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    お箸で摘む程度

    @opw084

    キャプション頭に登場人物/CPを表記しています。
    恋愛解釈は一切していません。

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    お箸で摘む程度

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    クルビュ
    秋の日のオフ、マリオンが秋服を全く持っていないレンを連れ出して買い物に行く話。
    ほんの少しシオンさんの捏造があります。

    #エリオスR
    eliosR.

    マリオネットの秋空 輪郭を掴めない穏やかな夢が、少しずつその彩りを光の中に滲ませていって、おぼろげな風景が知らぬ間に部屋の景色へと変わっていく。目を開けたという自覚もないまま、俺はベッドの中で無機質な天井を眺めていた。
     瞼を優しく下ろそうとする眠気の誘惑に抗って、理性を叱咤し上体を起こす。枕元の時計は五時過ぎを指しているが、この明るさはどう考えてたって午前五時でも午後五時でもない。早朝トレーニングに勇んで目覚ましを仕掛け、意識の無いうちに壊したらしい、数日前そのままの時計だ。スマートフォンを確認すると、ピントのずれた野良猫の後ろ姿の上に、九時三十分の表示がある。

     今日は数週ぶりの一日オフ。ガストは普段通りに出勤したようだったが、一人で起きたのにこの時間ならば上々だ。ひとまずは顔を洗いに部屋を出る。今日こそは部屋でゆっくりと猫短編集を読み進めたい。百冊セットの文庫の山は手付かずの巻数をまだまだ残し、難攻不落の様相で部屋の片隅に聳え立っている。そのうずたかい活字の中に潜む数多の猫たちにこれから出会えると思うと、そこに山があるから登るのだと宣う登山家の気持ちにも頷けるものだ。心ゆくまで物語の山道を攻略したら、それから少しトレーニングをして、明日も早く起きられるよう早く寝よう。洗面の傍ら頭の中で一日の算段を立て、タオルを片手に部屋へ戻ろうとすると、リビングでどこからか帰ってきたらしいマリオンと鉢合わせた。

    「オマエ、今頃起きたのか」
    「……ああ」

     マリオンも今日はオフらしい。外出でもしたのだろうか、呆れたように髪を搔き上げる腕は長袖に覆われている。
     思えば、急に涼しくなった。制服はいよいよ長袖シャツを出したところだが、前回のオフにはまだ冷房の効いた屋内を探し求めるような陽気だった気がする。秋物の私服を出そうとクローゼットを漁ってみるけれど、ろくなものが出てこない。寝間着に丁度よさげな無地のカットソーが数枚と、アカデミー時代から履き古したジーンズ。果たしてこれしか無かっただろうか。ジャックを呼んで尋ねてみたが、個人の衣服を室外に持ち出したままにするようなことはないと言う。ひとまずは一番マシそうな紺色を着て、下は夏のままのズボンを履いた。風通しの良いチノパンツの足首が、上半身の温もりとの違和感を肌に訴えている。
     まあ、今日は一日部屋の中で過ごすだけだ。そうでなくても服装なんてどうだっていい。リビングに出ると、ジャックと話していたマリオンがこちらを見咎め、途端に眉根に皺を寄せた。

    「レン、オマエはどこの中学生だ」
    「……」
    「ジャックに聞いたけど、本当にろくな服を持っていないんだな。市民に見られる立場なんだから、身だしなみにも気を遣え。分かった?」
    「……善処する」
    「ハァ……」

     マリオンは立ち上がり、改めて俺の全身を上から下まで眺める。そうやってじっくり検分でもされるように見られると流石にきまりが悪い。すると何を思ったか、マリオンはくるりと背を向けて自室へ入ると、すぐさま戻って薄手の上着を俺に渡した。

    「今から出かける。それを着て、一分以内に支度をしろ」
    「……は?」

     そう言い残して、自分はさっさと部屋に引っ込んでしまう。俺はその場に固まったままで、ただ茫然とマリオンのものらしい上着を携えているよりほか無かった。
     出かけるって、俺とマリオンがか? 予定も訊かずに、冗談じゃない。
     そう反抗的なことを考えてみたって、扉の向こうから物音が聞こえれば突っ立っていることもままならず、仕方なく生成色のカーディガンに袖を通す。デスクの脇に全集が悲しく沈黙しているのを横目に、俺は鞄を引っ掴んでマリオンの待つリビングへと急いだ。







     連行されるようにして訪れたショッピングモール、言われるがままに服を当てられ試着をさせられ、口も出せない俺はさながらマリオンのお人形化した。俺の服だというのに、文句をつけながら次々と決定していって、両手に提げた紙袋の中身はきっと夏服の総数よりも多い。
     慣れない場所で慣れないことをさせられるのは、職務なんかよりもよっぽど疲弊する。少し遅めの昼食に入ったカフェテリアの店先のテラスで、俺が大量の荷物を整理する間に、マリオンがサンドウィッチとコーヒーを買ってきてくれた。注文の希望すら訊かれなかったけれど、俺の分にはエビとアボカドが挟まっている。


    「それで少しはマシになるだろ。組み合わせは店員さんにも教えてもらったし、分かったな?」
    「ああ」
    「休日だろうと、ブルーノースの担当だという自覚を持てよ。ちゃんとした格好をすればそれなりに見えるんだから」
    「……」

     マリオンはひとしきり言いたいことを言い終えたらしく、ようやく自分のサンドウィッチを食べ始める。思えば今日、マリオンは自分のことには全く無頓着で、俺のことばかり気を掛けてここまで来た。俺と同じかそれ以上に少ない丸一日のオフだろうに、俺の服ばかりを見繕って、食事まで俺の分も買ってきてくれている(まあ、それはどちらかと言えば俺の意見など聞くまでもないという考えのように思えるが)。マリオンの休日の過ごし方なんて知るよしもないけれど、間違ったって暇を持て余すような人ではないし、意味もなく他人にかまけるような人でもない。それくらいのことは、分かっている。

    「なあ、マリオン」
    「何?」
    「その……ありがとう。俺のために、こう、してくれて……」

     だから、そう告げた。ぎこちなくなってはしまったけれど。マリオンが今日という日を俺のために使ってくれたことを、分かっていると、そしてそれを俺は嬉しく思っていると、そう伝えたくて。
     そう伝えたかったのだけれど、果たして伝わったんだろうか。中途半端に切った言葉が着地点を見失い、カップから立ち昇る湯気と一緒に漂うあいだ、マリオンは口の中のものを咀嚼しながらその間俺の方を見つめていて、それが俺には妙に長い時間に感じられたが、ゆっくりと飲み込むと何とも言えない表情で口を開いた。

    「……オマエは本当に、どうしようもないヤツだな」



     秋さきを過ぎて広葉樹は染まり、赤や黄色の強いところは日当たりが良いのだろうと眺めてみれば、もう存外日中の陽も低いことに気付かされる。往来に面したテラスは中秋のひんやりとした空気に澄んで、午後の日差しを美しく透かした、木漏れ日のモザイク模様に彩られていた。コーヒーカップの温かさが冷えた手にじんと沁みる。
     エレメンタリーの鞄を提げた子どもたちの一群が、いま目の前を駆け抜けていった。視界の隅にマリオンの横顔が、子どもたちの方を追ってそっと綻びるのを、俺は見た。


    『レンは本当に、どうしようもない子ね』

     そんな声が思い出された。
     そうだ、俺は知っている。どうしようもないと放つ瞳の、その底なしの愛情を。自分勝手に掴んで進む、その手のひらのあたたかさを。


     風が吹いて、乾いたレンガ敷きの上を落葉が転がる音がした。やわらかい日差しを浴びながら、カーディガンの裾がひらめいて踊る。



    マリオネットの秋空 Fin.
     
     
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    お箸で摘む程度

    MOURNING元同室 生徒会選挙の別Ver.
    .昼休みのカフェテリア、注文口まで続く長い列はのろのろとしてちっとも進まない。ヘッドフォンから流れる音楽が、ああこの曲は今朝も聴いた、プレイリストを一周してしまったらしい。アルバムを切り替えることすら面倒くさくて、今朝遅刻寸前でノートをリュックサックに詰めながら聴いていたブリティッシュロックをまた聴いた。朝の嫌な心地まで蘇ってくる。それは耳に流れるベタベタした英語のせいでもあり、目の前で爽やかに微笑む同室の男の顔のせいでもあった。
    普段はクラブの勧誘チラシなんかが乱雑に張り付けられているカフェテリアの壁には、今、生徒会選挙のポスターがところ狭しと並べられている。公約とキャッチフレーズ、でかでかと引き伸ばされた写真に名前。ちょうど今俺の右側の壁には、相部屋で俺の右側の机に座る、ウィルのポスターがこちらを向いている。青空と花の中で微笑んだ、今朝はこんな顔じゃなかった。すっかり支度を整えて、俺のブランケットを乱暴に剥ぎ取りながら、困ったような呆れたような、それでいてどこか安心したような顔をしていた。すぐ起きてくれて良かった、とか何とか言ってくるから、俺は腹が立つのと惨めなのとですぐにヘッドフォンをして、その時流れたのがこの曲だった。慌ただしい身支度の間にウィルは俺の教科書を勝手に引っ張り出して、それを鞄に詰め込んだら、俺たちは二人で寮を飛び出した。結果的には予鈴が鳴るくらいのタイミングで教室に着くことができて、俺は居たたまれない心地ですぐに端っこの席に逃げたんだけれど。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGウィルとフェイス ウィルBD
    頭に浮かんだ情景をとりあえず念写してみたものの、言いようもなく“違う”ので、とりあえず上げるがのちのち下げるもの 習作に位置づけ
    甘くかがやく(習作) 甘いかがやきを彼は纏っていた。彼に降りそそぐようなそれは、本当のところは彼が放っているものだった。
     開け放たれた扉から、人や、その人が抱える料理のいい匂いや贈り物の包装紙が立てる楽しげな音が、ひっきりなしに流れ込んでくる。日の延びてきた四月終わりといえどもうすっかり暗くなったこの時間にも、ウィルを囲む食卓は日の下めいて明るい。

    「お前なぁ!もっとかっこいいやつがあっただろ!」
    「うるさい。きれいだし、ウィルはこっちの方が好きだと思ったから選んだ」

     レンが提げてきたケーキボックスに顔を突っ込んだアキラが、すぐさま持ち主に突っかかる。ウィルが目をとがらせて、グレイは驚きながらも笑う。その様子を、少し離れたフェイスは眺めていた。昼間のトレーニング後、マリオンを筆頭に連れ立ってパンケーキを食べたと聞いたのに、テーブルには溢れ返りそうなほどのスイーツが並んでいる。食事も飴色のチキンやハニーマスタードがけのポテトフライが真ん中を占めて、見ているだけで歯が溶けそうだ。つめたいレモネードで喉を潤していたら、アルミホイルの端を器用に摘んだディノが廊下から駆けてくる。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGオスカーとアッシュ ⚠️死ネタ

    レスキューと海賊のパロディ
    沈没する船と運命を共にすることを望んだ船長アッシュと、手を伸ばせば届くアッシュを救えなかったレスキュー隊のオスカーの話。
    海はあたたかいか 雲ひとつない晴天の中で風ばかりが強い。まるでお前の人間のようだ。
     日の照り返しと白波が刺繍された海面を臨んで、重りを付けた花を手向ける。白い花弁のその名を俺は知らない。お前は知っているだろうか。花束を受け取ることの日常茶飯事だったお前のことだ。聞くまでもなく知っているかもしれないし、知らなかったところで知らないまま、鷹揚に受け取る手段を持っている。生花に囲まれたお前の遺影は、青空と海をバックにどうにも馴染んでやるせない。掌に握り込んだ爪を立てる。このごく自然な景色にどうか、どうか違和感を持っていたい。

     ディノさんが髪を手で押さえながら歩いてきた。黒一色のスーツ姿はこの人に酷く不似合いだが、きっと俺の何倍もの回数この格好をしてきたのだろう。硬い表情はそれでも、この場に於ける感情の置き所を知っている。青い瞳に悲しみと気遣わし気を過不足なく湛えて見上げる、八重歯の光るエナメル質が目を引いた。つまりはディノさんが口を開いているのであるが、発されたであろう声は俺の鼓膜に届く前に、吹き荒れる風が奪ってしまった。暴風の中に無音めいた空間が俺を一人閉じ込めている。その中にディノさんを招き入れようとして、彼の口元に耳を近づけたけれど、頬に柔らかい花弁がそれを制して微笑んだ。後にしよう、口の動きだけでそう伝えたディノさんはそのまま献花台に向かって、手の中の白を今度はお前の頬に掲げた。風の音が俺を閉じ込める。ディノさんの瞳や口が発するものは、俺のもとへは決して届かず、俺は参列者の方に目を向けた。膨大な数の黒だった。知っている者、知らない者。俺を知る者、知らない者。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGグレイとジェット
    グレイとジェットが右腕を交換する話。川端康成「片腕」に着想を得ています。
    お誕生日おめでとう。
    交感する螺旋「片腕を一日貸してやる」とジェットは言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って僕の膝においた。
    「ありがとう」と僕は膝を見た。ジェットの右腕のあたたかさが膝に伝わった。

     僕とジェットは向かい合って、それぞれの柔らかい椅子に座っていた。ジェットの片腕を両腕に抱える。あたたかいが、脈打って、緊張しているようにも感じられる。
     僕は自分の右腕をはずして、それを傍の小机においた。そこには紅茶がふたつと、ナイフと、ウイスキーの瓶があった。僕の腕は丸い天板の端をつかんで、ソーサーとソーサーの間にじっとした。

    「付け替えてもいい?」と僕は尋ねる。
    「勝手にしろ」とジェットは答える。

     ジェットの右腕を左手でつかんで、僕はそれを目の前に掲げた。肘よりもすこし上を握れば、肩の円みが光をたたえて淡く発光するようだ。その光をあてがうようにして、僕は僕の肩にジェットの腕をつけかえた。僕の肩には痙攣が伝わって、じわりとあたたかい交感がおきて、ジェットはほんのすこし眉間にしわを寄せる。右腕が不随意にふるえて空を掴んだ。
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