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    Drkuro7

    @Drkuro7

    最推しはフロストリーフ

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    続くはず

    #アークナイツ
    arkKnights
    #フロストリーフ
    frostedLeaf

    少女がフロストリーフになった日:序章「……療養?」
    「そうだ。今の君が最優先すべきは傷の回復と鉱石病への対処ということになる」
     薄い緑で統一された診察室の中、複数のモニターに表示された画像も、渡された書類に並ぶ数字や単語の意味も、ケルシーと名乗ったフェリーンが淡々と続ける話も殆ど理解できないままに、ヴァルポの少女は曖昧に相づちを打ち続けていた。そんな中で突然降ってきた「一定期間の療養」という言葉は、無意識に聞き返してしまうほどに意外なものだった。事前に聞かされていたこの組織の目的を考えれば、自分は使い捨て同然で危険地帯へ放り込まれるはずだった。
    「必要ない。気遣いは有り難いが休息ならここ数日の検査の間に充分過ぎるほどにとれている」
    「……長く戦場にいた君のことだからな、すぐに前線に出せと言われるだろうとは思っていた。しかし、だ。生憎これは新たな仲間に贈る歓迎の印というわけではない。我々の代表者にも承認を受けた正式な命令だ。ロドス所属の――」
     そこでケルシーは一度言葉を止めた。しばらく手元の端末を操作してから、改めて目の前の少女へと視線を戻す。
    「君はまだコードネームの申請を出していないようだな」
    「コードネーム……作戦用の暗号名か」
     傭兵として様々な部隊を渡り歩いた彼女にとってそれはありふれたものだった。指揮のしやすさを最優先して数字を割り振っていた部隊も一つや二つではない。その上で質問を質問で返したのは、申請という言葉が引っかかったからだった。
    「まあ本来の定義としては間違ってはいないが、その実それほど厳格に運用されているものでもない。本名のまま登録している者もいれば、実際に自身の存在を外部に対し隠匿する目的で全く無関係の単語を登録している者もいる。要は我々が君をどう呼ぶべきか、という話だ」
    「どう、呼ぶべきか……」
     そう呟きながら少女は何かを考えるように、あるいは思い出すように、膝に乗せていた自分の手に視線を落とした。透き通るような淡紅藤の長い髪がさらさらと流れ、その顔を覆い隠す。正面で向き合うケルシーにもその表情を窺い知ることはできなかったが、力なく垂れた尻尾を見る限り、少なくとも幸福とは程遠い何かに囚われていることだけは確かのようだった。
     長い沈黙は診察室の中に設置された様々な機器が立てる微かな駆動音を縁取り、本来では気にならないようなものも耳障りな雑音へと変質させていく。耳に残り続けるそれが耐えがたくなりかけた頃、少女はようやくその視線をあげた。そこには、先ほどまでとは違う火が微かに灯っている。
    「私は『フロストリーフ』だ」
     その視線と言葉をまっすぐに受け止めながら、ケルシーはほんの一瞬その目を驚きに染め、口元にかすかな喜びを滲ませた。戦うことで安心を得ようとするでもなく、他人からの優しさに拒否反応を示すでもなく、少女が少女として明確な意思を見せたのはこの数日言葉を交わした中で初めてのことだった。
    「いいだろう。申請はこちらで済ましておく。……では改めて、ロドス所属の『フロストリーフ』。加入傭兵として契約を結んだ君には傷と鉱石病への適正な対処を命じる。感染が進行しているこの状況で万全というのは難しいだろうが、調子を取り戻した上で君の力を貸してほしい」
    「……わかった。命令に従おう」
     彼女の中には相変わらず「戦えない」ことへの困惑が残っている。しかし雇い主からの命令、それも戦うために必要な準備の一つとして与えられた療養という任務を果たさないわけにもいかない。釈然としないものを抱えながらも、彼女はそれを受け入れるほかなかった。

     フロストリーフが診察室を出た後、カーテンで仕切られた奥の部屋から眼鏡をかけたもう一人のヴァルポの少女が姿を現した。薄い色の髪を長く伸ばしているフロストリーフとは対照的に、ボブ程度の長さでカットされた彼女の髪は濃く鮮やかな紅葉色に染まっている。低い位置で結ばれた襟足は彼女が一歩進む度楽しげに揺れていたが、その表情は軽い猫背と相まってどこか物憂げにも見えた。少女は診察室の中にケルシー以外が残っていないことを慎重に確認してから、ほんの少しだけ躊躇ったあとにおずおずと口を開く。
    「もう少し優しく伝えてあげても良かったんじゃないですか……?ケルシー先生もあんなに彼女の身体のこと心配してたんですし……」
    「ミルラ、君の言いたいことは充分に理解できる。だが少なくとも今の彼女には明確に真偽が測れない優しさよりも、わかりやすい『命令』の方が受け入れやすいはずだ。心配だから休んでくれなどと言ったところで、その言葉を信用できず却って不安になるだけだろう」
    「そういうものでしょうか……」
     ミルラと呼ばれた少女はケルシーと言葉を交わしながら、その不安げな視線を先ほどまでフロストリーフが腰掛けていた椅子に向けていた。縁のない楕円型の眼鏡の奥で、その瞳はうっすらと涙をたたえて揺れている。
     フロストリーフがロドスを訪れてから、ケルシーの次に彼女の検査に関わっていたのは他ならぬこのミルラだった。直接顔を合わせる機会こそほとんどなかったが―それを彼女自身が避けていたのだが―自ずと病状や身体の状態を目にする機会は多く、普段の生活で襲われているであろう不調も容易に想像ができてしまっていた。長い間そんな状態が続いていたせいでそれが不調だと自覚することすらできないのか、当たり前のように戦場へ戻ろうとするフロストリーフのその姿は、彼女にとってあまりにも痛々しいものだった。
    「血液中の源石濃度、融合率、どれをとっても進行度はそれほど高いわけではないのに……実際に身体に現れている症状は彼女の進行度では本来あり得ないレベルの重さでした。一体どんな生活を強いられたらあんな症状になってしまうのか……」
    「だからこそ、彼女には間違いなく休んでもらわなければならないだろう?君の優しさは美徳であり強さでもある。そこは認めよう。だがその形は向ける相手にとって適切な形を取らなければ、君の薬草と同じように本来の力を発揮できない」
    「相手に合わせて適切に、ですか……。わかりました。先生の対応を信じます」
    「とはいえ君に同じ手段を取らせるのもそれはそれで酷だろうからな。君は君自身のやり方で彼女を支えてやればいい。憎まれ役ならいくらでも引き受けよう」
     ケルシーの表情はいつもと変わらない。だがそれがミルラのためのジョークであることも彼女は理解していた。冗談も真面目な話も、緊急時でさえケルシーの表情はほとんど変わらない。それでも長く付き合っていれば不思議と感じ取れるようになっていく。だからこそ、ケルシーの言葉を理解して信用することができた……のだが。ミルラには先ほどの言葉に一つだけ、どうしても引っかかるものが残っていた。
    「あの、先生?ひとつだけ確認してもいいですか?」
    「なんだ?」
    「『彼女を支える』ってどういうことでしょう……?」
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