紅玉のフタゴムシ①「さとる」
そっと呟いても、その声に答えてくれる筈の人間はまだ目を覚まさない。さまざまな機械に繋がれ、死んだように眠る悟はまるで精巧な人形のようだった。
「悟」
もう一度、名前を呼ぶ。
ピクリとも動くことのない瞼を見て、思わず投げ出された手を握った。ただでさえ冷たい悟の手がさらに温度を失っているのに気付いて、強く、強く握る。
あわよくば、この感触に気付いて起きてくれる期待を抱いて。
「悟...」
なのに、強く握った手を持ち上げても、悟は目を瞑ったまま。
抵抗しない。何も言わない。
それが酷く悲しくて、私はぐっと唇を噛み締めた。
『五条が暴走車に撥ねられた』
そう言った硝子の震えた声を、今でも容易に思い出すことができる。
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