つまりバブでオギャ『…零昨日家来た?』
零のスマホに盧笙から着信有り。
通話ボタンをタップするともしもしもなく開口一番、盧笙はそう言った。
零はニヤリと笑みを浮かべた。内心大変愉快だ。
「いや?」
『あ、そう…』
「なんかあったのか?」
声はややシリアスめなトーンで、でも顔は依然としてニヤニヤしたまま零は言葉を返した。
何故なら零は昨夜の事情を知ってるからである。まぁ、ただ嘘は吐いていない。零は昨夜盧笙の家に行っていない。簓に誘われていたが東都にいたので断った。
ただ簓から電話はあった。大変酔っていた。盧笙も、簓も。
『いや、あー…』
「痴話喧嘩か?」
『いや、…なんて言うたらええんか…』
電話の向こうで盧笙は言葉を濁す。
『結論から先言うと、…昨日のこと全然、覚えてへんねん』
「ほぉ」
『ただ、朝起きて目覚めたら簓が〝お兄ちゃんやで〟ってなんか気色悪い顔で笑ろて変な事ほざいとって…』
零は咄嗟にミュートボタンをタップした。思わず吹き出した。
はあ…、と零は深呼吸。
ミュート終了。
『〝何…?〟って思ったけど、もうそん時家出る時間迫っとったし、とりあえずキショイ言うてあのアホ放置して仕事行ったんやけど、だんだん時間経過と共に何やったんやアレ…?ってじわじわ思てきて…』
「俺じゃなく簓クンに直接聞けばいいだろうが」
『いや、ホント、あの顔…怖かってんて…、…よう聞けへん…』
零は額に手を当てて目を伏せた。一瞬どうしようか迷った。
…が、今回は見送ることにした。
「いやでも悪いがマジで知らないんだわ俺」
『ホンマに?』
「ああ、」
『そうか…』
「ああ」
『実は言うとな、今さっき、直前、簓から今日何時返ってくるん?ってメール来てて…』
「ちょうどいいじゃねえか聞けば。」
『いやほんと、あの顔、気色悪くて…』
「いや、相手あの簓だぜ、な、うん」
『いや、うん…、うん、…うん…』
電話の向こう、盧笙の声はいまいち歯切れが悪い。よっぽど怖い、いや気持ち悪い顔をしていたのだろう。簓が。
ただ元を正せば酔って爆発したのはお前なんだぜ、と零は思った。
『盧笙が、盧笙が、酔って、〝俺もお前みたいにアホみたいに甘えたい時あるわボケカス〟言うて…!どないしょ、なぁ、俺どないしたらええ!?どないしょ…!』
興奮と、感動と、困惑と。あとやっぱり感動と、興奮。
そんな感情とアルコールでごちゃまぜちゃんぽん、大変ラリられた簓から零の元に電話が掛かってきたのは昨夜の1時。
その電話に対して緊急性を感じなかった零は眠かったので『あ、そ、がんばれよ』とだけ言って切った。
が、その後も簓からの実況メールは続いた。
鬱陶しかったので零はスマホの通知を速やかに切って寝た。
あ〜、思い返せば確かに『俺盧笙のお兄ちゃんになるわ』と意味不明なメールは来てたな、そういえば。
いや、簓クンね、大好きな盧笙の前だけじゃなくて、おいちゃんにも心開いてくれたのは嬉しいけれども、お前心開いた人間の前で甘え過ぎじゃねえか?流石にアレすぎねえかお前。…とは零も思ってた。今件に関しては盧笙とも二人で話していた。
が、まさか盧笙、お前も内心甘えたいと思っているとは思わなかった。
えー…。
まぁ盧笙が直接的に俺に甘えてくることはあの簓が絶対許さねえから、え、でもアイツ多分今後も実況はしてくるだろうなぁ、
えー…。
まあ、いいか。
起きたもんは仕方ねえ。うん。適度にスルーでいこう。
あとは若いお二人で…、というやつだ。うん。多分。
「とり、」
考え事タイム終了。零が言葉を発そうと口を開いた刹那、零のスマホが震えた。
ぱっ、と零は黙りスマホ画面を見ると、なんと当の簓からメッセージの通知。ちらりと本文も見えた。〝もしかして今盧笙と喋っとる?〟
「…。」
『零?』
「まあ、甘えたいなら甘えたらいいんじゃねえの。」
『はぁ?』
「とりあえずいつも言ってるが、話し合えって、あ、違え、これいつも簓に言い聞かせてるヤツだ、ま、いいや。話し合え。うん、うん」
『いや話勝手に終わらせよすんな、』
「でもやばくなったらおいちゃんいつでも相談乗るカラ…」
『口調変わってるやん』
「ガンバレー」
零は棒読み丸出しでそう言うと強制的に盧笙との通話を終わらせた。
そしてメッセージアプリを開き、『ほどほどにしとけよ』と簓に送った。
うんうん、ヤッパリあとは若いお二人で…、というやつだ。うん。多分。知らんけど〜ともいうやつだな。まぁどう転んでもハッピーエンドだから多分ダイジョウブ。
でもちょっと盧笙が心配だから明日オオサカ帰るか。…と、零は思った。