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    2022年10月に発行されました、ディル蛍アンソロジー『夜明けを彩るコンフィズリー』にて寄稿させていただいたお話の再掲載です。読んで下さった方々、ありがとうございました😘
    少しだけ加筆しました。

    #ディル蛍

    ハッピーエンド前線異常なし「漸くディルック殿にも婚約者が!」
    「安心ですね」
    「式の際には是非とも……」

     ちょっと何を言っているのかわからない。

     婚約者? ディルックさんに? 誰が? イメージが全くもって湧かない。よくわからないが多分美人だろう。ホールに入るや否や、急に大量の視線が蛍とディルックに注がれると、ドドドドッと地鳴りかと思うくらいに音をたてて駆け寄って来て浴びせられた言葉の嵐。いきなりのことに蛍は状況を吞み込めない。周りを取り囲む人、人、人。パーティーとはもっとお上品で華やかなものかと蛍は思っていたし、このような名だたる人物や権力を有した一族等が集まるこのパーティーなんて、蛍が抱いていた「おパーティー」像の権化であるはず。口々に詰め寄る人の群れとディルックを目が回るほどに交互に視線を動かすしかない。想像と違った光景に全然ついていけていない蛍だが、ここに来る前にディルックに言われたことを、ただ、ただ、頭の中でもう一度唱えた。



    「おはようございます、旅人さん」
    「おはよう、キャサリン」

     冒険者協会のキャサリンのどこか無機質さを感じる声も、今や蛍にとって、完全に当たり前のことで、今日一日の自分を調子付けるもの。ちょっと違うかもしれないが、モーニングルーティーンと言ってもいいかもしれないと密かに蛍は思っている。テイワットが科学技術の進歩している世界ならカメラをまわして動画を撮って、アップロードしたいくらいに。旅人蛍のVLOG(ちっちゃな非常食付き)うん、結構いい線いけるかもしれない。バズるに違いないとパイモンにも提案してみたものの「ぶい、ろぐ? ってなんだ?」とピンとこない様子で返され、お決まりの「非常食じゃない!」もいただいた。こういうのこそ撮りたいのに。と一人蛍は残念がっていたが、ここは外で、そしてキャサリンの前だと思い出していつもの調子を取り戻す。

    「今日の依頼は何がある?」
    「本日はアカツキワイナリーさんから旅人さん宛に依頼がございます」
    「ワイナリーから名指しで? へえ、珍しい。うん……掃除、とか?」
    「はい。建物内の掃除を手伝ってほしい、とアデリンさんから」

     アカツキワイナリーからの依頼だから安心だ。と、蛍が断るはずも無く、もしかしたらおいしいおやつをご馳走してくれるかもというパイモンの一声にここだけの話、影響されてしまったことも大きい。依頼者のアデリンは既に準備して待っているとのこと。蛍たちは足早にワイナリーに向かう。おいしいおやつと紅茶のために。

     ワイナリー前の綺麗に整備された石畳を、どこかの世界でいつか見た、やり手のOLよろしくカツカツと音を鳴らして蛍とパイモンがワイナリーの前に姿を現す。モンドの酒造業界を牛耳っているアカツキワイナリーのベテランメイド長様からの依頼だからだ。キメて登場するっていうのがスジってもんよ、と顔で語る旅人と空飛ぶ非常食。キャサリンの言っていた通り、既にアデリンは玄関前に立って蛍たちを待ち構えていた。さすがはモンドの酒造業界を牛耳っているアカツキワイナリーのベテランメイド長。立ち振る舞いは一級品。 

    「旅人さん、依頼を受けて頂きありがとうございます。」

     ではさっそく。と、どこからかアデリンが取り出したのはメイド服。モコやヘイリー、その他ワイナリーのメイドと同じもの。唯一違う点は30デニールの黒タイツ付きなことのみ。厚すぎず、かと言っていやらしいほどに薄くもない、男性人気の高い絶妙な厚さのタイツはいったい誰のチョイスなのか。

    「建物内の掃除なんだよね。人手不足なの?」

     見たところ心なしかいつもより人が少ない気はするが助っ人を呼ぶほど人手が足りていないようには見えない。

    「確かに今日はいつもよりか人員が少ないです。しかし人手が足りないからと今回お呼びしたわけではございません」
    「え? じゃあなんで」
    「建物内の掃除をして頂く、と私は申し上げましたよね」
    「うん」
    「本日旅人さんが掃除していただくのはディルック様のお部屋です」
    「ディ、ディルックさんの、お、おへや。お部屋……」

     てっきりホールだとか使われていない空き部屋、任されたとしても書斎が限度だと蛍は思っていたものだからまさかのお部屋担当に驚き、壊れたロボットみたいに途切れ途切れで復唱する。知り合い(異性)に部屋を掃除されることは恥ずかしくないのだろうか。ベッドの下に見られたくないものが隠されているかもしれないじゃないか。いや、高貴なうまれの人は人にやってもらうことが当たり前だろうから慣れっこなのだろうか。しかし蛍の知る限りのテイワットの高貴な人々にそのようなイメージはあまりないので、この考えでは納得は出来ず。そもそもディルックが自身の部屋を蛍に掃除されることを知らない可能性だってある。知られてしまったらどうしよう。本当に大丈夫なのか。蛍の心にぽとりと一滴墨汁を落とす。アデリンが言うのだから無用な心配だとは思うが、何となく気が引けることは事実。顎に手を当て難しい顔をした蛍を見てアデリンは「安心してください」と一言、メイド服を蛍に渡して言う。訝しげに「本当に?」と聞く蛍にもう一度アデリンは口を開く。

    「旅人さんの配属はディルック様直々にお決めになられました」

     ですから旅人さんは何もお気になさらず、とまたもや耳を疑う衝撃の一言。ベッドの下から見ちゃいけないものが出てくるとかそういった次元の話は全くありえないことになる。先ほどまでの不安な気持ちはどうすればよいのだろう。

    「そ、その、まだ疑問が残ってる。人手不足で呼んだわけじゃなかったんだよね。その理由は?」
    「ディルック様が信頼なさっているお方ですから」
    「理由になっていないような気がするよ」
    「まさか。ご存じの通りディルック様はお強いですがやはり何かしらの陰謀などにより身を狙われる事もあるお方。そのような人物の自室に入れる人間などごく少数。そうでしょう? 『ほたる』さん」

     有無を言わさぬその物言いに、蛍の何か言おうという気は消え失せた。まあ、仕事内容は悪いわけでもないし、もともと依頼を受けるつもりで来たのだから。ディルックさんが信頼してくれているのならそれは素直に嬉しい、と了承し、案内された更衣室でメイド服に着替える。鏡の前で一回転、ひらりと翻るスカートは乙女のあこがれが詰まっている。

    「夕方ごろディルック様はお戻りになられます。では、よろしくお願いいたします」

     なにかお困りごとがございましたらお呼びください。と言い残し、ディルックの部屋の前には蛍ひとり。パイモンはブドウ畑の方へ星屑を散らした。

    「……よし」

     頬を両手でぱちん。一回深呼吸。

    「し、失礼します」

     キイ、と音を立ててパタンと閉める。いつも無意識にしているそんな動作も今日はまた違った面持ちである。本日の第一歩、部屋に足を踏み入れると先ずは窓。カーテンをシャッと軽い音をさせて日光を取り入れ、窓を開ける。掃除を始めるための下準備は完了。はたきをもってほこりを落とす。高い所から掃除をするのは基本。蛍の頭にはしっかり入っている。全体のほこりを落とし終わったら箒で掃き掃除。もちろん雑巾がけも忘れてはいない。限界まで硬く絞った雑巾で拭いていく。ちなみにベッドの下には何もなかったし、女性モノのピアスが片方だけ……なんてことも当然だが無い。

     しかし、ほんとうに今日蛍が掃除する必要があったのかというくらいに元からディルックの部屋は綺麗にされていた。蛍が掃除を開始する前に、窓のフチを指でツツ……と滑らしてみても、目を凝らしに凝らして、うっすらほこりがついているような、いないような。自分の部屋なら絶対掃除しないレベルだと、なんというか、基準の違いにおののく。まあ、モンドの三大貴族、ラグヴィンドの当主の部屋なのだからそういうものか、と蛍は納得することにした。

      *

    「ディルックさんの部屋の掃除、終わったよ」
    「お疲れ様です。チェックさせていただきますね…………はい、大丈夫です。流石ですね」
    「流石だなんてそんな。元々綺麗だったから、わざわざ私が掃除するまでもなかったよ」

     すこし冗談めかして言う蛍に、そんなことはないと否定するアデリン。この会話が理由なわけではないが、やはりアデリンはどこかつかめない雰囲気があるような気がする。その後、まだ終えるには早いからと蛍は各所を手伝ってまわった。ワイナリーの運搬する荷物を狙った魔物をメイド服のまま蹴散らしたりもした。いつのまにか、眩しすぎる西日が目を突き刺す時間になっていた。何はともあれ、今日の仕事はこれで終了。メイド服から七国のどこの特徴とも違う、普段の白い服に着替える。

     着替え終わり、いざ帰ろうとしたところにちょうどタイミングよくディルックがワイナリーに戻ってきた。せっかくだから一緒に食事をとのことで、せっかくの誘いなのだからと――食費が浮いてラッキーだ――パイモンと顔を見合わせてにっこりして快く返事をした。

    大人数でにぎやかな食事の場も大好きだけれど、静かにゆったり時間の流れる今のこの、蛍にとって信頼できる大人の男性である、ディルックとの食事の時間は心地よくてもっと好き。急にすまない、不便はなかったか、と尋ねてくるディルックに、そんなことはないと今日の依頼の話はそこそこに、暫し食器の音だけが耳に入り、蛍はナイフと皿がこすれて嫌な音がしないように、より一層注意を払って肉を食べやすい大きさにカットする。幸い、いや、流石というべきだろう。肉はとても柔らかく、スッとナイフが入って口のなかでもまたスッと蕩けていった。パイモンも背の高い椅子に座って大きな口でぱくり、ぱくりと進める。食べることに集中しているらしい。一方、ステーキに添えてあるポテトって大体美味しいんだよねと思いつつ、黙々と目の前にあるごちそうを堪能し尽くしている蛍を見てディルックは満足そうな表情をした後、再び口を開く。

    「よければ明日、同じ時間に来てくれないか。また手伝ってほしい」 

     驚いたことに、ディルック直々に明日の依頼をされてしまった。二日連続で同じ場所、同じ時間ということはないこともないが……といった具合なので、面食らいつつも、蛍は二つ返事で了承の言葉を述べる。

    「それで、明日は何をすればいい? 掃除?」
    「ああ、それはまた明日伝えるよ。気にしなくていい。君にとって難しいことじゃないから」
    「………そうなら、まあ、大丈夫か。明日も頑張るよ。ごちそうさまでした。ありがとう、ディルックさん」
    「うん。おやすみ、旅人」

     今日のステーキ、肉は勿論だけど、ソースもおいしかった。あのソースの正体はいったいなんだろう。とパイモンと語りつつ、明日のことを考える。あの場で仕事内容を教えてもらえなかったのはなぜだろう。いや、まあ明日になったらわかることなのだから。別にいいといえばいいのだけれども。まだ何をするのか決めていないようには見えなかった。特別気にすることでもないけれど、なんだか気になることを悶々としながら歯を磨く。蛍は後々、この日は歯磨きに相当時間を食ったな。とふと思い返すほどには長い歯磨きだった。

      *

     次の日、朝。ワイナリーに着いた蛍が渡されたのはスカート丈の長いクラシカルな雰囲気のメイド服だった。昨日は膝丈くらいのスカートだったのに。昨日と今日で全く違うタイプのメイド服を渡すお屋敷なんて聞いたことがない。

    「おはよう、ディルックさん。これ、昨日と違う形なんだけど………」

     そういって蛍はディルックの前でくるりと回ってみせる。くるぶしあたりまであるスカートはメイド服でありながらちょっぴりお姫様感みたいなものも感じられていいなと蛍は密かに思う。

    「昨日の服はアデリンが用意したものだ」

     ディルックのその言葉を聞いて「え、じゃあ今日のは?」と反射的にこぼれそうになったが、なんとなく聞かない方が空気的にいいかもしれない、と蛍は口をきゅっとしめる。



     ディルック付きのメイドをすることが今日の蛍の仕事だった。そのような立ち位置のメイドなんていただろうかと蛍は疑問に思い聞いてみたが、短く「いや、」とだけディルックに返され、少々曖昧だが「いない」ということでいいだろう。しかし、ディルック付きのメイドとは具体的になにをするのだろう。秘書みたいなものだろうか。行く先、行く先様々な場所について行ったりするのか。お供させてもらうぜ旦那と意気込んで聞いてみればなんと今日は書類仕事ばかりだという。外に出歩くような仕事は昨日の時点で終わらせてきたらしい。

     延々と書類を片付けるディルックの横にずっと立っている。やることがないから、おのずと蛍の視線はディルックの方へと引っ張られる。窓から入ってくる日光がディルックの綺麗な赤い髪をきらきらと輝かせる。切ったりしないのかな等とディルックを見ながら適当に考えを巡らせる。

    「そんなに見つめられると困る」
    「えっ、あ、ごめんなさい。つい」
    「僕をみるのはいいけれど、きみ、ずっと立っているだろう。そこに座るといい」

     そういって目の前の赤いしっかりした、いかにも座り心地のよさそうな椅子を指す。給料をもらっている以上、何もしないことは憚られたが結局ディルックの圧力に負けておとなしく座る。だが、十分程経つとそわそわしてくるもので、耐えられなくなった蛍は「お茶の時間にしよう」とディルックに言って部屋を出る。近くにいた他のメイドにお願いすると快く茶葉やポット諸々を用意してくれた。それらを持ってまたディルックのいる部屋に戻る。ドアの開閉音に気付いて顔をあげたディルックに蛍はポットを持ち上げ、自身の顔の横にもっていき、にこりと微笑む。

     先ほど用意してくれたメイドから教えてもらった紅茶の美味しい淹れ方を実践する。改めて、今日は一日ほぼ二人きり。熱湯の中で茶葉がジャンピングするみたいに、こんなの柄じゃないのに舞い上がってしまったり、鼓動がいつもより激しくなっているのは一体どちらなのか。いや、双方同じなのかも。

    「……どうぞ」
    「ありがとう」

     簡素な会話だけ交わしてディルックは蛍の淹れた紅茶を飲む過程に全く音を立てなかった。紅茶を飲むだけなのに、洗練され尽くしたその仕草は蛍の視線を縫い付けさせた。上下に動く喉仏を見て、この人、紅茶飲んだんだ。とやっとわかった。

    「どうかな。もちろん、プロとかじゃないから、ディルックさんがいつも飲んでいるのには劣るけれど」
    「そんなことを言う必要はないよ」

     妙な気分になって普段よりも早口気味で饒舌に喋る蛍を見て、カップを置き、ディルックは目を細めて言う。なんだか調子がくるってしまうことを自覚せざるを得ない。これから先、蛍の記憶に住み着くであろう不覚の出来事。

      *

     それからというもの、ワイナリーに行くことが日常化していた。ただ顔を合わせるだけの日もあれば、手伝う日も多かった。時にはディルックと共にアカツキワイナリーやラグヴィンド家の帳簿の確認という、私に見せていいの? と蛍が焦るような内容もあった。大丈夫かとディルックに聞いても問題ないと返ってくるだけで、尚更混乱するだけで無駄な質問だった。

     ディルック・ラグヴィンドが婚約したらしく、次の夜会に連れてくる。という噂がまことしやかに囁かれている。しかし蛍は大事な友人のそんなビッグニュースを知らずにいた。昼過ぎにワイナリーを訪れた時、ディルックに今週末開かれる夜会にパートナーとして一緒に出席してほしいと言われて快諾したのも蛍が知らなかったからだった。

     ディルックから手渡された、落ち着いた赤をベースに黒のレースが美しいドレスを身に着ける。メイクもしてもらって、明らかに普段と違う姿に自分なのに、不思議な気持ち。ディルックのエスコートを受けて会場前に到着すると似合っているとディルックが一言。蛍が照れながらも礼を言うとまた言葉を紡ぐ。

    「今日、少なくとも夜会の間は僕から離れないでくれ」
    「えっ」
    「きっと君にはあまり馴染みのない話ばかり連中はしてくるだろう。僕が傍にいれば君が厄介を被ることはないからな。僕に任せておけばいいさ」
    「お、あ、わ、わかった。ありがとう。そうさせてもらうね」
    「うん」

     ディルックが言った通り、会場に入った途端勢いよく人が押し寄せる。色々な声が聞こえてきたが、大体言っている内容は同じ。「ディルックに婚約者ができたこと」「しかもその婚約者が栄誉騎士であること」目が回る。頭がフリーズする。しかし聡い蛍は今日ディルックが自分をここに連れてきた意味を理解した。「女除け」に自分を偽の婚約者にしたのだと。確実にこの前暇つぶしに読んだロマンス小説の影響だろうが、蛍はそうだと信じて疑わなかった。先ほどディルックが言ったこともこれが理由だと思い、困っているなら助けないと精神で混乱は何処、ノリノリで蛍は演じる。

    「はじめは、まあ、その普通の友人だったのですけれど、次第に彼の強さ、時折見せる優しい部分にいつのまにか惹かれ……まして」

     もじもじとしながらのろけた後にディルックの腕にしがみつき、恥ずかし気に微笑んで見せれば女性陣の黄色い悲鳴が鳴り響く。我ながら名演技だと心の中で胸を張る。

    「それで! 告白はどちらから?」
    「ないしょです」
    「まあ!栄誉騎士ったら! うふふ」

     蛍の変わりように目を丸くしつつもディルックは対応を続ける。状況把握力と順応力が仇となり自ら手中に収まりにくる蛍。湧き上がる歓喜。ここまでとは予想だにしなかった。

     この夜会を機にモンド中にディルックと蛍の婚約は広まった。以前の、婚約したらしいという噂はあくまでも一部の、夜会に出席する上流階級だけに広まっていたものであった。あの栄誉騎士なら申し分ないとモンド中が肯定ムードで包まれている。

    「そういえば、ディルックさん。私たちの婚約の噂はどうするの? 本当に婚約してるわけじゃないんだから。ほとぼりが冷めるまで待つの?」
    「噓から出た実」
    「え?」

     つまり、そういうことは。ワイナリーに通うきっかけ、最初の噂、エトセトラ。

    「最初からそのつもりだよ」
    「は……?」
    「だから……僕は最初から、その……君と、うん、婚約を、したくて」

     空いた口が塞がらない蛍はコホン、と恥ずかしそうに咳払いをするディルックを呆然と見つめる。というか、ダマされた大賞みたいな壮大な婚約計画を企てた癖にこんなことで恥ずかしそうにするのか。

    「えー、信じられない。だからってそんなことするの、ディルックさん」
     
     どんな手口だよ、と突っ込みを入れるとディルックは更にまた恥ずかしそうにして、指で髪を弄ぶ。

    「本当なら、もっとちゃんと手順を踏んでよ」
    「……そうだよな。すまない」

     恥ずかしい心を取っ払って、ディルックは髪を整えて深呼吸ひとつ。今度は蛍が目をそらす番だった。

    「僕と、結婚してください」
    「……あの」
    「目を逸らさないで。君の返事を聞かせてくれるか」
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    hhaannoo0011

    PAST2022年10月に発行されました、ディル蛍アンソロジー『夜明けを彩るコンフィズリー』にて寄稿させていただいたお話の再掲載です。読んで下さった方々、ありがとうございました😘
    少しだけ加筆しました。
    ハッピーエンド前線異常なし「漸くディルック殿にも婚約者が!」
    「安心ですね」
    「式の際には是非とも……」

     ちょっと何を言っているのかわからない。

     婚約者? ディルックさんに? 誰が? イメージが全くもって湧かない。よくわからないが多分美人だろう。ホールに入るや否や、急に大量の視線が蛍とディルックに注がれると、ドドドドッと地鳴りかと思うくらいに音をたてて駆け寄って来て浴びせられた言葉の嵐。いきなりのことに蛍は状況を吞み込めない。周りを取り囲む人、人、人。パーティーとはもっとお上品で華やかなものかと蛍は思っていたし、このような名だたる人物や権力を有した一族等が集まるこのパーティーなんて、蛍が抱いていた「おパーティー」像の権化であるはず。口々に詰め寄る人の群れとディルックを目が回るほどに交互に視線を動かすしかない。想像と違った光景に全然ついていけていない蛍だが、ここに来る前にディルックに言われたことを、ただ、ただ、頭の中でもう一度唱えた。
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    hhaannoo0011

    PROGRESSワードパレットで募集したやつ
    #鍾蛍
    書きかけでここから🔞になるよてい
    絡み合う指 背伸び 彼好み「ああ、ちょっと。君はまだ飲めない年齢だろう。これはお酒だよ」
    「あ、そうだね......はは、危ない危ない」
    璃月のとある飲食店で飲み物を頼もうとしたらお酒だったらしく、問答無用で頼めなかった。もう覚えてないし、世界を渡るごとに世界の時間の流れもまた違うから、正確な時間も分からないので定かでは無いが蛍はテイワットに来てから五百年程経過している。見た目はうら若き少女だが、テイワットで過ごした(封印されて眠っていた時間有り)時間分蛍の年齢が加算されているとすれば、蛍は最低でも五百歳である。ただ、蛍の身体の成長は普通の人間よりも格段に遅いのかもしれないし、五百歳などという通常の幅を超えた訳の分からない年齢を盾にしてお酒を飲ませろと主張するのも何か違うような気がする。ある程度の年齢を超えたら実年齢よりも若く見てもらいたいと思うが、蛍の見た目年齢はそこまで行っていないし、蛍の見た目年齢くらいの年の子なら、少し大人っぽく見てもらいたいと思う子の方が多い。蛍も例に漏れない。大人っぽく見て貰えた方がどちらかと言うと嬉しい。事実、宝盗団やエルマイト旅団の奴らは蛍を見ると「なんだこのガキ」と言うことが度々ある。その度に蛍は実力で「分からせて」きた。
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    hhaannoo0011

    PAST2022年10月に発行されました、ディル蛍アンソロジー『夜明けを彩るコンフィズリー』にて寄稿させていただいたお話の再掲載です。読んで下さった方々、ありがとうございました😘
    少しだけ加筆しました。
    ハッピーエンド前線異常なし「漸くディルック殿にも婚約者が!」
    「安心ですね」
    「式の際には是非とも……」

     ちょっと何を言っているのかわからない。

     婚約者? ディルックさんに? 誰が? イメージが全くもって湧かない。よくわからないが多分美人だろう。ホールに入るや否や、急に大量の視線が蛍とディルックに注がれると、ドドドドッと地鳴りかと思うくらいに音をたてて駆け寄って来て浴びせられた言葉の嵐。いきなりのことに蛍は状況を吞み込めない。周りを取り囲む人、人、人。パーティーとはもっとお上品で華やかなものかと蛍は思っていたし、このような名だたる人物や権力を有した一族等が集まるこのパーティーなんて、蛍が抱いていた「おパーティー」像の権化であるはず。口々に詰め寄る人の群れとディルックを目が回るほどに交互に視線を動かすしかない。想像と違った光景に全然ついていけていない蛍だが、ここに来る前にディルックに言われたことを、ただ、ただ、頭の中でもう一度唱えた。
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