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    verderven

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    verderven

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    チェの白黒だった世界に色を教えたのが、白でも黒でもない灰色の男モじさんだったらいいなという話

    #モクチェズ
    moctez

    灰に濁る――曖昧な男だと思った。
    白でも黒とも判別できず、見る角度によってもそのさまを変える。しかし「どちらつかずで半端だ」と断じるには早計に感じる、不可思議で曖昧な男だと思った。境界もなく混ざり合い、ひどく流動的で、掴まえようにも指の隙間からすり抜けていく。そのくせ常に周りに漂い、戯れるように腕の中へ招かれる軽薄さもあるのだから、気が散って仕方がない。やがてそれは確かな濁りに成った。どこにいても、何をしていても、視界の端にその姿をとらえてしまう。そのようにさせられた自分自身にさえ腹立たしくて更に濁りが渦巻き、吐きそうなほどの衝動が腹で煮えた。頭痛がする。左目が灼かれるほどに熱い。その一挙一動全てが癪に障る。私の幻影を想起させて、心が大きく波打った。そんなことは、許されないのに。私の心はもう二度と騒がされたりしないはずなのに。あの幻影を引き裂いてやるまで、決して。許されてはいけないはずなのだから。
    だから、暴いてしまいたかった。黒く陰るその歪なその仮面の下を。白い善意が真の虚構か否か。黒き醜怪な音色が幻聴か否か。誰から見ても明白になるよう、白と黒を断じるために。一度黒く濁れば二度と純白たり得ない、本性という名のキャンバスを見たかった。彼が何者であるか明確に掴むための、その輪郭を。そうすれば私の手中で糸を通して操るが如く、望むままに物事を導く駒として扱える。
    あァ、早く落としてしまおう。狭間にぶら下がる、地に足のつかない浮ついた男を。あの歪な作品に、せめて美しくラッピングをしてしまおう。そうしたらきっと、もう心を揺さぶられることはない。枠で囲って形を整えラベルを貼って、心の戸棚に整理をつけられる。その表紙をどのような黒色に彩るか、それさえ見極めてしまえれば。
    あァ、落ちてこい。この私の手の中へ。黒白を曖昧にさせるなど許さない。一度黒に染まればもう裏返ることは出来ないのだから。落ちて来い。盛大に迎えてやるから、お前もここへ落ちてこい。――モクマ・エンドウ。

    「それで、勝手に盗み見た私の日記の感想はいかがですか? モクマさん」
    真っ暗な部屋の隅でギクリと肩を震わせたモクマさんが、腑抜けた顔で振り返る。そして、にひら、と破顔した。
    「えへへ……いやあ、熱烈な告白を受けてるなあ、と。ちょいと照れちまったよ」
    「これを告白ととりますか……」
    モクマさんが読んでいたあたりに何を書いたかは覚えている。おおよそ、そのように受け取られるものではないと思うが。しかしモクマさんは私の声音を気にすることもなく、しゃがみこんでいた体を立ち上がらせながら言葉を続けた。
    「違うの?」
    「……今となっては、ノーでもあり、イエスでもありますね」
    「それで?」
    モクマさんが私の日記を片手に近づいてくる。ニコニコと笑みを浮かべながら、入り口近くの扉にもたれていた私へと日記を差し出した。
    「俺に読ませたっちゅうことは、表紙の色が決まったから聞いてほしいってことだろう。俺は何色に製本されたんだい?」
    「フ、……バレてしまいましたか」
    「そりゃあ天下の仮面の詐欺師が、こんな自分自身をさらけ出すようなものをホイホイ人に見つかる場所に置いとかんでしょ。それも、おじさんとお前さんしか入れん部屋のベッドの枕の下なんて、クリスマスのプレゼントみたいな場所にさ」
    「……フフ。自分で仕込んだこととはいえ、少々気恥ずかしいですね」
    日記を受け取り、私はモクマさんの胸を押して部屋に入った。奥に申し訳程度に置かれた簡素なベッドに腰掛ける。本日限りの隠れ家の安いベッドが、ギシッと音を立てた。試すような声が、私の思う言葉を形作る。
    「聞きたいですか?」
    「……聞かせてくれる?」
    目を伏せた。暗く閉じた私の中へ、柔らかく声が響く。そのメロディが非常に心地よくて、吐いた息は熱かった。零れそうな感情もそのままに、私は相棒に返答をする。
    「……あなたの表紙は黒でも白でもない。……灰色でした」
    目を閉じていても、その表情が浮かぶ。きっと一度驚いたように目を見開いたあと、どこか困ったようにも見える笑みを浮かべているだろう。そしてそこから、温かな音が紡がれる。
    「なるほど、灰色かあ」
    「……」
    「灰色……、灰、ね。"死灰また燃ゆ"か。いいね」
    私を見下ろすように、正面へ気配が動いた。片足を乗せたのか私の左側でベッドのきしむ音がする。頬に手が添えられて、その温かさがじわりと私へと滲んだ。その手を包み、息を吐く。
    「……黒か白かを判じてきた私の世界で、そのどちらでもない者など周りにはいなかった。それも、濁りくすんだ色ではなく……風味のある独特な色だと思えるなど」
    「そっか」
    「私自身も黒く濁ってしまったはずの身でした。黒く染みてしまっては、もう二度と取り返しはつかない。一度濁ればそれまで……そのはずでしたが、どうやら違うようだとあなたが教えてくれた」
    「うん」
    目を開けた。想像以上に近い場所から見下ろしていたその灰色の男は、微笑んでいた。ギシ、ときしむ音が大きくなる。大きな手のひらが私の視線を押し上げた。真っ直ぐ覗く瞳に、闇と光を見る。
    「俺からすれば、お前さんは本当に精彩に富んでるよ。黒でも白でもなくね」
    「……そう感じるのなら、ご自分の功績をどうぞお喜びください。私のモノクロの世界に色を差したのはあなただ。隣で見る景色は、いつも本当にカラフルですよ」
    「そいつは光栄だ。でもそれこそ、灰色でもいいと言ってくれる最高の相棒のおかげだよ。ありがとね」
    照明のない薄暗い部屋で、窓から差し込む外のネオンの光に伸びた影が重なる。きらびやかな世界の裏で、今はただ二人だけの世界に身を浸した。
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    DONEモクチェズワンドロ「ビンゴ」
    「あ……ビンゴ」
     もはや感動も何もない、みたいな色褪せた声が部屋に響いて、モクマはギョッと目を見開いた。
    「また!? これで三ビンゴ!? しかもストレートで!? お前さん強すぎない!? まさかとは思うが、出る目操作してない!?」
    「こんな単純なゲームのどこにイカサマの余地があると? 何か賭けている訳でもないのに……」
    「そりゃそうだが、お前さん意外と負けず嫌いなところあるし……」
    「……」
    「嘘です……スイマセン……」
     ため息と共に冷ややかな視線が突き刺さって、肩を落として、しくしく。
     いや、わかっている。療養がてら飛んだ南国で、早二週間。実に何十年ぶりという緊張の実家訪問も終え、チェズレイの傷もだいぶ良くなり、観光でもしようか――とか話していたちょうどその時、タブレットがけたたましく大雨の警報を伝えて。もともと雨季の時期ではあったけれど、スコールが小一時間ほど降ったら終わりなことが多いのに、今回の雨雲は大きくて、明日までは止まないとか。お陰でロクにヴィラからも出られなくて、ベッドから見える透き通った空も海も(厳密には珊瑚で区切られているから違うらしいが)もどんより濁って、それで暇つぶしにとモクマが取り出したのが、実家にあったビンゴカードだったのだから。ゲームの内容を紹介したのもさっきだし、数字はアプリがランダムに吐き出したものだし……。
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