〜中間組と末弟「「トド松に会った!?」」
「本当か、チョロ松」
「うん。同僚が前に家庭教師やってた子がトド松だった。でも…覚えてないんだよね」
「…覚えてないんだ」
「初めまして、って言われちゃったよ。結構思ってたよりショックだったなあ…」
いつも僕達が集まるのはカラ松達の家なんだけど、今日は珍しく僕の家に三人が来た。一松と十四松は仕事帰り、カラ松はオフらしい。
「ねえ、にーさん…トド松、どうだった?」
「元気で、幸せそうだったよ。素直で可愛い良い子で、全然ドライモンスターじゃなかった」
「…そっかあ」
十四は寂しそうな嬉しそうな顔で笑ったかと思うと、ぽろりと涙を落とした。
「十四松!?」
「おれ、トド松が覚えてなくても会いたいっす…」
「十四松にとって、トド松がたった一人の弟だもんね…気持ち分かるよ」
「一松にーさん…」
「ぼくも会いたい、覚えてなくても良いから」
「…カラ松にーさんは?」
「俺だってもちろん、大事な弟だし会いたいさ」
「チョロ松にーさん…」
「…はあ。分かった、連絡取ってみる」
スマホを取り出しトド松のアドレスを引っ張り出す。でも僕が受けたショックも大きかったんだ。子供の頃トド松の相棒だったカラ松や、弟として一緒にいる事が多くて、末っ子を人一倍可愛がっていた一松や十四松がどれ程のショックを受けるか分からない。
「…今のトド松は、今の時代を生きてる。僕達の事、他人としてしか認識してないからね」
「分かってる」
「いつなら都合良い?」
「俺、再来週から一週間くらいロケだからそれ以外ならいつでも構わないぞ」
「おれも平日夜か土日ならいつでも良いっす!」
「ぼくは水曜と金曜以外なら」
「…じゃあ今週の土曜日にしようか。それで良い?」
「オッケーっす!」
涙を拭って笑う十四松を見て、もしかしたらこれは一松と十四松に任せた方が良いかも知れないって思いがよぎった。でも取り敢えずはみんなで会ってからの話。それからトド松がどうするかにもよるし…。
土曜日、会わせたい人がいるんだけどってメールしたらすぐ返事が来た。チョロ松さんの友達なら会いたい!って、賑やかな絵文字と一緒に。でもごめんトド松、友達じゃなくて兄弟なんだよ。お前、みんなに会ったらどんな顔するんだろうな。
「トド松、土曜日大丈夫だって」
「分かった」
何か少しでも思い出してくれると良いね、そう呟いた一松が懐かしそうに目を細めた。
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「チョロ松さーん!」
「おはよ」
「おはよ!チョロ松さんから連絡くれるとかびっくりしちゃった」
「ごめんね、急に」
「大丈夫、アツシ先生に会うのは明日だし」
アツシの家に泊まった朝、トド松と抱き合っていた事を結局僕は聞けなかった。二人がそう言う関係だったのはそんなにショックではなかったけれど、今のトド松とは他人なんだからそこまで口を出せなかっただけで。もちろん兄弟達にも話してはいない。
「それで、ボクに会わせたい人って?」
「ああ、三人程。…こっちだよ」
「三人?そんなに?…あ、うん」
トド松と待ち合わせたのは池でボートに乗れたり、遊歩道や広場がある大きな公園。昼下がり、家族連れやカップルで賑わうその池の傍にある四阿みたいな休憩所に三人を待たせていた。
「お待たせ、連れて来たよ」
「えっ…」
「…トド松、だああ…」
さすがに十四松も、覚えていないトド松に飛び付くような真似はしなかった。その代わり口元を抑えボロボロと泣き出す。
「十四松」
「あはっ、ごめん…」
「チョロ松さん、この人達って…」
「僕の兄のカラ松と、弟の一松と十四松」
「え、兄弟…?」
戸惑ったような忙しないトド松の視線が僕達の間を動き回る。…無理もないか、同じ顔が四つ揃った上に、トド松自身も同じ顔をしているんだから。
「ねえねえ、おれ、十四松!よろしく!」
「あ…よろ、しく…」
「トド松って呼んで良い?」
「え、あ、うん…」
トド松の手を握りぶんぶん上下に振る十四松に、一松が寄っていく。僕とカラ松はその様子をじっと眺めていた。
「ぼく、一松…よろしく」
「あ、よろしく、」
「ぼくもトド松って呼ぶから」
「うん…っ、あの!」
「ん?」
「なっ…何で同じ顔なの?みんな、…名前も松って!」
「…あー、それは疑問だよね」
「チョロ松さんに初めて会った時も思ったけど…何で?それにチョロ松さん、一人っ子だって…」
「取り敢えず座らないか、トド松」
すっと場所を空け、カラ松が僕との間に隙間を作る。トド松はおずおずしながらそこに腰を下ろした。
「一松、十四松、何か飲み物を買ってきてくれないか」
「…分かった。行こう、十四松」
「…あい」
並んで歩く二人の、ボート乗り場の傍にドリンクワゴンがあった、なんて声が遠ざかって行く。カラ松は改めてトド松に向き合うとじっと顔を見つめた。
「…チョロ松、話して良いか」
「うん…話さないとトド松も納得出来ないだろうしね」
「ああ。…トド松」
「なっ…何、」
「俺達はな、前世で…兄弟だったんだ」
真剣なカラ松の声に、トド松が息を呑むのが聞こえた。
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「…兄弟?」
「そう。…正確には六つ子だ」
「え!?六つ子?」
「そう。俺が次男でチョロ松が三男。一松が四男、十四松が五男で…トド松は末っ子だった」
「みんな…ボクの兄さんだったの…?」
話すのをカラ松に任せて正解だったかも知れない。一番冷静だし、役者だけあって話し方も間の取り方も上手だ。噛んで含める言い方が出来る。戻って来た二人も、黙ってカラ松とトド松を見つめていた。
「ああ。…俺とチョロ松、一松は前世の記憶を持って生まれた。十四松はチョロ松と会って思い出した。だから夢でも何でもない、事実なんだ」
「…ボクが、六つ子の末っ子…」
「いきなりこんな事を言って混乱するのは当たり前だと思う。それを無理矢理受け入れろとも言わないし、無理に思い出せなんてもっと言うつもりもない。ただ…俺達はお前に会いたかった、それだけなんだ」
「…ボク、分かんない…そんな記憶全然ない。チョロ松さんは良い人だしみんな嘘吐いてるなんて思わないけど…だったらどうして、ボクだけ記憶がないの…」
ギュッと、膝の上に置いた手が震えて拳を握る。その手にカラ松がそっと自分の掌を重ねた。
「前世の記憶なんてなくて当たり前なんだ。…お前は俺達と違ってしっかりしてた。だからなのかも知れない」
「…どう言う事?」
「前世の俺達は控え目に言ってもクズだった。ああ、犯罪者とかではなくて、全員ニートでダラダラしてた。でもその中でお前は社交的で友達も多くて、人生を楽しんでた。だから記憶を持って生まれてくる必要がなかったのかも知れない」
「…ボク、兄さん達の事、嫌いだったのかな。そうじゃなければ、ボクが嫌われてたとか…」
「そんな事は絶対なかったぞ、どうしてそう思う?」
「六つ子の末っ子なら兄さんが五人いたって事でしょ。でもボクは誰一人覚えてない。…みんな、覚えてるんでしょ」
「ああ、覚えてる。でもさっきも言ったけど、前世の記憶なんてないのが当たり前なんだ。だから無理に思い出さなくて良い。ただ…もしトド松が良いなら、これからはチョロ松だけじゃなくて、俺や一松、十四松とも会ってもらえないだろうかと思ってな」
俯くトド松の前に、そっとドリンクのカップが置かれる。ピンク色。苺ソーダだよ、と笑う十四松はまた泣きそうな顔をしていた。
「…おれ、今のトド松のにーさんじゃなくても良いの。ただ、トド松と一緒に遊べたら楽しいかなって、思って…それも、ダメかなっ…」
「っ…ダメ、…じゃない…」
「トド松…?」
「ボク、覚えてないけど、でもみんなが嘘吐いてないって分かるから…もしかしたら十四松さんみたいに何かきっかけあって思い出すかも知れないし!それに…ボク一人っ子だし、兄さん欲しかったんだ。こんなに素敵な兄さんが一気に四人も出来るなんて、すっごく嬉しいよ!」
そう笑うトド松の笑顔は強がってるようには見えなかった。勉強を教えていて分かってたけど、頭の良い子だし飲み込みも早い。自分なりにカラ松の言葉を噛み砕いて飲み込んで理解したんだろう。そして記憶がないのを認めた上で僕達が兄だと納得してくれたんだと思う。
「トド松…」
「これからよろしくね、兄さん達!」
まるで昔のトド松を彷彿とさせるウインク付きの笑顔に、十四松だけじゃなくて珍しく一松の涙腺も決壊したらしく、二人はトド松に抱き着いて泣き出した。つられて泣くトド松はそれでも嬉しそうに二人を受け止めてる。
「…俺の弟達、マジ天使」
…うん、カラ松。僕もその言葉、全面同意。