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    hinoki_a3_tdr

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    可愛いを履き違えた至綴(???)

    「至さーん」
    声をかけると両手を上げて威嚇してくる。モフモフのの体に太いシッポ。愛らしいフォルムのそれは動物園の人気者、レッサーパンダだ。
    MANKAI動物園は街のハズレにある小さな動物園だ。ここの園は少し変わっていて、どの動物も一匹しかいない。なんでも、群れからはぐれたり、親が居なくなったりという、言ってしまえばはみ出しものの動物達を受け入れているらしい。
    そして俺は、この動物園の売店でアルバイトをしている。家から少し距離もあり、ぶっちゃけあんまり給料も良くない。それでもここに通うのには理由があった。それがご存知、至さんである。
    レッサーパンダの至さんはMANKAI動物園の看板動物(?)だ。名前を呼べばこうして威嚇のポーズを取り、愛想を振りまいている。何故か至『くん』だと反応をしてくれないのでみんな至『さん』と呼んでいる。
    もしかしたら、人の言葉を理解しているのでは? という噂だ。確かに、そういう理由なら頷ける。それくらいにこの子は賢いのだ。
    「綴くん、また至さん見てるの?」
    「あ! 園長! お疲れ様です!」
    「お疲れ様。そんなに好きなら飼育員さんの補助に入る?」
    「いえいえ! 売店の方が性にあってるので!」
    「そう? 気が向いたらいつでも言ってね?」
    「はい! ありがとうございます」
    俺に声をかけてくれたのは、この園の切り盛りをしている園長だ。なんでも父親の跡を継いだそうで、不慣れながらに四苦八苦しながら頑張ってくれている。どうやらなかなかやり手らしい。こうして下っ端にも声をかけてよく見てくれているので従業員からも慕われている。
    「キューッ!!キュキュッ!!」
    「あら? 至さんどうしたの?」
    少し話していると、至さんが鳴き始めた。威嚇をすることはあっても、鳴くことはないのに。珍しいと監督は首を傾げている。釣られて俺も同じように首を傾げた。
    「キュッ!!キューッ!!」
    「なんだか今日は様子がおかしいわね」
    「体調でも悪いんすかね?」
    「そんな報告上がってないけど……」
    ここの従業員は抜けている人もいるが根はいい人ばかりだ。動物達に異変があれば真っ先に報告があるはず。
    「ん〜、とりあえず様子を見ましょうか」
    「っすね」
    「綴くん、今日はもうあがり?」
    「はい」
    「いつも通り、閉園まで見てる感じかな?」
    「そのつもりです」
    「じゃあもし至さんに何か変わった様子があったら教えて貰ってもいい? 変わりにお給金出すから」
    「そんな!いつものことですから!」
    「いいのいいの、綴くんにはいつも頑張ってもらってるし。それじゃあお願いね」
    そう言い残し、園長は別の動物の下へと行ってしまった。置いてけぼりくらった俺は、せめて給料分はと至さんを注視することにした。

    そういえば話が途中だった。俺と至さんが出会ったのはたまたまだ。日雇いのバイトで入った時に運命の出会いをした。要するに一目惚れである。
    至さんに会うために動物園に通い、いつしか園長や従業員と顔見知りに。ちょうど空きのあった売店のバイトとして雇ってもらい今日に至る。
    ここの人達はいい人ばかりで、居心地もいい。ここに就職出来たら、なんて夢を見てしまうくらいに。
    「実現したら最高なんだけどな〜」
    「キュッ」
    「ははっ、至さんも喜んでくれる?」
    「キュー」
    返事をするように返される鳴き声に笑みが零れる。実現したらいいけど、人生そんなに上手くはいかないよな。
    「ま、ダメ元で頑張ってみますか」
    「キュキュー!!」
    威嚇のポーズが応援しているように見えてくる。至さんとこうして話すのは初めてだから少し浮かれているようだ。
    やってみなければ分からない。園長に相談して、何か出来ることから始めてみよう。
    割とあっさり受け入れられて、俺がここに就職するのも、それからこの園の秘密を知るのも、もう少し先の話。

    「タルさん、嫉妬したからって威嚇すんなよ。園長ちゃん困ってたぞ」
    「うるさい、万里には関係ない。あいつは俺の番なんだから」
    「番ねぇ」
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