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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
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    palco_WT

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    神田×外岡ツーリング旅。

    ぼくらが旅に出る理由4 トンネルを抜けるとそこは雪国だった。
     というのは現国の授業でも聞いた有名なフレーズだったが、神田の繰るバイクでトンネルを抜けた先に拡がっていたのは大きな湖だった。
    「ほえー」
     思わず間抜けな声を出してしまうほどに、壮観だった。
     冗談みたいな青く澄んだ湖面に、色づき始めた広葉樹が映え、例えるなら高校の廊下に飾ってある有名な画家の複製絵画のような光景だった。
     その声を聴いてか、神田の広い背中が笑いに波打つ。
     途中、外岡が聞いていた目的地を指していた標識とは別の方向へ神田がハンドルを切った時は、道を間違えたのだろうかと一瞬だけ思ったが、そんな疑問は一瞬でかき消えてしまった。
     もう使われていないらしい、立ち入り禁止と出入り口に掲げられた展望台の駐車場に、神田はバイクを停めると途中のコンビニで買ったジュースを外岡に手渡す。
     それはほうじ茶ラテで、神田の気遣いに、外岡はへらりと笑った。
    「こういうのを絶景って言うんスかね」
     雨季になれば水位もあがって深く沈んでしまうであろう中洲には、外岡の知識では分からない、ふわふわとした風情の枝を伸ばした樹木もたくさん生えていて、それがこの深い青の湖水に浸ったならどんな風に見えるのだろうと思った。
    「三門にも山はあるけどこんなに標高は高くないからな。みかん山のてっぺんとは違うよな。……酔ってないか?」
    「大丈夫ッスよ」
     三十分以上のワインディングロードだったろうか。片側一車線のトンネルに入るまでに、バイパスから外れ、旧道らしい古びた道をくねくねと上がる道は確かに多少振り回される感じはあったが、それでも気分が悪くなるようなことはなかった。たぶん、神田は丁寧に運転してくれていたのだろう。
    「ここ、昔は人が来てたんでしょうね」
    「うん」
     道の途中で伸びた雑草に埋もれるようになった、〇〇山ラインビュースポットという錆が浮いた看板があった。
    「今は向こうにバイパスが出来たらしいから、人はあっちに行ってるらしい」
     神田が指さす湖のちょうど反対側には、人の姿と、遊覧ボートや建物やのぼりらしきものがぽつぽつと見えた。
    「こっち側の道はそのうち閉鎖されるんじゃないかって聞いたから、その前に来られて良かった」
    「そうなんスか」
     ここに来たい、と思った時、自分のことを思い出してくれたことがただただ嬉しい。
     神田が焦がれる人の代わりだったとしても。
    「それにしても、引っ張り込まれそうな青ッスね」
    「引っ張り込まれんなよ?」
    「へ」
    「ああ、この湖には伝説があって、昔、思い合っていた恋人たちがいたけど、男のほうに里のお偉いさんとの娘との縁談が持ち上がって、男は邪魔になった女をこの湖に誘い出して、殺して沈めてしまったんだ。以来、この湖に恋人たちがやってくると女の白い手が男の足首を掴んで引きずりこもうとするとか」
    「マジすか」
    「嘘だよ」
    「……神田さん」
     そんなに怖がりはしなかったが、真顔でつらつらとでっちあげを言う神田を呆れ顔で見る。烏丸でもあるまいし、と。
    「だって、あっちにダムが見えるだろ? ここは貯水湖だよ。人造の湖」
    「あ、なるほど。もしかしてだからこんなに青いんスか?」
    「それはどうなんだろう。透明度が高くて、光の青の波長は湖底まで届くけど、赤は途中で吸収されるからこう見えるって話だから、ここ以外の川や滝壺もこんな感じらしいし」
    「へー」
    「でもここが格別青が深いのは魚がいないから、余計濁ることがないからだって思うとちょっと不思議だな」
    「いないんスか?」
     言われてみれば、これほどに澄んでいるのに魚影はないし、その魚を狙って水鳥が水面を行き交うこともない。
    「酸性の温泉の水が流れ込んでるせいだってさ」
    「詳しいッスね」
    「まあな。親父が教えてくれたから」
     神田は懐かしそうに目を細めた。
    「天然の湖もいいけど、こうして人の手が入った上での美しさも悪くないと思うんだ。これも親父の受け売りだけど」
    「おれも、ちょっと分かります」
     人の手によって形作られるものを尊ぶその生き方も。
     その生き方をまっとうする為に、彼はやがて三門を離れる。もしかしたら、こんな一瞬の記憶すら奪われる可能性があると承知で。
    ――でも、おれは、おれだけは忘れませんから。
     三門よりも格段に深まった秋の気配をともなった風が吹いて、散った葉がはらはらと散って、そのコバルトブルーの湖面へと落ちて波紋を幾つも描く。
    「ホントに綺麗ッスね」
     これを写真に納めるのはきっと簡単だけど、外岡はそんなものよりも今は記憶に、心に留めようと、じっと見つめる。
    「な、トノ。ひとりで見たかったりした?」
    「へ? なんでそんな風に思うんスか?」
    「おまえ、ひとりの時間が好きなんだろ? だからせっかくの休日なのにこうして引っ張り出されて本当は迷惑だったりしないかなとか」
     ぷは、とたまらずふきだした外岡に、笑うなよ、と神田は苦笑を浮かべた。
    「イヤだったら断ってますよ」
    「ホントか? だっておまえ優しいだろ」
     外岡へと向けたその神田のまなざしが果たして、その過去ごと透かし見るように思えたのは呵責めいた感情がさせるものだったろうか。
    「優しくなんかないッスよ、おれは」
     本当に優しかったら、きっと自分はあの時あの講師をはねつけていたはずだから。
    「……」
    「それに、ひとりの時間は好きですけど、ひとりの時間しか好きなわけじゃないッスから」
     ボーダーにいる時とは違って、あげてない外岡の淡い色前髪が木々をさらった風に揺れる。
    「おれは、神田さんとこの風景を見られて、嬉しかったッス」
    「うん、俺もだ。トノにこれを見せたかった」
    「綺麗ッスね」
    「ああ。――なあ、トノ」
     神田が外岡の指先だけをやんわりと握る。
    「はい?」
    「キスしていいか」
     キス以上のこともたくさんしてきたのに、今更断る神田が可愛くて、愛しくて。
     いまだけは、たぶん、神田の心にいるかもしれないあの人の姿はなく、外岡だけしかいないはずだった。
     だから。
     外岡は、おそるおそる伺う神田のその頬に空いているほうの掌を伸ばして、少しだけつま先立ちして自分からその唇に触れた。
     神田の鳶色の瞳が驚いたように大きく見開かれ、そしてすぐに細められて、外岡の腰をたくましい腕が強く抱き寄せた。
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    palco_WT

    MAIKING折本にするつもりだったけど流し込んだらはみ出て笑うしかなかった……加減……分量の加減……狭い遠征艇での窮屈な環境と、門による跳躍が影響する三半規管だかトリオン臓器に由来する何かの器官に由来するもののせいなのかは分からないが、いわゆる空間識失調《バーディゴ》っていうのはこんなものなのかもしれない。
     シャバの空気を吸って半日以上経つのに、まだ本復しない体にハッパをかけながら、休暇明けには提出しないといけない仕事に手をつけては、もう無理と倒れ、いややらないといけないと起き上がり、しかし少し経ってはちょっと休むを繰り返していた冬島の携帯端末が着信に震えたのは、そろそろ空腹を胃袋が訴えかけた夕暮れ時だった。
    「おう、何だ、勇」
    「隊長、今からそっち行くけど、なんか買ってくもんあっか? どうせ、遠征から戻ってからぶっ倒れたままだろ」
     ありがてえ、とローテーブルを前に床にひっくり返って天井を見上げたまま、冬島は携帯端末に向かって矢継ぎ早に告げる。
    「弁当なんでも、あと甘い菓子パン何個か。ドーナツでもいい。それとチョコレート味の何か」
    「何かって何だよ。ケットーチ上がるぞ。カップ麺は?」
    「ハコでストックしてあるから大丈夫」
    「その分だと缶ビールもいらねえな。煙草《モク》は?」
    「そ 3454

    palco_WT

    PROGRESS冬コミ新刊の水王の、水上の過去の捏造設定こんな感じ。
    まあそれでも入会金十万円+月一万余出してくれるんだからありがてえよな……(ワが2013年設定だとたぶんんぐが小学生で奨励会にあがったとしてギリギリこの制度になってるはず。その前はまとめて払ってダメだったら返金されるシステム)
    実際、活躍してるプロ棋士のご両親、弁護士だったり両親ともに大学教授だったり老舗の板前だったりするもんね……
    「ん、これ、天然モンやで」
     黄昏を溶かしこんだような色合いの、ふさふさした髪の毛の先を引っ張りながら告げる。
     A5サイズのその雑誌の、カラーページには長机に並べられた将棋盤を前に、誇らしげに、或いは照れくさそうに賞状を掲げた小学生らしき年頃の少年少女が何人か映っていた。第〇〇回ブルースター杯小学生名人戦、とアオリの文字も晴れやかな特集の、最後の写真には丸めた賞状らしき紙とトロフィーを抱えた三白眼気味の、ひょろりと背の高い男の子と、優勝:みずかみさとしくん(大阪府代表/唐綿小学校・五年生)との注釈があった。
    「でも黒いやん、こん時」と生駒が指摘する。
     彼の言葉通り、もっさりとボリュームたっぷりの髪の毛は今のような赤毛ではなく、この国にあってはまずまずありがちな黒い色をしていた。
    1983