どんな手を使ってもお前とまだ一緒にいたい【前編】「トレイさん。もし死んでしまったら一刻も早く生まれ変わってくださいね。僕、寂しくて泣いてしまいますから。」
俺の部屋で2人で過ごした翌朝、ジェイドが隣でしくしくと泣き真似をしながらそう言った。俺はその時少し笑いながら、“努力するよ”と言い、ジェイドの頭をそっと撫でた。
幸せそうに微笑んでいたその表情はとてもキレイで…今でもはっきり記憶に残っている。
○●○
そして今日、ジェイドと街でデートをするため待ち合わせの時計台の前に行った。時刻は午前9時50分。すると、いつもは俺より前に来ているはずのジェイドが居なかった。珍しい…。急な用事でもできたのか…。
待ち合わせ予定の10時を過ぎても現れず、[何かあったのか?]と簡単にメッセージを送って、近くのベンチに座り持ってきていた本を読みながら待っていることにした。
「トレイさん。」
俺を呼ぶ声に顔をあげると、キレイに整った顔が目の前にあった。
「大変お待たせしてしまい申しわけ「お前、フロイドだろ?」」
その人物は俺の目線に合うように屈んでいた身体を起こし、驚いた表情を見せた。
「…あは〜せいか〜い。よく分かったね。ウミガメくん。」
いつもの間延びした口調なのにどこか泣きそうな顔で何かを言いづらそうにしている様子のフロイドと、普段は俺より前に待ち合わせに来るジェイドの姿が未だに見えないことに不安がよぎる。
俺の前から移動し隣に座ったフロイドが震えながら小さな声で話した。
「ジェイド…来れない…
…死んじゃった…」
暇つぶしにと読んでいた本が、俺の手から滑り地面へ落ちた。
顔を片手で覆う。頭が真っ白になった。
○●○
詳しく説明してほしいとお願いすると学園の保健室に案内された。
そこへ向かう間にフロイドが、自身が見た光景と寮生や大人達からの情報を整理して、俺に話した。
ジェイドは昨晩呪いをかけられた。モストロラウンジの一般公開日に来ていた、たちの悪い客に。その男は人の良い笑みを浮かべてジェイドを呼びつけると何かを取り出し、それをジェイドの目の前に突き出した。
その途端急にその場に倒れたジェイドに向かって男は、
『この前モストロラウンジに来ていたおれの恋人がお前を見て一目惚れし挙げ句の果てにおれを振ったおれが振られたのはお前のせいだ』
と、そう叫んだ。そしてその男はすぐにフロイドによって床に押さえつけられ、別室にいたアズールも寮生からの報告を受けてすぐにジェイドのところへ駆けつけ事態を確認した。アズールに報告した人とは別の寮生が呼んだ教師によって通報され、警察官に連れて行かれたらしい。そしてジェイドは保健室に運ばれたそうだ。
保健室に入ると、アズールと学園長がいた。
ジェイドはベットで横になっていた。眠っている表情をしているが、呼吸をしていれば少しは動くはずの体にかけられている物が全く動いていなかった。
呪い?
死んだ?
ジェイドが?
と、俺の頭の中は混乱していて姿を見ても言葉が出てこなかった。
重い空気の中、
「犯人からの事情聴取とあなた達からの情報を踏まえると…。ジェイド君が見せられた物は、命を奪う呪いの絵です。手のひらほどの小さな絵で一度しか使えず、使い終われば消滅します。その絵を見た“人間”は必ず死ぬ。不幸中の幸いか、ジェイド君は呪いをかけられた時の姿は“人間”ですが本来の種族は“人魚”です。対象者が“人間”ではない場合、その効果は正しく現れず仮死状態となります。」
と、その場にいた学園長が話した。
「ジェイド…死んでない…?学園長…ジェイドは助かる?」
「いつジェイドの仮死状態は解けるのですか」
学園長に不安そうにフロイドが問い、立て続けにアズールが声を震わせながら問う。
俺も言いたいことや聞きたいことがあるのにまだ状況を受け入れることができず口が動かない。ただただ、横になっているジェイドの顔を見ながら皆の話を聞くことしかできなかった。
「この呪いの場合、自然に仮死状態が解けることはありません。効果が正しく現れなかったとはいえ元は命を奪うほどの呪い…。ですから、永遠に眠るように永遠に仮死状態が続くのです。」
永遠に仮死状態…永遠にこのまま…
このまま俺はもう、ジェイドと話すことも声を聞くことも一緒に過ごすこともできないというのか。