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    Satsuki

    短い話を書きます。
    @Satsuki_MDG

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    Satsuki

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    ユーリスと部下のわちゃわちゃっていいですよね!と言いたかっただけの産物。レトユリ+燕の部下たち妄想。

    #レトユリ

    「先生よお……あーいや、大司教猊下って呼んだ方がいいんすかねえ」
     アビスの門番はポリポリと頬を掻き、ベレトを見た。
    「まだ大司教ではない」
    「ああ、そうでしたね。どっちにしろ、やめといた方がいいんじゃないですかねえ……俺、知りませんよ」
     こくり、ひとつ頷いて見せるベレトに、門番は「せめてユーリスに知らせた方がいいんじゃ……」と呟いた。しかし、今度は首を横に振ると、ベレトは「大丈夫だ」と笑った。もはや止める術を持たない門番は、灰狼学級とは全く違う方向へと消えていくベレトの背をただ見送ることしかできない。大きなため息を一つ。
    「本当に、知りませんからね……俺が道を教えたって、ユーリスには秘密にしてくださいよ〜!」



    「待ってたぜ、『先生』……いいや、灰色の悪魔、か……」
    「そう呼ばれたのは久しぶりだ」
     くしゃり、手の中にあった茶色い粗悪な紙切れを握りつぶし、ベレトは呼び出されたアビスの小部屋を鋭い視線で見渡した。壁や天井から崩れた瓦礫が、隅に小高く積まれている。そこここにがらくたやネズミの死体が転がって、どこからかぴちゃぴちゃと水漏れの音が小さく響いている。アビスの中でも一層暗く、松明が煌々と照らしている部分以外は闇に包まれたそこは、部屋というよりはただの空間だ。そんな薄闇の中に、ごろつきが五人、ベレトを待ち構えていた。
    「手紙がちゃんと届いたようで安心したぜ」
    「……正直、読むのに苦労した」
     ここに辿り着いたのもほとんど奇跡だ。ベレトが五人に囲まれても顔色ひとつ変えずにそう言うので、一人が早速気色ばんだ様子で舌打ちをする。
    「う、うるせえな! これでも文字はお頭から教わったんだ!」
    「もう少しゆっくり、丁寧に書くと良いと思うぞ」
    「ははっ、お前、お頭にも同じこと言われてたよな」
     仲間にからかわれた男は顔を真っ赤にして、「てめえ、後で覚えてろよ!」と中指を立てている。まだ若くて血の気が多いのだろう。呆れたように、最初にベレトを悪魔と呼んだ男が口を開いた。
    「お前ら、よせ。そんなことしてる場合じゃねえだろ」
     ったく、ガキだな。と眼光鋭く呟いた彼は、ベレトとはほとんど顔馴染みのようなものだ。かつてユーリスと共に蠍の刺青の一団とやり合った時も一緒に戦ったし、この戦争の中でも常にユーリスを補佐していた。言わば燕の右腕ならぬ右翼といったところか。戦闘中に、ベレトが彼に直接指示を飛ばしたこともあった。実に見事な短刀使いで、時には弓や長剣も扱っていたはずだ。ユーリスが信頼しているだけあって、彼は確かな腕を持っている。確か、ウィルと呼ばれていたはずだ。
    「要件は書いた通りなんだが……まあ、単刀直入にいこう。あんた、お頭と婚儀を挙げるつもりらしいな」
    「ああ」
    「お頭はあんたを手に入れたって喜んでたが……チッ。言っとくが俺たちは納得してねえ。新しく仲間を入れる時だって、そう簡単には信用できねえもんさ。あんたがお頭と一緒になろうってんなら、俺たちゃ俺たちなりの流儀で迎えさせてもらう」
    「つまり?」
    「つまり、お前なんかにそうそうお頭を任せられねえってこった!」
     回りを囲んでいた盗賊風の男たちのうち、一番若い男が初めて口を開いた。
    「お頭が選んだ人なら、俺たちは口出しできねえ……最初はそう思ったさ。けどな、お前は大司教の座を引き継ぐらしいじゃねえか」
    「それと俺たちの結婚と何か関係があるか?」
    「かっ関係あるだろ! 大司教ってのは、フォドラの全部のことを考えなきゃならねえし、修道院とか、教会とか、とっとにかく忙しくなっちまう!」
    「忙しくなっても、ユーリスを愛していることに変わりはない」
    「そんなもん信じられるかっつってんだよ! お前が本当にお頭をあ、あああ愛し、いや、大切にできるか証明して見せな!!」
     なるほど、彼がここにいる動機はただのいちゃもんに近いのかもしれない。
    「ユーリスの結婚相手として、俺が気に入らないというわけか……それならどうやって証明したらいい?」
     ベレトはあくまで静かにそう問うた。どうしてお前たちに証明する必要があるのか、と問うこともできた。しかしユーリスの仲間に歓迎されていない状況はうまくない。ベレトにとってそうであるように、彼らにとってもユーリスという存在はかけがえのない大切なものなのだろう。賊の頭として振る舞っている時のユーリスは、凛としていて、孤高で強かだ。ベレトの前で見せる顔とはまた違う、仲間の命を預かる者としての顔。真剣で、慈愛に溢れた彼の横顔が好きだった。アビスや仲間たちのことを話している時の瞳の煌めきに、何度見惚れたことか。そんな彼だから、共に生きたいと思った。ならば彼を慕っている者たちからちゃんと祝福される婚儀にしてやりたいし、ベレトもそれを望んでいる。そのためなら証明でもなんでもしてやろうではないか。
    「そりゃあ、決まってら」
    「お頭だったら賽の目で勝負……となるかもしれねえが、俺たちはそんなちまちました芸当より、こっちの方がわかりやすい」
    「男だったら、拳で勝負だ!!」
     ベレトを囲む男たちが盛り上がるのを見て、はあ、とまた溜息を吐いたのはウィルだ。
    「だからてめえら、勝手に話を進めんじゃねえよ……」
    「拳か……いいだろう」
     ベレトはマントの留め具を外すと、少し離れた場所にバサリと放る。カチャカチャ、さっさと籠手を外し、それもマントと一緒に置いておく。
    「素手でいいんだな? 他にルールは?」
    「最後に立っていた方が勝ち。それだけだ」
     妙に話が早いな……さすが、灰色の悪魔って異名は伊達じゃねえってことか。ウィルは顎をしゃくり、一番若い男を一番手に出す。
    「……一人ずつでいいのか?」
    「ナメやがって!!」
     頭に血が昇っていては動きが鈍るだろうに。ベレトはぴょんぴょんと無駄な動きの多い構えを取る少年を、少し眩しそうな目で見た。
    「行けカルロ!」
    「やっちまえ!」
     ヤジが飛ぶ。懐かしい雰囲気だ。昔はよくこんな、傭兵やならず者同士の殴り合いを目にしていたっけ。ベレトは真っ直ぐ突っ込んできた少年を軽くいなして、重い一撃を繰り出した。



    「なんで止めねえんだよ!」
     ユーリスはアビスの地下道を、彼らしくない大きな足音を立てて走る。
    「ウィルさんに絶対お頭を足止めしろって言われたもんで……すんません」
     部屋を訪ねて行ってもベレトの姿が見当たらず、アビスには側近たちの姿もない。何かがおかしい。ピンときたユーリスは、部下の一人を締め上げてやっと情報を吐かせた。なんでも、ベレトが本当にユーリスの伴侶として相応しいか試してるいる、らしい。
    「バカなこと考えやがって……!」
     唇を噛み、アビスの深部へと繋がっている隠し通路を曲がる。バカだバカだと思っちゃいたが、ここまでだったとは。しかもよりにもよってあんなきったねえ部屋に呼び出すなんて。相手を誰だと思っているんだ。戦争の一番の功労者とも言える、元士官学校教師、現次期大司教猊下だぞ。しかも、人間離れしてめちゃくちゃに強い。ウィルは戦場でそれを見ていたはずなのに……身の程知らずにも程があるというものだ。
    「てめえらコラァッ!!」
     叫びながら部屋に飛び込んだユーリスは、中の有様を見てその場に立ちすくんだ。
    「お、お頭……!?」
    「ユーリス?」
     ボロボロになった四人の部下たちは、床に倒れて、あるいは壁にもたれてぐったり座り込んだままユーリスの方を見た。まずい、と言いたげにしているが、鼻血やら何やらにまみれて腫れた顔は無様の一言に尽きる。ベレトはというと、四人を相手にする間に何発か喰らったのだろう。唇の端から血を垂らして、目元や頬を微かに負傷しているようだ。
    「よそ見してる暇あるのか!?」
    「ッ!!」
    「ウィル! よさねえか!!」
     ガッ!!
     鈍い音が響き、ベレトの左頬にウィルの拳が入る。ぐらり、よろめいたところに逆からもう一発。
    「てめえに、本当にお頭を……ユーリスの命を背負う覚悟が、あんのかよ!?」
     猛烈なラッシュだ。ベレトはガードした腕がびりびりと痺れるのを感じた。ユーリスがなにか叫んでいる。けれども一切手を出してこないのは、きっとそういうことなのだろう。
    「覚悟なら、あるさ……ッ!」
     体を引いて、ベレトは反撃に出る。攻撃の手を緩めないウィルの体が一瞬バランスを崩した、その隙を狙う。死角から繰り出したベレトの突きが、ウィルの腹に埋まった。
    「ガハッ……!」
     思わず背を丸めたのが運の尽きだ。ベレトはもう一方の拳で、ウィルの顎を軽く掠めるように素早く打った。
    「あっ……え……?」
     ぐらり。目の前が歪み、体勢をを立て直すことができず、ウィルはその場に崩れ落ちる。脳が揺れ、前後不覚に陥ったのだ。ベレトがその体を受け止めてやると、ユーリスの部下たちがわっと駆け寄って、ウィルを支えた。
    「てめ、え、クソッ……!」
    「いい加減にしやがれ、ウィル! ベレト!」
     怒鳴りつけられ、ベレトはやっとユーリスの方に向き直った。ギリギリと眉を吊り上げたユーリスを見ても、殴り合いで興奮しているせいか微塵も怖く感じない。そもそも、怒った顔も可愛いと思っているせいかもしれないが。
    「ユーリス、勝ったぞ」
    「勝ったぞじゃねえ! なにやってんだ、売られた喧嘩をホイホイ買うなんてあんたらしくもねえ!!」
     ユーリスはベレトが自分に向かって伸ばしてきた腕をバシッと振り払うと、部下たちを睨みつける。
    「てめえら、俺様に隠れてろくでもねえこと企みやがって、分かってんだろうなあ!?」
    「お、お頭……」
    「でも……」
     部下たちはベレトにやられてボロボロになった顔で、情けなさそうにユーリスに哀願している。
    「ユーリス、許してやれ」
     ベルトはユーリスの肩を後ろから掴んで言う。
    「あんたは黙っててくれ。これは俺とこいつらの問題だ」
    「いや、聞いてくれ。彼らは君のことを心配するあまり俺を試すような真似をしたんだ。俺の信用がないせいだ。つまりその、上手く言えないが、彼等は全員きみのことを好きなんだろう」
    「そういう問題じゃねえよ……」
     ベレトがあまりに熱心に説き伏せるので、ユーリスは部下たちを睨みつけるのを止めてしぶしぶ振り返った。紋章の力が働いたらしく、ベレトの口元の血はもう固まって、傷も塞がりかけている。顔もまだそんなにひどく腫れてはいないが、次期大司教がアビスで殴り合いをするなんてもってのほかだ。
    「やっていいことと悪いことがある。こんな、あんたをリンチするような真似を……」
    「俺なら大丈夫だ。それに見てくれ、全員倒したぞ。俺の勝ちだ。だから、約束通りきみは俺のものだ」
    「はあ!? ど、どういう話だよ!?」
     ベレトがふわりと笑ってそう言うので、ユーリスはわなわなと握った拳を震わせた。
    「あっ……お頭、赤くなってる……」
    「うるせえっ! 見んじゃねえ金取んぞ!!」
     怒鳴りつけられ、カルロはヒェッと首を竦めた。
    「なあ……その、……先生、」
     ウィルがやっとよろよろ立ち上がり、ベレトを見た。
    「ベレトで構わない」
    「ベレト。……負けたよ。あんたの勝ちだ……俺はユーリスとガキの頃からずっと一緒にやってきた。だから、ユーリスにゃ絶対に幸せになってほしいって思ってる」
    「おいおい、よせよウィル……」
    「いいや言わせてくれ。正直、ユーリスは俺たちのためだけに働きすぎなんだ。本当に、放っとくとすぐ自分を犠牲にして誰かを救いに行っちまう……自分は親にだってろくすっぽ会いに行けてねえのによ」
     ベレトは頷き、ユーリスの隣に立った。
    「ユーリスを……お頭を頼む。俺らみてぇな奴らのことなんか、考える隙もないくらい、幸せにしてやってほしい」
    「約束しよう、必ず幸せにする。……ただし、アビスや君達のことを考えないというのは無理だ」
    「ベレト、お前まで勝手に返事を……」
     ユーリスはもはや隠しようもないほど赤面してベレトの服を引っ張った。
    「俺はユーリスと一緒に、このアビスの環境も良くしていきたいと思っているからな……それには、もちろん君達の協力が必要だ」
    「……ああ、もちろん、喜んで手伝わせてもらうよ」
     ウィルが手を伸ばすと、ベレトは力強くその手を握り返した。単純な部下たちは涙ぐんでそれを眺めている。
    「くっそお……マジでお頭を幸せにしねえと許さねえからな!」
    「泣かせるような真似したら、ただじゃおかねえぞ!!」
    「つーか、お茶会とかいって何度も部屋に連れ込んでたの知ってんだからな!!」
    「そうだ! どこまで手ぇ出してんのか白状しろ!!」
    「あーあーあーうっせーぞてめえら!! そろそろマジでいい加減にしろ!!」
     ユーリスの声に、部下たちはぴたりと静かになった。いつもの拠点に戻ってまずはケガの手当てをしてろ、話はその後だ! そう言いつけて、ユーリスはベレトに向き直る。
    「上まで送る」
    「ああ……」
     マントを拾い上げ、装備を整えると、ベレトはユーリスと連れ立って歩き出した。ピュウ、と口笛を吹いた誰かは、きっとこの後ユーリスの鉄拳制裁をお見舞いされることだろう。




    「……なあ、本当に悪かったな」
    「いいんだ」
     ユーリスは壁から適当な松明を取り、ベレトとアビスの小道を歩いて行く。
    「きみがいかに仲間たちから愛されているのかが分かった」
    「……奴ら、不安なのかもな。戦争も終わって、教会も、王国も変わっていく。……そのうえ俺まで、」
    「ユーリス」
     ベレトはユーリスの顔を覗き込む。
    「変わらないものもある」
    「はは……そうだな」
    「きみに口付けたい」
    「と、唐突だな……そういうのは雰囲気でするもんだろ……」
     ユーリスはベレトがあんまり嬉しそうに顔を近づけるので、そのほんの一瞬の動作が永遠のようにも思えた。松明の炎に揺れる二人の影が、ゆっくりと重なって離れる。
    「……」
    「……好きだ、ユーリス。必ず幸せにする」
    「……あんた、今日はそればっかり言ってるけどよ、俺が指輪を対価にあんたをいただいたんだぜ?」
    「そうだったか?」
    「そーだよ。……だから、俺もあんたを、……幸せにしてやる。……それにはまず、怪しい手紙の呼び出しには応じるんじゃねえ! あと、必ず俺に相談しろ!」
     ユーリスの言葉に、ベレトは声を立てて笑った。唇が引きつって血の味がする。殴られた体が今更のようにひりひり痛み、頬が火照っているのに、心だけはどうしようもないくらい温かかった。
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    Satsuki

    DOODLEレトユリのちょっとした痴話喧嘩。
     どうして俺を置いていくなんて言うんだよ、と、お頭ことユーリス=ルクレールが声を荒らげているので、部屋の外で見張りに立っている部下たちははらはらと冷や汗をかきながら顔を見合わせた。
    「置いていくというか……きみに留守を頼みたいだけで」
    「パルミラへ外交に行くときは俺も連れていくって、あんた前からそう言ってたよな?」
    「それは……すまない、連れて行けなくなった」
    「だから、それがどうしてなんだって聞いてんだよ!」
     ユーリスのイライラとした声に、ベレトは心の隅で
    (怒るとこんな声も出すんだな)
     と密かに感心していた。だがそんな場合ではない。可愛い顔を怒りに歪ませて、伴侶がこちらを睨みつけているのだから。
     アビスにあるユーリスの私室には、実に彼らしい調度品が並んでいる。仕事机と、棚と、ベッド。酒と本、そして化粧品に鏡。ベレトは何故だかこの空間が結構好きなのだが、ユーリスはあまりベレトを歓迎しない。どうも自分の隠された内面を見られるようで恥ずかしいらしい。無論、地上にも伴侶としての彼の部屋をつくりはしたが、一向に引っ越してくる気配はない。ここが好きなんだ、と話したときのはにかんだような笑顔は今はどこへやら。きりきりと眉を釣り上げ、賊の頭らしい目つきでベレトを睨んでいる。外交に同行させるというかねてからの約束を破ろうとしている上に、理由を語らないのだから仕方がない。しかし、『理由を言わねえなら意地でもついていくし、一人ででもフォドラの首飾りを越えて行くからな』と言われてベレトはついに折れてしまった。
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