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    かんざキッ

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    かんざキッ

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    8軸冴桐

    イチャついているだけ「……ふぅ」
    「水圧、大丈夫だったか」
    「水圧? ああ、シャワーか。平気や」
    「そうか。それなら、良かった」

     アロハビーチ近くの店で夕飯を済ませてきてからホテルに戻れば、陽は完全に暮れていた。
     大きな窓から見える街は、見慣れた神室町とは違う輝きが広がり、少し落ち着かなかった。当たり前のことで、比較すること自体間違っているようにも思うが、何処に行ったところで思い出す比較対象はいつでもあの街だ。
     緩くカーテンを閉めて、戻ってきたら男にグラスを見せる。元々部屋に完備されているウィスキーボトルも一緒に揺すって見せてやれば、銘柄を知りたいのか、バスタオルを頭に乗せたまま目を細めて近づいてきた。

    「英語は分からんわ」
    「ふっ、俺も分かんねぇな」
    「ま、こないなホテルでやっすいウィスキーなんぞ置かんやろ」
    「あれはあれで良いもんなんだかな」

     用意していた氷を数個、グラスの中に入れる。ゆっくりとウィスキーを注いでから、冴島に渡した。
     革張りのソファーに腰を下ろし、一口飲むと深々と息を吐いた。

    「ええな、ハワイの酒も」
    「そりゃ良かった」
    「街もええ。あのタクシーの運ちゃんに今度また礼言わなアカンわ」
    「…ああ、トミザワのことか」

     桐生が冴島とハワイに行くにあたって、一番最初に声をかけた男がトミザワであった。
     ハワイで過ごしていたことがあるとはいえ、観光案内をできる程の知識は到底持ち得ない。ならば、ハワイに在住し、元からタクシードライバーである者に色々と聞いた方がいいと思い立った。
     トミザワに連絡を取ると、即座に了承の返事が届いた。日米の時差を考えたら、と思いもしたがエナジードリンクを常飲しているらしいトミザワには些細なことなのだろう。
     空港前に到着した時、既にトミザワはタクシーの外で待っていた。
     連れがいるとは伝えていたものの、その風貌までは言っていなかったからだろうか。冴島の姿を見た時は目を丸くしていた。
     いや、もしくはアロハシャツの似合わなさ加減に笑いを堪えていたのかもしれない。

    「なんや。一人で笑て」
    「いや、なんでもねえ。ちょっと、思い出し笑いだ」

     取り急ぎと空港内で適当に買ったものだが、こうもアロハシャツが浮く人間を、桐生はハワイでも見たことがなかった。
     写真の一つでも撮って、真島に送ってやろうかとも思う。冴島は嫌がりそうではあるが。

    「それにしても、よく兄さんに許されたな」
    「許されとらんわ。最後まで煩くてしゃあなかった」
    「そうか、やっぱり」
    「今頃ろく、大吾が八つ当たりされとらんか心配やな」
    「なら、大吾にも土産を買っていかねぇとな」

     話すことが楽しいからだろうか。グラスはあっという間に空になってしまった。
     二杯目を注ごうとすれば、急に手を重ねられる。
     驚いて冴島の顔を見ると、妙に真剣な顔つきでこちらを見ていた。

    「冴島?」

     名前を呼んでみたが、何故かそのまま俯かれた。
     幾ら一日中外にいたとは言え、あれだけのことで冴島が疲れるとは思えない。ただ、慣れない街だったこともあって桐生の気づかない、気疲れというものがあったのだろうか。
     酒を呑む手すら止まっている。

    「なんだ、どうしたんだ」
    「桐生、」

     漸く向けられたと思えば、その瞳は明らかに欲情の色を灯していた。一体、何が冴島のスイッチを押したかピンとこない。
     しかし、それを無碍にする程、桐生は短く薄い人生を生きてはいなかった。

    「ベッドに行こうぜ」
    「なんや。鈍チンとかいう、桐生はもうおらんのか」
    「兄さんの入れ知恵か。それは」
    「せやな」

     少し勿体なさそうに苦笑されたが、満更でもなさそうだった。
     ならば、据え膳食わぬは男の恥だ。例え、食われる人間が桐生と言えど、これを逃す手はない。
     比較的奥手に思える冴島が此処まで真っ直ぐに、その欲望を差し出してくるのだから、嬉しい以外の感情がなかった。
     決して本人には言わないが、可愛くて仕方がない。
     桐生よりも若干大きな手を掴んで、ベッドに転がった。寸でのところで、冴島が手をついた所為で一緒に倒れてはくれなかった。

    「加減してくれよ。明日もトミザワの世話になるんだ」
    「お前の匙加減や」
    「ひでぇな。まるで、俺がわりぃみたいじゃねぇか」
    「いつもそうやろ」

     顔の横に置かれた手に頬を擦り寄せる。ぴくり、と冴島の眉が動いた。

    「あったけぇ」
    「今からもっと熱くなれんで」
    「そんなこと言う男だったか、お前は」
    「何年経ったと思ってんねん」

     完全に冴島が桐生に覆い被されば、もう窓越しの夜景どころか天井のライトすら見えない。
     これからありったけの愛を暴力のようにぶつけられる。
     明日、トミザワに嫌な顔されないよう、加減しないといけないが、残念ながら冴島も桐生も生ぬるい性交で満足できる男ではないのだ。
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