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    5oma_n

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    支部から移行のモブ視点🦍🦇のとある夜の話。短め。

    「良い夜ですね、お嬢さん」

    満月の浮かぶ夜、私はひとりの吸血鬼と出会った。
    その日私はどうにも腹に据えかねたことがあり、着の身着のままで家を飛び出したのだった。
    点々と街灯が照らす公園の片隅、古ぼけたベンチに所在なく腰掛けているところに声をかけられた。夜更けに薄着の女がひとりでいるのを、不審に思ったのだろう。しかし吸血鬼は驚く程に紳士だった。羽織っていたマントを肩に掛けてくれたのだ。

    「お寒くありませんかな」

    少々口数の多い吸血鬼だったが、大変な聞き上手だったので、私はつい色々と話をしてしまった。
    主人は出張や残業続きで家にあまり居ないこと、年頃の娘との付き合い方に悩んでいること、会話が少なくなってしまったこと、最近物忘れが多くなってしまったこと。日々苛立ちが募ってしまうこと。
    そんなことを、私は初対面の吸血鬼に洗いざらいぶちまけてしまったのだ。

    「えぇ、えぇ。わかりますとも。私に子はおりませんが、そうやって何もかもを当たり前のように思われては、時に嫌になってしまう日もありましょう」

    その日の娘は、特に虫の居所が悪かったのだろう。普段よりも少々手抜きをした弁当に対して、帰宅早々文句を言われてしまったのだ。もうちょっと見栄え良くしてよ。なにこれみっともない。叫ぶような娘の文句に、何かがぷつりと切れてしまった。

    「お嬢さんは大変聡明でお優しくていらっしゃる。娘さんに何かひどいことを言う前に、自分がその場を離れるという選択をされたのでしょう」

    そういうのをアンガーマネージメントと言うのですよね、と吸血鬼は笑った。

    「己の怒りを他人にぶつけず、ご自身で管理されておられる。これは素晴らしいことですよ。私の同居人に教えてやりたいくらいだ」

    聞けば、その吸血鬼は天敵というべき退治人と生活を共にしているらしい。私が驚いていると、高等吸血鬼は人間に友好的で、人に仇なす下等吸血鬼や悪しき同胞とは全くの別物なのだと教えてくれた。

    「いやぁ実に短気な退治人なのですよ。私は元来悪戯好きなものでしてね、日々小さな悪戯をするのですが、まぁそのひとつひとつにとんでもなく怒るのです。私のようなデリケートな吸血鬼はそのたびに怯えて部屋の隅で小さく」
    「誰がデリケートだって?おい」

    ベンチの背もたれから乗り出すようにして姿を見せたのは、真っ赤な服に身を包んだ美しい青年だった。どなたかしら、と思っていると、その青年の隣に娘の姿があることに気がついた。お母さん!と叫んだ娘に、飛び付くようにして抱き締められる。

    「娘さんが、お母さんが居なくなったと慌てておられましたので、少しばかり協力をしていたのです」

    つまらぬ話でしたが、足止めにはなったようですね。月明かりを浴びた吸血鬼が、悪戯っぽく笑みを浮かべる。つまらないなんて、そんな。話を聞いてもらったこの数十分で、私は随分と救われた。何度も頭を下げる娘と共に、私もふたりに礼を述べる。
    またいつかお会い出来る日を。ばさりとマントを翻した吸血鬼は、退治人だという青年と共に去っていった。















    「あ~、見つかって良かったぁ……お前、見つけたらすぐ連絡しろよ!」
    「そんな事して警戒されでもしたら意味が無いだろう。あぁほら、ヴァミマ寄らないで良いのかい」

    元々ふたりの目的は、コンビニに寄ることだった。原稿に取り掛かるロナルドが栄養ドリンクが飲みたいとボヤき始め、仕方ないなとドラルクが買いに出ようとしたところ、息抜きに外に出たいからと結局ロナルドともにヴァミマに向かう途中のことだった。
    息を切らし狼狽した女性に、母を見なかったかと尋ねられたのだ。
    聞けば認知症が進行しつつあり、少し目を離した隙に家から出ていってしまったのだと言う。最近は怖くて火を使わせないようにしていたが、弁当を作らねばと言いながら台所に立っているのを注意した矢先のことらしい。私はもう独り立ちして長いのに。肩を震わせるその女性をそのままにしておけず、ふたりは彼女の母の捜索を買って出たのだった。

    「なんか俺の文句言ってなかったか」
    「ああいう時はねぇ、共感が何より大事なんだよ」
    「……」
    「なに」

    コンビニのカゴの中には、本来の目的であった栄養ドリンクの他、ジョンのおやつだの夜食の追加だのと言いながら色々なものが詰め込まれていく。そんな中、何事かを言い淀むロナルドを覗き込む。また要らんことを考えているな。その眉間の皺を、ドラルクの長い指がぐりぐりと伸ばす。

    「共感したのかよ?」
    「ん?あぁ、そうだね、多少はね」
    「お前、……で、出ていきたいとか、思ったこと、……」

    あるのかよ、と消え入りそうな声で呟かれ、ドラルクはその眉間を指で弾いてやった。残念ながら指が負けて砂になってしまったものの、少しばかりは痛みを与えられたらしく、ロナルドの顔が歪む。

    「なんッ……!」
    「当たり前のように思われるのが癪な時もあるけどね。それが心地良いっていうのも、もちろんあるんだよ、ロナルド君」

    だから精々掴まえておくんだね。
    そう言って、ドラルクは先程月明かりを浴びていた時と同じように、悪戯っぽく笑みを浮かべたのだった。
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