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    hinoki_a3_tdr

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    真綴だけどコレジャナイ感

    「綴」
    「あ! 俺洗濯当番だった!」

    「綴」
    「あ〜、ごめん、買い出しあるんだ。後でな!」

    「綴!」
    「悪い! 古市さんと打ち合わせ!!」

    パタパタと駆けていく綴を、真澄は不満そうに見送る。横で見ていた俺はなんとも言えない気分になっていた。
    最近ずっとこの調子。真澄が追いかけ、綴が逃げる。綴の嘘は分かりやすく、その場を誤魔化しているだけなのが嫌でも分かる。なのに文句も言わず、真澄はそれを受け入れて黙り込むのだ。
    「なんで問い詰めないの?」
    「何が」
    「綴の嘘」
    さすが嘘つき代表、卯木パイセン。よりによってそこを突くか。誰もが触れることを躊躇っていたというのに、ノーロマン先輩は直球勝負だ。これはもう俺の出る幕はない。黙って観客になるとしよう。
    「……待つって決めた」
    「ってことは、理由を知ってるわけだ」
    「俺が告白したから」
    「…………んん?」
    「俺が綴に好きだって言った。そしたら解釈違いだって」
    「んんんんんん????」
    「待て待て待て」
    出る幕はないと言ったな。あれは嘘だ。……じゃなくて!!
    「どういうこと???」
    「真澄、一から話して」
    俺たちはもちろんその場にいた全員が説明を求めていた。あれ? 左京さんもいる。打ち合わせじゃなかったのかよ。
    「監督に振られて落ち込んでた時、綴はずっと傍に居てくれて」
    ああ、あの時の真澄の落ち込みようは酷かった。暇があれば監督にくっついていた真澄がしばらく部屋にこもりきりで、随分と心配したものだ。それにしても、それで惚れるとか真澄チョロくない? 大丈夫??
    「振られて辛いのは俺の方なのに、綴の方が泣きそうだった。なんでだろってそれが気になって、それから、綴のこと見るようになった。それで気づいた。アイツ、俺のことが好きなんだって」
    「おう???」
    「飛躍したね??」
    「勘違いなんじゃねえの?」
    万里酷いな。思ったけど。
    それに文句を言うでもなく、当たり前のことのように真澄は続ける。
    「俺はずっと監督が好きだったから、分かる」
    「説得力があるような、ないような」
    「うっかり納得しかける」
    「でも、アイツは俺にそれを伝える気はないみたいだった」
    「あ〜、出たよ。見てるだけの片思い」
    「綴らしいんだけどね」
    「それがムカついたから、好きなんだなって」
    「あ、そうなるんだ」
    「監督との差が酷くない? それほんとに綴のこと好きなの??」
    俺たちは、真澄の恋を知っている。あれほど分かりやすく情熱的だったのに、綴に対しては全く気づかなかった。万里が言っていたように、何かを勘違いしているのではないかと不安になってしまう。そう言われることを見越していたのか、真澄の方は落ち着いたものだ。
    「監督への思いは消えない。俺にとって、監督が一番」
    「おいおい」
    「けど、その相手は俺じゃなくていい。監督が幸せで笑ってるなら、俺も幸せ。綴は違う、俺が笑わせて、俺が幸せにする」
    「……それは」
    こちらが照れてしまうようなセリフを真澄は真顔で言い切った。なんといえばいいだろう。このむず痒い感覚を。
    真澄の言う通りなのだろう。きっと彼の中で監督への思いは深い親愛に昇華され、恋の執着は新しい対象を見つけた。自分が一番傷ついていた時に寄り添ってくれた存在。綴へと矛先が向いたのだ。
    そして真澄曰く、綴も真澄を思っているので、両思いだという。なるほど、なるほど。
    「真澄の気持ちは分かったけど、綴が真澄のことが好きっていうのは、真澄の思い込みじゃない?」
    「ノーロマン先輩!!?」
    どうしてそうも直球なんですかね!? いや、わかってるんだよ、先輩なりに二人のこと心配して聞にくいことに突っ込んで行ってくれることは。そこは感謝しかないんだけど心臓に悪いんでワンクッション置いて欲しい!!
    「……多分違う」
    「多分」
    「一気に不安になってきた」
    「返事なんだったっけ?」
    「あれだろ? 解釈違い」
    「茅ヶ崎に毒されてるな」
    おい、誰だ最後。
    オタクワードに周囲の視線が突き刺さる。俺は何も知りませんが???
    「俺から言えるのは、公式に対して解釈違いなんぞ烏滸がましい」
    「どういう意味?」
    「どんな内容であれ公式が出したものが正義ってこと。要するに、真澄の気持ちが正しいので、そう言ってなかったことにしたなら綴は最低」
    「綴を悪く言うな」
    「そういうつもりはないけど、オタクの感覚だとそうなの。実際、そう否定したんでしょ? なら悪いのは綴だから、もっと強く出ていいと思うよ」
    俺の言葉に、真澄は初めて怯んだ。ああ、なるほど。何となく分かってしまった。察しのいい勘がにくい。
    「このままズルズル続けたって、誰のためにもならない」
    「……」
    「真澄、怖いんでしょ」
    「違っ……!」
    「監督に振られて、失恋の痛みを知って、もう一度味わうのが怖い。だから追いかけっこを続けてるんだ、その間は傷つかなくて済むもんね?」
    「ちょっと、至くん」
    「至さん、落ち着けって」
    「違う!!」
    「違わない。怖いんだよ」
    「違うって言ってるだろ!!」
    「じゃあ、最後の告白をしてきなよ」
    真澄は放心したように俺を見つめた。俺を止めようとしていた二人も、互いに目を見合わせて様子を俺たちの様子を伺っている。
    「これで最後、もう言わない、つきまとわない。これで受け入れて貰えなかったら、二度目の失恋だね。そしたら今度は俺が慰めてあげる」
    「……いらない」
    「そう? 遠慮しなくていいのに」
    「してない。……言ってくる」
    「行ってらっしゃい」
    この場に背を向けた真澄へとヒラヒラと手を振って見送る。姿が見えなくなった途端、何故か俺が囲まれた。
    「至くん、あの言い方はよくないと思うよ」
    「そうっすよ。さすがに真澄が可哀想だって」
    「そう? 先輩の方が酷くない?」
    「俺とはまた違う酷さだった」
    「自覚あるのが一番タチ悪いんですよ」
    盛り上がってる連中を放置して、真澄の出て行った方をちらりと見る。きっとあそこから二人揃ってやってくることだろう。そうしたら、綴をとっちめてやらないと。解釈違いなど、烏滸がましいのだから。
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