🍧🥄「ガイア、かき氷食べに行こ」
「おかしいな俺は自室にいるはずなんだが?」
時刻は七時三十分。休日の朝にしてはまだ早い時間。重みを感じてガイアが目を覚ますと、何故か隣の家に住む蛍が馬乗りになっている。よく見ると窓が全開になっていて、そこから入ってきたのは想像に容易い。
「暑いからって網戸にしておくのは危ないと思うよ」
「そこから侵入してきたやつの言葉とは思えないな」
蛍はガイアが目を覚ましたのを確認するとゆっくりとガイアの上から退く。
「ね、かき氷」
「こんな時間から店がやってるわけないだろ、もう少し寝かせてくれ」
「整理券取りに行かないとダメなの」
「空は?」
彼女の双子の兄である空は、ややシスコン気味である。蛍が整理券が欲しいと()言えば喜んで並ぶだろうに。
まだ重い瞼を擦りながら問えば、蛍はふるふると首を横に振った。
「空は出掛けちゃったの」
「はは、あいつも早いなぁ。じゃあ、ディルックを連れて行けばいいだろう」
腹違いの義兄は隣人の双子には甘い。二つ返事で行くと言うに決まっている。折角のお誘いだが、貴重な休みなのだ。朝から暑い中外を歩き回りたくはないとガイアは渋る。
「だから、ディルックさんも空と出掛けちゃったの!」
「なるほど、それでお姫様はご機嫌ナナメって訳か。」
目覚めたら空がいなくて、置き手紙でもしてあったんだろう。ぶすっと拗ねたような表情を浮かべる蛍の頭を雑に撫でる。意外にも振り払われることは無かった。
ガイアの義兄であるディルックと蛍の兄である空は兄同士気が合うのか何かと一緒に行動することも多い。そうすると、決まって蛍はガイアの元へやって来るのだ。自分より年下の、わかりやすい彼女のことをガイアは気に入っていた。
「わかったわかった。で、何処の店なんだ?」
「今住所送る」
ピロン、と枕元にあるスマホが音を鳴らし、早速蛍から送られてきたサイトを開く。
「ん、ここなら電車一本で行けるな」
「ガイアも早く支度してね、下で待ってるから」
行く気になったのを確認した蛍が、お邪魔しました、とまた窓から出ていこうとする。
「待て、危ないから玄関から帰れっていつも言ってるだろう」
「危なくないよ。昔からこうじゃん」
「いいから、玄関から帰れ」
よっ、と掛け声をしながら足を上げた蛍を制し、部屋の扉の前へと背中を押す。小さく文句は言っていたが反抗する気は無いらしく、扉から出ていった。
朝とはいえ気温は高く、下で待ってると言った蛍のために着替えを手早く済ませ、玄関を出る。
「遅いよ」
案の定家の前で待っていた蛍に自分の帽子を被せると蛍は顔を顰めた。
「いいのに」
「日焼け止めは塗ったか?」
「もう、心配症だなぁ」
「肌が赤くなってお風呂に入れない〜って泣くんじゃないかと心配してやってるんだ」
「いつの話、それ」