもあった?」

    全部気になるよ惚れてる奴の身体なんて。などと馬鹿正直に伝えるのは流石に止めて、ぼうっとしてただけだ、とキースはタオル片手に誤魔化す。ふわりとした肌触りと、一つの傷もつかないように汗を拭ってくれる穏やかな手つきが気持ちよくて、ディノはキースの肩口に寄りかかった。いつもより荒い呼吸と、熱を持ってしっとりと濡れた肌、甘えたみたいな仕草がなにか性的な行為のあとを彷彿とさせるようで。いよいよ不謹慎と妄想が過ぎるだろうとキースは少し自己嫌悪に陥った。ディノとそんな関係でもないくせに、と。

    「こ~ら拭きづれえ。もうちょっとの辛抱だからもたれるな」
    「ん~。うとうとしてきちゃう。キースって人の面倒見るの上手いよなあ」
    「そうかぁ?」
    「そうそう。だるい~って言いつつ世話焼いてくれる。今みたいにさ」

    ただの世話好きなら、人の肌を見てやましい気持ちになりはしないだろう。ディノから貰った高評価がなんだかいたたまれなくて、キースは目に毒な肌をとっとと隠すことにした。病衣を羽織らせて前を結んでやると、清潔な布に包まれた安心感からかディノが本格的に舟を漕ぎ出したので、肩を支えてやり寝かせる。布団をかけて綺麗に整えていると、その隙間からそろそろと手が伸びてきた。どうしたとキースが尋ねると、極めて控えめな力で袖を摘ままれる。

    「腕から冷えるぞ~?」
    「……寝付くまで」
    「ん?」
    「寝付くまで……傍にいてほしい……」

    ひどく頼りない声でディノが請う。

    「寝たら帰ってもいいから……ここ、音も全然しなくて、落ち着かないんだ……」
    「……」
    「まだ、一人で眠るのは……怖い」

    締めつけられるような痛みがキースの心臓を苛んだ。
    ディノは、無音や一人きりの空間を嫌がる。それがいつからなのかはわからないが、彼のこれまでの境遇に起因しているのは間違いないだろう。いつだってキースに暖かな光を降らせて分けてくれるディノが、まるで今にも泣きそうな顔をして怖れるものを払拭出来るのなら、キースはなんだってしてやれる。だから弱く袖を摘まむ指を取って、ぎゅっと握った。

    「そんくらい躊躇しないで気軽に言え。いてやるっつうの」
    「キース……あ、でも今日の報告書とか書かなきゃだろうし、俺が眠ったらすぐ……」
    「報告書は明日でも問題ねえけど、お前には今オレが必要なんだろうが。頼りゃいい。悪い気はしねえよ」
    「……怒られちゃうよ」

    そう殊勝に言ったところで手は正直にキースのぬくもりを握り返す。彼が与えてくれる優しさをディノは離せない。日頃怠惰な素振りを見せたとてキースはメジャーヒーローで、彼のすべき仕事はそれなりにあり、トリプルエーのディノには踏み込めない領域も存在している。だからここで彼の時間を自分が奪ってしまうことは本来好ましくなくて、そんなことをディノはちゃんと理解しているのだ。なのに。

    「病人は難しいこと考えんな。嫌々ここにいるんじゃねえから」
    「キースは……優しいな……」
    「……優しかねえよ。なんなら役得だって思ってる」

    役得とはどういう意味だろうか。ディノが熱で潤んだ瞳を向けると、キースがそっと手を離した。互いに密着させていた内側がじわりと汗をかいていたから、失った温度に隙間風が吹いて寂しい。咄嗟に追いすがろうとする無意識なディノの掌を、戻ってきたキースの指がつう、と撫でた。

    「こういうとき、お前が寂しがってるとき、傍にいるのがいつでもオレであったらいいって思ってる」
    「……キ」
    「でも、純粋な心配の裏っかわに……欲がある」
    「……ぅ」

    皮膚の薄い指の間を遊ばれたと思ったら、キースの人差し指がともすれば離れそうな弱い力でゆっくりと手首の方へつたっていく。くすぐったいようなぞくりとするようなそんな何かがディノの鼓動を速めた。これがキースの持つ欲だというのなら、それは。

    「キース……」
    「なあ、話そうぜディノ。お前が起きたらオレも腹括る」
    「……今じゃ駄目か?」
    「駄目だ。ちゃんと寝て治せ」

    今すぐにでも答え合わせをしたいのにもどかしい。けれどもキースの手が再び健全な在り方で包み込んでくるから、ディノの目蓋はゆるゆると下がってきてしまう。耳に馴染んだ友人のおやすみの声で、ディノは静かに意識を手放した。



    キースはそこまで思い出してから我に返ったように眠るディノの顔を見た。先ほどより呼吸も落ち着いているし、表情も穏やかな気がする。掛け時計にちらりと目をやると、ディノが眠りだしてからちょうど一時間ほど経っていた。あれやこれやと世話を焼き続けているキースだが、不便だろうに、それでも手は繋いだままだ。内側がぐっしょり濡れている感覚があるので、もうそろそろ離してやった方がいいとは思っている。添い寝の乳児相手でもあるまいし、少しばかり触れる温度が去っていったとて深く眠るディノが目覚めることはないだろう。けれど離せない。互いの距離を惜しむ二人は似た者同士だった。

    「……はあ…………どうしようかねぇ」

    ディノが目覚めたら。キースは約束通り彼に自分の中でずっと飼ってきた感情について語らなければならないだろう。ディノは約束を忘れない男で、人の気持ちを察するのに長けているから、キースが言い淀みやはり止めようと誤魔化したとしてもその瞳で必ず真実を射抜く。なんなら眠る前にはもう察している気配もあったので、ここは包み隠さず曝してしまうのが正解なのだと思う。問題はそのあと、受け入れられるか拒まれるかだ。

    「拒まれたくねえなぁ」

    アカデミーの頃、一人で屋上にいたキースに気づかないまま告白劇を展開する生徒達をたまたま目撃したことがある。結局フラれたようで、相手が去ったあとさめざめ泣き始めた男を後から来た何人かの友人が肩を叩いて慰めていた。キースはそれを心底どうでもいいな、と冷めた感情で聞いていた。
    拒まれる程度にしか好かれていない相手に告白する男も、いいともだちでなんて都合の良い漫画みたいな返事しか出来ない相手も、成功すると焚き付けたのかもしれない、理解者面して慰める友人達も。キースにとっては全部三文芝居みたいで鳥肌が立ったものだ。
    あのときのキースに、お前もそんなもので一喜一憂して頭抱えて泣きたくなる日が来るんだぞと言ってやったって信じるだろうか。

    けれど、元気になったディノと話がしたい。
    笑った顔が見たい。腹を鳴らして、ピザが食べたい!とねだるディノを浴びたくて、キースは待ち焦がれている。

    「ァ~……無理だ……早く起きてとどめ刺してくれ……」


    そうしてキースは苦悩し続けるのだ。
    目覚めたディノから開口一番好きだと伝えられて、そんなちゃちな悩みなんて杞憂に終わるとも知らずに。
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