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    mifuyu_dd

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    mifuyu_dd

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    現パロ設定ヒュダ。26×17。

    #ヒュンダイ
    hyundai
    #ヒュダ
    huda

    ねがいごと「あれ?いつものねがいごとと違うじゃねぇか」
     ダイの手元にある短冊を覗き込みながら、ポップが首を傾げた。
    「もう、見ちゃだめだって毎年言ってるのに」
     ねがいごとは、ひとに知られると叶わなくなってしまう。一体誰に吹き込まれたものか、ダイは幼い頃からそう信じているらしかった。ダイが自分の書いた短冊を誰にも見せまいとするのは毎年のこと。そして、その大切なねがいごとがいつの間にか家族全員に知れ渡ってしまうのもまた、毎年のことだった。
    「いいだろ、どうせ飾ったら見えちまうんだし。それよりおまえ、いつものねがいごとはどうしたんだよ。もしかして諦めたのか?」
    「……ちがうよ」
     からかうような口調が気に障ったのか、子どもらしい丸みをわずかに残した頬がぷくりと膨らんだ。

    “はやくおとなになりたい”

     それは、ダイが十二歳の頃から五年に渡って書き続けたねがいごとだった。
    「あれは……もう書かなくっていいんだ」
    「何で?」
    「ねがいごと、叶ったから」
     そう言うと、ダイはポップから瞳を逸らした。膨らんだままの頬に、微かな赤みが差している。
    「叶った……?」
     ポップは七夕飾りを作る手を止めて、ダイに顔を近づけた。
    「いやぁ、まだまだ大人とは言えねぇだろ。特にここんとことか」
     長い指につつかれた頬が、元の形を取り戻す。
    「やめろよ、ポップ」
    「せめて、おれぐらいになってからじゃねぇとなぁ」
     ポップがダイの頭に軽く顎を乗せ、にやりと笑う。
    「ポップだって、おれと大して違わないだろ」
    身長差を見せつけられたダイは、ぶんぶんと音がするほど頭を振り、三つほど歳上の兄貴分に抗議した。
    「いやいや、大違いだっての」
    「違わないってば」
     子どもの頃と変わらないじゃれ合いは、聞き慣れたインターフォンの音によって一時中断となった。
    「先生、おかえりなさい。ちょっと聞いてくださいよ、ダイの奴がね……」
    「先生、おかえりなさい!違うんだよ、ポップがね……」
    「はい、ただいま。二人とも、同時に話すのはよしなさいといつも言っているでしょう」
     左右から聞こえてくる話を聞き流しながら、アバンはリビングに飾った小ぶりな笹を指差した。
    「おやおや、まだ何も飾っていないじゃありませんか。七夕まであと四日しかないのですよ」
    「大丈夫、今日中にはできますから。飾りはもう全部作っちゃったんで、あとは付けるだけです」
     ダイ以外の全員が成人した今もなお、この家の七夕行事は当たり前のように続いていた。もはや子どもとは呼べない年齢になった子ども達も、何だかんだと言いながら毎年楽しそうに七夕の飾りを作り、短冊にねがいごとを託している。
    「それは良かった。短冊もみんな書けましたか?」
    「はい。マァムは昨日書いたし、おれたちもさっき書きました」
    「まだ一枚残ってるよ」
     小さく呟かれた声に、アバンが「ああ、そうでした」と微笑んだ。
    「ヒュンケルにも書いてもらわなくてはね」
    「そっか。あいつ、明日の夜帰ってくるんだっけ」
     ヒュンケルは二年ほど前にアバンの元を離れ、一人暮らしをしている。明日は約二か月ぶりの帰省だった。
    ヒュンケルがねがいごとを書くための紫色の短冊を、ダイはみんなに内緒で準備している。もちろん彼は七夕のために帰ってくるわけではないが、これを渡せばきっと書いてくれるだろう。ダイの知る限りでは、ヒュンケルが紫色が好きだと言ったことはない。だが、彼は毎年必ずこの色の短冊を選ぶのだ。ダイはそのことをよく覚えていた。
    (今年は、なんて書くのかな)
     ヒュンケルが、今いちばん願っていること。それを考えただけで、ダイの鼓動は少しずつ速くなっていった。
    (おれと、同じだったらいいのに)



     街中が寝静まったかのような深夜、熱を持った琥珀色の瞳がゆっくりと閉ざされる。触れるだけのキスが降りてきて、ダイは縋りつくように淡い色のシャツを掴んだ。二か月ぶりのキス。うっすらと微笑んだダイの耳元で、ヒュンケルが吐息混じりに囁いた。
    「……どうした?」
    「背伸びしなくても、キスできるようになったなと思って」
     吐息ひとつに熱くなる体を、はたしてヒュンケルは知っているのだろうか。ダイは一度離れた唇を追うようにして、まだ少しぎこちないキスを贈った。
    「ああ……そうだな」
     ヒュンケルの瞳は、まるで子どもの頃の自分を見ているかのように優しかった。思いきり背伸びをして、屈んだ彼の唇にようやく届いたあの日のことを思い出しているのかもしれない。
    「ねえ……ヒュンケル」
    「なんだ?」
    「ねがいごと、書いた?」
     まだ慣れない口づけは、少しずつその場所を変えていく。その合間に交わされる、戯れのような言葉。
    「ああ……短冊のことか。もう書いたぞ」
    「んっ……なんて?」
    「秘密だ」
    「いじわる……」
    「ひとに知られると叶わなくなると言っていたのはおまえだろう……?」
     頑是ない子どもをあやすような声で囁くと、ヒュンケルは自分よりも少し小さな体を強く強く抱きしめた。
     
    十二歳の夏。
    あの時からずっと、短冊に託してきたねがいごと。

    おとなになりたい。
    はやくおとなになりたい。
    おとなにならないと、あの人はおれの恋を信じてくれないから。
    大好きなあの人に届くように、はやくおとなになりたい。

    十七歳の夏。
    あのねがいごとは、もう二度と書かない。

    だから、そのかわりに。

    どうかおれに、この恋を守る力をください。
    十二歳のおれを、おとなになったおれが裏切ることがないように。
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