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    酔っ払い蛍と介抱魈

    #魈蛍
    xiaolumi

    【魈蛍】酩酊の戯言「…………!?」

    「嗚呼、良かった。魈、すまないが旅人を頼んだぞ」

    いつもは冷静に伏せられている
    金色の目が大きく開かれる。
    それくらい、この光景は異様だった。

    いつもの白いワンピースを中途半端に脱ぎ、黒いキャミソール姿になったまま鍾離の膝に座って笑っている蛍。
    腹を膨らませて涎を垂らし眠っている白い塊は、その彼女の相棒。
    机に突っ伏して寝ているのは恐らくモンドの風神だろう。

    「これは……」

    「あっ魈だ〜〜!!」

    魈に気付いたらしい蛍は、花が咲くように笑い、
    鍾離の膝からぴょん、と降りる。
    ぎゅっと勢いよく飛びついてきた旅人を抱きとめつつ、
    彼女から香る酒の匂いに顔を顰めた。
    何が楽しいのか阿呆のように笑い続ける蛍にされるがままの魈が、チラリと呼び出した本人――鍾離を見る。

    「すまないな。目を離した隙に
    酒を飲んでしまったようだ。」

    飲んでしまった、と言えるレベルではない酔い方をしている彼女は、くすくす笑いながら魈の髪を弄んでいる。
    煩わしくも振りほどきはせず、させたいようにさせておく。
    酔っ払い相手にやめろと言っても無意味だという判断だ。


    「この状態の彼女とパイモンを帰すのは忍びない。
    望舒旅館に運んでやってくれ。」

    「鍾離様は、」

    「俺はこの飲兵衛詩人に言いたいことが山ほどある。」

    首根っこを掴まれた風神は、ぐぇ、と潰れた声を出す。
    察するに、蛍をここまで酔わせたのは風神なのだろう。
    鍾離の頼みとあらば、魈に断る理由はない。
    もぞもぞと動く蛍の中途半端に脱ぎかけたワンピースを着せて横抱きにし、パイモンへと手を伸ばす。
    そんな魈の手を鍾離が止めた。

    「パイモンはこちらで預かるから良い。
    旅人だけで手一杯だろう。
    お前は旅人を宥めてやってくれ。
    これも持っていくといい。酔い覚ましだ」

    「御意」

    たしかに、普段のように大人しくしている蛍なら
    手はかからない。だが、今日の蛍は落ち着かず、
    ずっとそわそわと動き回っている。
    見たところ、パイモンは腹がいっぱいになって眠りこけているだけのようで、起きたら自分で蛍の所へ来れそうな気もするし、鍾離に迷惑をかけることも無いだろう。
    そう判断した魈は手渡された酔い覚ましを懐へしまうと
    鍾離へ一礼し、その場を後にする。

    「魈、魈、」

    「聞こえている。喚くな」

    塵歌壺に行くか、望舒旅館へ行くか。
    考えながらも、足は望舒旅館へと向かう。
    その間も、蛍はぎゅう、としがみついて楽しそうに魈の名前を呼んでいる。
    この状態の彼女を、いつも誰かがいる彼女の洞天へは置いていけない。すりすりと猫のように頬を擦り寄せて来る彼女から察するに、酔うと甘えたがりになるようだ。彼女の洞天は、男女問わず集まる憩いの場のようなもの。魈は自分の使命故に気持ちを伝える気は更々ないが、この旅人の少女をいたく気に入っており、
    他人にこの役目をくれてやる気はなかった。



    ▫️▫️▫️


    ぼすん、と音を立てて柔らかな寝台へ彼女を降ろす。
    璃月を守護する魈が少しでも休めるようにと
    用意されている部屋は、魈自身はあまり使ったことは無い。旅館側が用意したもの以外は何も無い部屋を、蛍はきょろきょろと眺めた。

    「今日はここに泊まるの?」

    「好きに使って良いから早く酔いを覚ませ。」

    鍾離から貰った酔い覚ましを飲ませようとするも、
    蛍は口を開かない。
    ぐ、と唇を閉じてそっぽを向く。

    「おい」

    「薬は嫌なの」

    「童のようなことを言うな。
    飲まないと明日辛くなるのはお前だぞ」

    普段酒は飲まない蛍だ。
    恐らく二日酔いというものになるのは想像に固くない。
    二日酔いというものはよくわからないが、
    それは凡人にとってとても苦しいものだと聞いている。
    毎日依頼をこなして旅の資金を集めている旅人にとって、一日でも動けない日があるのは辛いだろう。

    「それでも嫌!」

    ぷい、と顔を背けた蛍の顎に手をかけ、
    錠剤を自らの口に放り込む。
    目を丸くした蛍の隙をついて彼女の小さな唇に
    ひやりとした魈の唇を押し当てると、
    蛍は驚いたように僅かに口を開けた。
    その一瞬の隙に、舌先で薬を押し込む。

    「んぅ、っ」

    蛍のくぐもった声。
    苦しそうだが、飲み込むまでは離せない。
    薬を吐き出そうとする彼女の舌を舌で押し返す。
    錠剤が溶けたのか少し苦い味が舌先に触れる。
    静かな攻防が繰り広げられ、やがて諦めたのか蛍はこくりと嚥下した。
    彼女の口の中に薬が残っていないかを舌先で確認をして、唇を離す。
    仕方ないとはいえ殴られるのを覚悟しての行動だったが、
    酒のせいで何が起きたのか理解していないのか、
    特に怒るわけでもなく
    ぼんやりと魈を見つめていた。

    「もう寝ろ。」

    目覚めた時には酒も抜けまともな思考になっていることだろう。
    寝ろ、という言葉にハッとした蛍が、
    イヤイヤと首を横に振る。
    無理やりにでも寝台へ押し込んでしまおうと
    肩に手をかければ、蛍の瞳からはぽろぽろと涙が零れ落ちた。

    「今度は泣き上戸か」

    「寝るの、嫌なの。怖いの」

    普段は滅多に我儘を言わない彼女が
    酒の力を借りているとはいえ
    ここまで駄々をこねるのは珍しい。
    どうしたものかと思考を巡らせると、
    蛍が小さく「お兄ちゃん」と呟いた。

    「朝、目が覚めるといないの。
    お兄ちゃん。いつも一緒にいたのに。
    わたしの手を、離さないはずのお兄ちゃんが離すの。」

    だから眠りたくないの、置いてかれる夢を見るから、と
    震える声で言う。
    そういえば、彼女は離れ離れになっている兄を探しているのだったな、と魈は納得した。
    普段こそ凛々しく敵を制し、人を助け、明るく前向きな蛍だが、まだ大人になりきれていない少女である。
    笑顔に隠されていても、
    肉親と離れ離れで心細い夜もたくさんあったはずだ。

    「寂しい―――どうして、空。
    何もわからない。どうして私を置いていくんだろう。」

    「ほた―――」

    どう慰めれば良いかわからず、とりあえず涙をふいてやろうと手を伸ばせば、その手をするりとすり抜けて
    蛍の唇が己のそれに触れた。
    先程とはまるで意味の違うその行為。
    先に触れたのはたしかに魈だったが、
    薬を飲ませるという名目があったからこその行動で、
    このように、情を通わせるものではなかった。
    まるでままごとのように軽く触れる程度のものだったが、
    彼女を好いている魈にとっては衝撃的なものだ。

    「やめ、」

    やめろと強く怒るつもりだったのに、言葉は最後まで紡げない。再度押し付けられる唇。息をするのも忘れて、目の前の彼女を凝視する。
    ちゅく、と水音を立てて絡む舌は、強い酒の味がする。
    随分と度数が強い酒を飲んだようだ。
    酒に酔った勢いで触れ合えば、後悔するのは目に見えている。魈が、ではなく蛍が、だ。彼女に触れるのが嫌だとかそういうわけではない。穢れひとつ無い清らかな彼女を、自分が穢してしまうのが耐えられないだけで。ぐい、と肩を押し返せば、俯いていた彼女が顔を上げた。いつも凛々しく前を見据える彼女の瞳は、涙の膜に覆われてゆらゆらと揺れている。

    「寂しいのが埋められないの。
    どうしたらいい?」

    ぎゅう、と彼女の細い体が甘えるように魈に抱き着く。
    はらはらと零れ落ちる涙が蛍の顔を濡らして、
    窓辺から差し込む月明かりがそれを照らした。

    「魈も、離れて行っちゃうの?
    守ってくれる、って言ってくれたのに、
    いつか私を置いていっちゃう?
    ――お兄ちゃんみたいに」

    不安がる彼女は、繋ぎ止める必要などないのに
    離すまいと躍起になっているようで。
    本来、恋仲でもない男女が同じ寝台にいるのは
    良くないだろうということは、魈にもよく分かっていた。
    行き場のない手は、彼女の肩を掴み、
    軽く後ろに押せばいとも容易く
    寝台を背に蛍の体は倒れた。
    その上に、ギシ、と寝台の音を立てながら乗る。

    拒否しろ、と強く念じてみても、
    蛍の瞳はまっすぐ魈を射抜いた。

    「魈、どこにも行かないで」

    「後悔するのは目に見えている。」

    これは最終通告だ。
    今ならまだ引き返せる。
    兄のいない寂しさを別のことで埋めたとしても
    彼女の心が救われるとはどうしても思えなかった。
    むしろ、自分の行動を後悔するだけだ。
    それに、このような形で、彼女と結ばれるのも、魈の本意ではない。
    欲などない、そう言えればどれだけ良かっただろう。
    仙人と言えど、魈も男。好いている女から
    ひとときの気の迷いとは言え、求められれば、
    普段隠している気持ちも、欲も出てきてしまう。
    今なら、この夜のことはお互いに忘れて、
    今まで通りの関係でいられる。

    「しないと言ったら?」

    「お前は酔っている。
    正常な判断が出来ていない」

    「出来ている」

    「出来ていないからそう言っているんだ」

    語気を強めて言えば、蛍の細い肩がびくりと震えた。
    それでも引く気がないらしい。蛍は自分の上に覆いかぶさっている魈の首へと腕を回し、力任せに抱き締めた。

    「それでもいいから、寂しいのを埋めて。」

    お願い、と耳元で熱っぽい声が囁く。

    「煽ったのは、お前だ」

    再度唇を塞いだのはどちらからだったか。
    微かな酒の味。
    熱に浮かされたようにふわふわと
    どこか夢のような感覚。
    衣擦れの音。
    この先の後悔も、気持ちもすべて押し込んで。
    酔っぱらいの戯言に付き合うだけだと
    自分に言い聞かせ、彼女の望むまま、その寂しさを埋めた。
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