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    Satsuki

    短い話を書きます。
    @Satsuki_MDG

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    POIPOI 163

    Satsuki

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    レトユリ。蒼ルート後支援Sしてる二人。イチャイチャデートしてほしかっただけの散文です。

    #レトユリ

    「ずいぶん上手くなったじゃないか」
    「はっ、俺様を誰だと思ってやがる」
     ブルル、と鳴いた愛馬に目を細め、ベレトはユーリスに微笑みかけた。どこか照れ臭そうに手綱を操り、ユーリスも自分の馬を降りる。二人きりでの遠乗りは初めてだった。大司教とその伴侶、という立場は時として厄介だ。馬車での移動は従者がつくし、徒歩では移動が制限される。二人きりでガルグ=マクを離れてのんびりとした時間を過ごすために、馬が必要だった。賢くて、二人でも乗りこなせる馬が。……お互い、あまり馬術の訓練を真面目にやっていなかったツケが回ってきたのだ。
    「どうどう、よし……大人しくしてろよ」
     湖畔に繋いでやると、二頭の馬は心得たとばかりに首を振った。ユーリスはちょっとばかりむずむずする鼻を擦り、ベレトを向き直る。
    「思ったより早く着いたな」
    「ああ。尻が痛くなっていないか」
    「あんたこそ」
     からかわれ、ユーリスはムッと唇を引き結んで不敵に笑う。
    「俺様の部下たちに手引きさせりゃ、もっと早くガルグ=マクを抜け出せたのに」
    「密輸のような形で運び出されるのはちょっと……」
     ベレトは自分が荷車に乗せられた樽か木箱の中で息を潜める様子を想像した。積荷はなんだ。大司教猊下とご家族です。よし、通れ。
    ふっ、と笑うと、ユーリスは「なに想像してんだか」とそんなベレトを見ている。
    「まあいいや。飯にしようぜ」
    「それが楽しみだったんだ」
     ユーリスが大きな包みを取り出したので、ベレトは嬉しそうに頷いた。朝から彼が準備してくれていたことは知っていた。よく食べるベレトのために趣向を凝らしてくれたらしいことも。
    「あそこで舟を借りよう」
    「穴が開いてなきゃいいけど」
     ユーリスは古い釣り小屋の近くに引き上げられている舟を見て顔をしかめた。
    「多分大丈夫だ」
    小屋は手入れされている様子だし、外に置かれている釣り具もまだ新しい。近くの村の住人の持ち物だろう。手荒く扱わなければきっと借りても大丈夫だ。そう判断し、二人はボートを水辺に寄せた。
    「あんた、漕げるのか?」
     ユーリスの言葉に、ベレトは記憶をたどってみる。父は釣りが好きだった。しかし舟を使った記憶は薄い。
    「ユーリスは乗ったことがあるのか?」
     逆に問い返すと、ユーリスはちょっと視線を右上にずらしてから、
    「まぁ、舟に乗るのが好きな奴らもいるよな」
     と、よくわからない、答えになっていないことを言った。詮索無用ということか。ベレトは黙って先に舟の上に乗ると、ユーリスの荷物を受け取り、手を伸ばして彼が乗り込むのをエスコートしてやった。ユーリスはベレトが座って櫂を握るのを見てなんだか嬉しそうにしている。
    「よっし、頼んだぜ。……ああ、なるべく音を立てないように漕ぐやり方、教えてやろうか」
    「興味深いな」


     湖の上は思ったよりも涼しく、良い風が吹いていた。ベレトは魚を横目に櫂を操り中央を目指す。ユーリスは膝の上でごそごそと荷物を開き、料理を取り出した。こんがりと焼かれた薄切りのパンに、肉や野菜をその場で挟む。ジャムやフルーツを使ったものはユーリスの好物だ。甘いそれはデザートにあたるのか食事にあたるのか、ベレトにはよくわからない。荷物の中には、ベレトが前日に焼いておいた菓子も入れられていた。卵にチーズもある。豪華だな、とベレトはにこにこしながらユーリスの手元を見守っていた。腹の虫が鳴りそうだった。数種類のサンドイッチを作り、ユーリスはパンや食材を切り分けるために使っていたナイフを置くと、満足そうに頷いた。
    「こんなもんかな。ほい」
     鼻先にサンドイッチを差し出され、両手が塞がったままのベレトが自然な仕草で口を開けると、親鳥が雛に餌を与えるかのように食事が運ばれた。大きく食らいつくと、パンがザクッと音を立てた。
    「うまいか?」
     ユーリスは目をキラキラさせてベルトを見ている。ベレトはユーリスを見つめたまま頷き、丁寧に咀嚼すると口の中のものを飲み込んだ。
    「うまい」
     心からの言葉だった。
    「だろぉ? このソースも俺の手作りなんだぜ」
    「少し酸味があって、なのにまろやかでとてもおいしい。肉の味を引き立ててくれる」
    「そうなんだよ。卵と酢の分量がさあ……」
     ユーリスは嬉しそうに、ベレトに食べさせたサンドイッチを自分でもかじってみる。うん、最高だ。俺様が作ったんだから間違いないが……と、目線を上げて気が付いた。正面からベレトが物欲しげに見ているのだ。ちょっと迷ったが、ユーリスはもう一度サンドイッチをベレトに差し出した。あーん、と口が開かれる。ほんの少し頬を赤らめて、しかしとても嬉しそうな顔で。結局、ユーリスはその一切れをベルトが食べ終わるまで、そうして口元に運び続けてやった。

     食事が終わると、二人は革袋からめいめい水を飲み風景を眺めることにした。湖畔の木々は青々と茂って清々しい。小鳥たちの声と風の音。二人はしばらく、ここへ来るまで馬を駆りながら話していた時と同じように最近のお互いの仕事ぶりや生活のことなどについてとりとめもなく会話を続けた。
    「西方教会の立て直しは、アッシュのおかげでかなりスムーズだったな」
    「ああ。王都の方もだいぶ落ち着いてきた」
    「だが気になるのは旧帝国領……それも東の方の噂だ」
    「……教会や王国の動きを探っている勢力がいることには間違いないだろう」
    「俺も調べちゃいるが、なんとなくこの件には……ん?」
     ずいぶん前から船を漕ぐことを止め、櫂を引き上げていたベレトは、ユーリスを自分の方へと呼び寄せた。ユーリスはちょっと考えてから、船が揺れないようにバランスをとりながらベレトの方へと慎重に移動する。ベレトの隣に腰掛け、
    「なんだよ」
     と言う口元には、ぶっきらぼうな口調とは裏腹に穏やかな笑みが浮かんでいた。食事の後で口紅が中途半端になってしまっているそこへそっと顔を近づけ、ベレトは吸い寄せられるように優しく口づけた。
    「……ユーリス、綺麗だ」
    「……いつものことだろ?」
    「いや、いつも綺麗だが……今日はもっと、その……好きだ」
     目を瞬かせたユーリスは、確かにいつもより魅力的に見えた。それは、明るく差している太陽に照らされた水面がキラキラと光っているせいだろうか。それとも、それすらユーリスが美しいから光って見えるのだろうか。唇に触れただけでは足りなくて、頬にも音を立てて接吻すると笑い声が上がった。
    「おいおい、あんたまさか俺をデザートにする気か?」
    「それはとてもいい思いつきだな」
     ベレトはユーリスの肩を抱いてもう一度口付けた。果物の味がする。さっき食べた焼き菓子の味も。
    「ん……」
     そのまま、幾度も角度を変えて唾液を交わらせる。ユーリスの柔らかい髪をそっと撫でていると、貪欲な手はもっと彼に触れたくなってしまう。ユーリスがその手の動きを目で追いかけて、よれた口紅を舌でぺろっと舐め、上目遣いにこちらを見つめているから、尚更。
     ベレトの手を、ユーリスの指が愛しげになぞっている。指の股をくすぐって、ぎゅっと絡めて繋がれる。
     たまらなくなってユーリスの肩を強く抱くと、彼はニヤと笑ってそれをかわし、王のような仕草で静かに舟の中に体を横たわらせた。ゆらり、不安定な舟の上での挑発に、ベレトはひとつ息を整えてから慎重な動きでその上に覆い被さる。舟を揺らすまいとするベレトの動きのぎこちなさが可笑しくて、ユーリスはクスクス笑った。
    「舟がひっくり返ったら困るな」
    「おっ? ひっくり返るようなこと、するつもりかぁ?」
    「さあ……」
     案外、そう簡単に水に落ちはしないものだ。立ち上がったり、バランスを崩すような真似をしなければ大丈夫。……これは、いつか父に教わったことだっただろうか。
     ベレトはそんな思考を頭から追い出して、ユーリスの湿った舌の動きに応えた。目を閉じて彼の感触に陶酔する。柔らかな下唇同士を優しく押しつけ合い、鼻先を擦り付け、悪戯な舌先を捕まえて強く吸う。髪の中に指をくぐらせ、頭をマッサージするように撫で可愛らしい耳朶に触れる。
    「はあ……ん……ぅ……♡」
     ピチャピチャ、いやらしい水音が耳を犯している。ユーリスが悩ましげに顔を顰めて、ベレトの服を掴んでいる。長いまつ毛が震えて、薄く目を開き、ベレトとその向こう側の空を見ている。
    そこに、愛しい人しか存在していないかのようだった。舟の縁に切り取られた空の中に、ベレトしか。
    (……本当に転覆したら、どうすんだか……)
     ぼうっとそう考えて、ユーリスはまた目を閉じる。温かなベレトの体にそっと手を這わせ、背中にしがみつき、与えられる温度を全て受け取ろうと口付けに集中するために。


     ぽつん、と、そんな二人だけの時間を邪魔し始めたのは、ユーリスの頬に落ちた雨粒だった。
    「通り雨か」
    「向こうの空は明るいしな。……いや、でも結構降りそうだぜ」
     あんなにいい天気だったのに、いつの間にか灰色の雲が山の方から下りてきていたらしい。ベレトは体を起こすと、櫂をとって岸を目指して漕ぎ始めた。どうやら馬たちはさっさと木影に移動して雨宿りをしている。人間より行動が早いし賢いな、と、ベレトは先にユーリスを岸に下ろしてやりながら微笑んだ。
    「どうする? そこの小屋なら開けられそうだぜ」
    「そうだな、雨宿りさせてもらおう」
     舟だけでなく小屋まで貸してもらうことになるとは、持ち主には本当に感謝しなければ。舟を陸に上げ、ベレトはユーリスの呼ぶ声を背中に聞きながら雲を見上げた。遠くの空はまだ晴れている。だが、自分たちの上には暗雲が立ち込めている。
    (心配しなくとも、いずれ雨は上がる)
     雲間から差す光は明るい。ベレトは水面が無数の雨粒に打たれて波打ち、せわしなく波紋の広がっている様子を少しばかりぼうっと眺めていた。
    「ベレト? 早く入れって、濡れるだろ」
    「ああ、今行くよ」
     踵を返すと、ベレトは小屋の中へと足を踏み入れた。ユーリスは蝋燭に火を灯し、古い椅子に腰掛けてベレトを迎え入れる。狭い空間は、どことなく、懐かしいあの寮監部屋に似ているような気がした。ベレトの後ろで雨足の強まる気配がし、重い木の扉がギィと音を立て、バタンと閉じられた。
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    Satsuki

    DOODLEレトユリのちょっとした痴話喧嘩。
     どうして俺を置いていくなんて言うんだよ、と、お頭ことユーリス=ルクレールが声を荒らげているので、部屋の外で見張りに立っている部下たちははらはらと冷や汗をかきながら顔を見合わせた。
    「置いていくというか……きみに留守を頼みたいだけで」
    「パルミラへ外交に行くときは俺も連れていくって、あんた前からそう言ってたよな?」
    「それは……すまない、連れて行けなくなった」
    「だから、それがどうしてなんだって聞いてんだよ!」
     ユーリスのイライラとした声に、ベレトは心の隅で
    (怒るとこんな声も出すんだな)
     と密かに感心していた。だがそんな場合ではない。可愛い顔を怒りに歪ませて、伴侶がこちらを睨みつけているのだから。
     アビスにあるユーリスの私室には、実に彼らしい調度品が並んでいる。仕事机と、棚と、ベッド。酒と本、そして化粧品に鏡。ベレトは何故だかこの空間が結構好きなのだが、ユーリスはあまりベレトを歓迎しない。どうも自分の隠された内面を見られるようで恥ずかしいらしい。無論、地上にも伴侶としての彼の部屋をつくりはしたが、一向に引っ越してくる気配はない。ここが好きなんだ、と話したときのはにかんだような笑顔は今はどこへやら。きりきりと眉を釣り上げ、賊の頭らしい目つきでベレトを睨んでいる。外交に同行させるというかねてからの約束を破ろうとしている上に、理由を語らないのだから仕方がない。しかし、『理由を言わねえなら意地でもついていくし、一人ででもフォドラの首飾りを越えて行くからな』と言われてベレトはついに折れてしまった。
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