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    Satsuki

    短い話を書きます。
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    Satsuki

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    バレンタインデイキッスなレトユリ短文です。エンディング後のいつかのどこか。

    #レトユリ

    チョコレイト、というものが南の大陸から伝わって来て数年。ユーリスはいち早くその菓子の可能性に目をつけて、自ら南方の商人と交渉を始めた。現地では加工に手間がかかるためいまいち有難がられていない植物だったが、一部では薬のような扱いをされていたとかいないとか。最初こそ高価な食べ物だったチョコレイトも、今では庶民が楽しむこともできるものとなった。薄く伸ばして固めただけでなく、生クリームと合わせたり、焼き菓子に混ぜたり飾りにしたり……その可能性は無限大だ。体温程度でとろっととろけてしまうその口どけが好きらしく、ユーリスがチョコレイトを摘まんでいる姿は日常のものとなっている。もちろん、ベレトとのティータイムにも、お茶の隣にチョコレイトが添えられていることがままある。ベレトもちょっと遠方まで足を伸ばした土産に、可愛らしい形をしたチョコレイトを買って帰った。綺麗な箱に入れられていたそれをユーリスは大層喜んで、しばらく飾って眺めていたくらいだ。
    つまりユーリスのチョコレイト好きは筋金入りなのである。ただ、この使い方は予想外だった。

    「ダグザかどこかじゃ、今日は恋人に花や菓子を贈る習慣があるんだってさ」
    「なるほど」
     なるほど、と頷いたが、それと今のこの状況がどう結びつくのかベレトは首を傾げた。気ままな二人暮らし、ベッドはとびきり大きくてふかふかなものを使っている。シーツの上で、ユーリスはいかにも彼らしくクッションに体を凭れさせてベレトを誘った。惜しみなく晒している白い肌の上に、チョコレイトの粒を乗せて。
    「あんたも好きだろ? チョコ」
    「……」
     あれ、違ったか? と、ちょっとユーリスは表情を曇らせた。ベレトは慌てて首を左右に振って見せる。厳密にはユーリスが好きなものだからベレトも好き、なのだが、それは敢えて言うまい。
    「それならほら、遠慮せずに食っていいんだぜ?」
     ニヤニヤ笑いながら無防備に体を開いて見せるユーリスの頬は、少しだけ薄桃色に染まっている。こういう趣向がベレトにウケるかどうか、長い付き合いの中でも計りきれず照れが混じっているのだ。そしてそれを悟られないよう必死で隠している。
    「そうか……それではいただこう」
    「おう……」
     ギシ、とベッドを揺らして、ベレトはユーリスに圧し掛かる。あーんと大きく口を開けて、ぱくりとユーリスの胸元に齧りつく。チョコレイトの粒を一口で平らげ、溶けて肌についた分も舌で舐めとって。ついでとばかりに可愛らしく色づいている乳首にキスを落とすと笑い声が上がった。
    「あれ、思ったより溶けてなかったな……もう食っちまったのか?」
    「甘くてうまい」
    「じゃなくて、もうちょっとこうムードがさ……」
     チョコのように甘い雰囲気が続くことを期待したのか、ユーリスは少し残念そうな顔をする。しまった。一口でいくべきではなかったか。大体食べ物が絡むと、ベレトはちょっとばかり色気がないのである。
    「……ユーリス」
     ベレトは舌の上にチョコレイトの欠片を乗せたまま、ユーリスに口づけた。意図を察した唇が開かれて、とろっと溶けかけたチョコがユーリスの舌先にパスされる。
    「ん……あま……」
     ユーリスはベレトの頭を掻き抱き、もっと、とねだった。脚を絡ませて体を摺り寄せる。甘い舌を舐め合って、唇を吸う。目を閉じてうっとり味わうと、それは想像よりもずっと甘くてエロティックなキスになった。
    「……もう一個、食べるか?」
    「それより、……俺はきみを食べたい」
     ははっ、だろうな。ユーリスは赤い舌で自分の唇をぺろりと舐め、傍らに置いた小さな箱からもう一粒チョコレイトを取り出して口に放り込んだ。
    「じゃ、これは俺が食べるから。あんたはどうぞ俺様を召し上がれ?」
    「……そう言われるとチョコも食べたくなるな」
    「んむ、こら、これはおれの……」
     欲張りだと叱られても、また笑われてもいい。ベレトは口の周りがべたべたになるのも構わず、甘くて愛しい恋人の唇を貪った。
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    Satsuki

    DOODLEレトユリのちょっとした痴話喧嘩。
     どうして俺を置いていくなんて言うんだよ、と、お頭ことユーリス=ルクレールが声を荒らげているので、部屋の外で見張りに立っている部下たちははらはらと冷や汗をかきながら顔を見合わせた。
    「置いていくというか……きみに留守を頼みたいだけで」
    「パルミラへ外交に行くときは俺も連れていくって、あんた前からそう言ってたよな?」
    「それは……すまない、連れて行けなくなった」
    「だから、それがどうしてなんだって聞いてんだよ!」
     ユーリスのイライラとした声に、ベレトは心の隅で
    (怒るとこんな声も出すんだな)
     と密かに感心していた。だがそんな場合ではない。可愛い顔を怒りに歪ませて、伴侶がこちらを睨みつけているのだから。
     アビスにあるユーリスの私室には、実に彼らしい調度品が並んでいる。仕事机と、棚と、ベッド。酒と本、そして化粧品に鏡。ベレトは何故だかこの空間が結構好きなのだが、ユーリスはあまりベレトを歓迎しない。どうも自分の隠された内面を見られるようで恥ずかしいらしい。無論、地上にも伴侶としての彼の部屋をつくりはしたが、一向に引っ越してくる気配はない。ここが好きなんだ、と話したときのはにかんだような笑顔は今はどこへやら。きりきりと眉を釣り上げ、賊の頭らしい目つきでベレトを睨んでいる。外交に同行させるというかねてからの約束を破ろうとしている上に、理由を語らないのだから仕方がない。しかし、『理由を言わねえなら意地でもついていくし、一人ででもフォドラの首飾りを越えて行くからな』と言われてベレトはついに折れてしまった。
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