コロコロサトル「こらッ、サトル! 返しなさい!」
「んなぁー」
コロコロとじゃれるサトルからやっとの思いで真っ赤な飾りを取り戻した。ぴかぴかと周囲の景色を反射して光る玉は、所々に引っかき傷ができていた。
「全く、何か飲み込んだりしたら危ないからやめなって言ってるのに」
「んな、んにぃー」
「わ、こら、まとわりつくなって」
返せ返せと、私の脚にぐりぐり頭を押し付けてくる。そのうち当初の目的を忘れかけたのか、顔を擦りながらゴロゴロ喉を鳴らしていた。
「他にもオモチャがあるだろう? 美々子と菜々子が来る前に飾りつけしちゃいたいからそっちで遊んでてよ、ね?」
お気に入りのぬいぐるみを取ってやっても素知らぬ顔で、またツリーによじ登ろうとする。仕方ないな、とサトルを抱きかかえツリーを見せてやった。
「ほら見える? クリスマスツリーって言うんだよ。これに、このキラキラした飾りつけをしなきゃいけないんだ。だからいい子にしてて」
綺麗でしょ? そう言って飾りを見せてやると、怒ったようにネコパンチを繰り出した。
「わわ、何だよ。顔が反射するのが気になるのかなぁ」
私の腕から逃げるように飛び降りたサトルは、ちらちらとこちらを見ながら恨めしそうな顔をしてソファの定位置を陣取った。立派な尻尾をたしん、たしんと打ちつけて全身で不機嫌を主張してくる。どの子も表情はあるけれど、中でもサトルは表情豊かな子だよなぁと変に感心してしまった。
「ねぇ、何でそんなに機嫌悪いの? 私がツリーばかり構っていたのが嫌だった?」
機嫌を伺うようにソファに腰かける。いつもならすぐにすり寄ってきてくれるのに、今日は完全無視だった。
「ほーらサトル~、この飾り、キラキラしててまるでサトルの可愛いおめめみたいだろ? サトルみたいに可愛いから夢中になっちゃったんだよ~」
サトルみたいに可愛いんだもん~と全力で媚びる。飼い主が猫に媚びるなんてと思うかもしれないが、仕方ないのだ。人間は猫を飼うともれなくその奴隷になってしまう生き物なのだから。私の全力の媚びに気を良くしたのか、サトルが膝に乗ってじゃれ始めた。良かった、キレて暴れられたら大変だった。
「んー今日もサトルが世界一可愛い!最高! ってことで、私飾りつけに戻っていい? いい子にできたら今日美味しいご飯にしてあげるからね」
「んなぁ~」
素直に甘えてくるときは本当に可愛いんだよなぁ。よし、じゃあ二人が遊びに来るまでもう少し飾りつけしちゃお、と席を立って、私は愚かにも少し目を離してしまったのだ。
――ガシャン!!
大きな音に驚き振り返ると、無残に倒されたツリーの残骸と、中心には「やば」という顔をした愛猫。
「サ~ト~ル~!!」
end.