コットンブロックベランダの窓を開けて、さむさむ、と思いながら盧笙はカゴの中から洗濯物を取り出した。
出勤前に洗濯機に予約セットし出かけたので、帰ってきた頃には洗い終わった洗濯物が洗濯機の中に用意されていた。
洗濯は水曜の夜、あと土曜か日曜の朝に行う派の盧笙なのであったが、土日は用事と邪魔が入ったのでしかたなく今日、月曜の夜に洗濯物を干している次第だ。
真冬の夜に洗濯物を干すのは寒さが大変堪える。キンキンに冷える手はもはや痛い。早く終わらせたくてテキパキと盧笙は洗濯物を干していく。
ん?と盧笙が違和感を感じたのはカゴの中身すべてを干し終わって、なんとなく干した洗濯物達を眺めた時であった。
『なんか、下着、多ないか?』、と。
いや、〝洗濯物の量が増えている〟ソレ自体は心当たりはある。
盧笙は一人暮らしなのではあるのだが、もうここのところ、同居しているみたいな人間が盧笙には居た。
だから昔に比べて洗濯物、特に柄物派手なデザインの洗濯物が増えた。
その人間は忙しい割にスケジュールの合間を縫っては盧笙の家に現れ、もう1人のメンバーとどんちゃん騒ぎしていく。そして真夜中、3時か4時頃、盧笙はその二人によいしょという掛け声と共に布団に仕舞われる日が週に何度かある。
その後一人は帰り、もう一人はそのまま盧笙の家に大概泊まって朝食を一緒に食べて、盧笙が家を出た後にのんびりと盧笙の家から出ていくのであった。
あと一人しか来ない日もある。
まぁそういう事情もあり、なんやったら?と申し出、盧笙は半年ほど前にホームセンターで衣装コンテナを買い、だいたい派手な柄の洗濯物は畳んでそこに仕舞っている次第なのであった。
なのでまあ洗濯物が多いのは分かる。
ただ、おかしいのだ。
同じ柄・種類の下着が多い。
『いや俺、ちゃんと水曜回したよな洗濯もん…』
と盧笙は思わず指を折って本来想定される下着の枚数を数えた。木、金…
ただどう見ても洗濯バサミで挟まれている下着の枚数は多い。8。8は多い。逆に…
盧笙はそこで一つの可能性が浮かびゾーッとした。
盧笙は普段、下着や靴下をユニ○ロかジ○ユーで購入している。その辺り特にこだわりもない。セールの際に購入しておいた買い置き新品の物もパッケージそのままにタンスの中数点ストックしている。
最近は例の衣装コンテナがあるので機会はほぼなくなったが前は部屋着も貸していたし、タンスの中も普通に触らせていた。
なので、特定は簡単である。
いやでも、でも、いやま、いや、これふつ、いや普通、いや、普通って、……なんや…?
とりあえず寒いので盧笙はベランダの窓を閉めた。
そして震える手で自身のスマホを手に取り、インターネットブラウザを立ち上げ
『下着 共有』
と検索した。
検索結果はページタイトルだけでも見るに賛否両論。
ごくり、と盧笙はつばを飲みその検索ワードにさらにワンワードを追加した。
『下着 共有 恋人』
あー……あ〜〜〜なんとも言えん…!
こういう時は何を信じたらええんやろ、とヒットしたヤ○ー知恵袋のアンサーを流し読みしながら盧笙は悩んだ。
俺は、無いと思う。
でも男女間でもアリって人はアリなんや、女の人が男の下着を…?まぁ逆は変質者やな、でもあれやな、女性が履いたらサイズ的にずり落ちてこうへんか普通?と盧笙は明後日な事を少し考えた。
ん〜〜〜〜…いやでもアレやし別にあいつ不潔な訳ちゃうし、うん、潔癖症なとこ変にあるし、洗濯はこうやってちゃんとしとるわけやし、アタ○クの洗浄力とレ○アハピネスの柔軟性を俺は信じとるし…。
ん〜〜〜〜〜…。
はあ…と盧笙はため息を着いて、メッセージアプリを開いた。
そのまま
『聞きたいことある。から気づいたら電話』
と入力し送信した。
晩御飯も食べ終わり、湯船にも浸かり、HDレコーダーに録画していた番組を流しながらノートに色々と小テストの草案や本日学校で起きたことをカリカリと書いていると、スマートフォンがやっと震えた。
「お前、俺とおそろいの下着ユニ○ロで買うたん」
もしもしも言わせずに開口一番盧笙はそう言った。なにせ相手は天下のしゃべくりのスペシャリストなので、相手のターンに巻き込まれたら煙に巻かれる。言いたいことはまず第一声で、間髪入れさずすぱっと言う。それは盧笙がチームを組んで得た教訓である。嫌な教訓。
『っは、…ウン。』
「ないわ…」
はぁ〜と盧笙は心からため息を吐いた。
「ない、ほんま、ない」
『ロケで行ってんユ○クロ、ファッションコーデバトル。で、あ。って』
「あ。…ちゃうねん、なんで気づくねん」
『いやそれは気づくやろ。俺をなんやと思っとるん』
「変態」
『ちゃう。盧笙マニア。』
「変態の方がまだマシや…!」
『そんな事より今キョウト、お土産なにがええ?ベタに八つ橋?』
「そんな事ちゃうし行こ思たらキョウトはすぐ行けるからいらん!」
『盧笙生八ツ橋派?それともハッカの生やない八ツ橋派〜?』
「話聞け、はぁ、もういっそ全部捨てるか…タダちゃうんやで」
『エー捨てるならちょ』
盧笙は躊躇いなくボタンを押し通話を強制終了した。
そのままなんとなしにベランダの近くに立って、しゃっとカーテンを開ける。
アカン…なんか…
「靴下も多い気がしてきた…」
と盧笙は思わずボヤいた。
硬い八ツ橋をボリボリと齧りながら盧笙はもう何度目か忘れたデコピンを緑色の髪をかきわけその額に喰らわした。
「ッタ!」
と言いながら額も少し赤くなっている癖にそれでもどこか嬉しそうな声色・表情に なんでこいつと付き合っとるんやろ…と改めて盧笙は思った。
『盧笙ってだいたいこの色一択やん』
なんで帰宅して早々俺他人のパンツ見せられたん、と思い出し怒りは収まらずもう一回親指と中指で円を作る。
『やからもうこれどっちのかわからんで』
パチン!
しかしそういう盧笙も見せられた同じ色、同じ種類の下着を履いているのであった。あの電話の翌日盧笙はユ○クロに寄ってみたのだが1枚が590円。ということは2枚で1,180円。3枚で1,770円。…やってられるか。やってられるか。お前みたいに大金稼いどるわけちゃうねんこちとら、と据えた目で盧笙は八ツ橋を咀嚼しながらまた親指と中指で円を作りデコピンを相手の額に喰らわすのであった。