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    つつ(しょしょ垢)

    @strokeMN0417
    げんしんしょしょ垢。凡人は左仙人は右。旅人はせこむ。せんせいの6000年の色気は描けない。鉛筆は清書だ。
    しょしょ以外の組み合わせはすべてお友達。悪友。からみ酒。
    ツイに上げまくったrkgkの倉庫。
    思春期が赤面するレベルの話は描くのでお気をつけて。

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    POIPOI 33

    思ったより甘くならなかったショショ。
    諦めてぶん投げる。

    ##小話

    忘れもの最初に感じたのは湿った草の匂い。
    それから土の感触、鉄の味、それから。

    (霓裳花……)

    鼻腔を掠めた僅かな香りは、同時に疑念を巻き起こす。

    (ここは、どこだ)

    霓裳花の咲いている場所は多くない。ぼんやりとした記憶を必死にかき集める。

    昨夜はいつも通りに妖魔退治に赴いた。違いがあるとすればいつもよりは数が多く、アビスの魔術師も数体表れて面倒だったのを覚えている。
    疲労困憊で業障が溢れそうになるのを歯も砕けよとばかりに食いしばり、無意識にたどり着いたのは慶雲頂の七天神像の元だった。
    凡人が近寄ることはまず不可能なこの場所であれば、万が一の場合にも璃月の民に危害が及ぶこともない。後始末は仙人たちがやってくれるはずだと少しばかりの謝罪の気持ちをため息と一緒に吐いて意識を手放した。
    果てるつもりはなくともいつでも覚悟は決めていて、それでも僅かな後悔の念が過るのはあの方の傍から離れてしまうことだろうか。

    (離れがたいと思うようになってしまったな…だからこそみっともなく、こんなところに加護を求めて…)

    こんなところ。
    凡人はまず来ない。来ることができない。

    がばっと全力で身を起こす。
    霓裳花の香り、体を包む温かな布。
    言葉にならない悲鳴を上げ、それこそみっともない様だった。

    改めて状況を確認する。
    慶雲頂の七天神像。まず並みの凡人は昇ることができない。
    自分の手の中にあるもの。確かあの方は「一等いい霓裳花で作られた絹で作られ、璃月随一の職人によって図案が描かれ、当代きっての服職人によって仕立てられた、ここ数百年のうちで一番お気に入りの上着」と仰っていた。
    それがそこかしこに土汚れとあまつさえ血の汚れまで付いている。
    なぜどうしてここにこの上着があって、自分にかけられていたのか。
    混乱する頭では答えが出るはずもなく、とにかくお返ししなくてはと、気持ちをしっかり持たなくては泡を吹いて卒倒しそうだ。

    返す
    土汚れもさることながら己の血で穢れた服を、そのまま

    (どうする…どうすればいい…甘雨、そうだ甘雨に)

    立ち上がり、はたと止まる。
    甘雨はあの方の正体を知らない。それなのに突然その方の上着を持ってきて「自分の血で汚れているから洗ってほしい」などと頼めば、混乱を呼ぶだけだ。説明するのも億劫だしなにより知られることをあの方は望んでいないだろう。
    服の洗い方を教えてほしいというのも論外だ。自身の服は穢れを祓えば落ちる。破れようとも補修は仙術で行う。凡人の服はそうはいかない、と思う。たぶん。

    (あの方のことを知っていて…凡人の文化に対する知識がある…歌塵…いや、璃月港に行くわけには…ならば)

    一陣の風が身を包み、次の瞬間には奥蔵山の仙府にいた。
    気配がすることにほっと息を吐くと主の名前を呼ぶ。
    『これは珍しい。どうした降魔大聖』
    「これを洗う方法を教えてほしい」
    粗雑に扱うわけにもいかず、両手で丁寧に捧げ持たれた衣服に奥蔵山の仙人、留雲借風真君はおやと声を漏らす。
    『これは帝君の…ふむ、深く聞きたいところだが…』
    「つまらぬ邪推をするな」
    『何もまだ聞いておらぬ。それを邪推とはそう思われても仕方ないという自覚があるということぞ』
    「…降魔に倒れた我へのご慈悲だ。お返しせねばならぬが汚してしまった」
    話が長引けば根掘り葉掘りとつまらぬ世間話に付き合わされかねない。事実だけを掻い摘んで告げ、詮索不要と視線で訴える。
    ふむ、と羽ばたき一つ、留雲借風真君は口の中でそういうことにしておいてやろうなどと転がしながら服を検分する。
    『このくらいであれば妾の絡繰りで洗浄できよう。ひとまず服を置いて、清心と霓裳花を摘んできてはくれぬか』
    言われるままに一瞬のうちに質のよいものを摘んでくると満足げに羽ばたく。ふわりと仙力が溢れたかと思えば傍らに青く光る立方体の箱が現れた。大人が余裕で抱えることができる程度の大きさだ。
    『この箱に服を入れて、水に浸して水元素を付着させたあとは、お前の風元素を当てるとよい。力加減が肝要だ。この布もやるから何度か試すといいだろう』
    「…何のためにこれを作ったのだ」
    単純な疑問が口に上る。留雲借風真君は鳥の仙人、服は必要ないはずだ。
    『もちろん、甘雨と申鶴のためだ。甘雨は小さいころよく麓までころころ転がって土団子のようになっていたであろ 毎回仙術で浄化していては面倒でな。甘雨の修行がてらに仙力を繰って服を洗浄できる絡繰りを作ったまでのこと。申鶴も熱心な修行で汚れた服を仙術で浄化するだけでは追いつかないこともあってな』
    「甘雨のことは…聞かなかったことにしておこう。ところで二人とも氷元素の使い手だ。お前の言う使い方はできないのではないか」
    しげしげと箱を眺めつつ中に流れる力を確認する。どうやら洞天と似たような空間の歪みを感じる。見た目よりは大きなものを入れても問題ないようだ。
    『水元素は問題ない。清らかな水であればよいからそこので十分。辺りに流れる風をいかに己の仙力で集めることができるかが修行になる。ぬしなら己の元素を直接制御する修行に使えただろうが…まあ細かいことはよいであろう。使わぬというのであれば返してもらおうか』
    時折この仙人は絡繰りを作ることに集中しすぎて使い手を想定しないことがあるが…これもその一つかもしれないとは口が裂けても言わないでおくとして、絡繰りを借りると手始めにもらった布を入れて山頂の池に浸し、適当な場所において風元素をぶつける。
    しゅぽんっと奇妙な音がして箱がカタカタと揺れた。しばらくして音が完全に止み水元素が吹き飛んだのを確認すると蓋を開ける。
    小さな池のような不思議な空間が広がっている。手を入れると何かが指先に触れ、そのまま掴む。
    手の中にあったのは細切れになった布の残骸だ。思った以上に力を入れすぎたようだ。最初に上着を入れなくてよかったと蒼白になる。
    残りの布で何度か試し、ようやく布が傷つくことなく取り出せたときには存外に疲れてしまった。
    なるほど、仙力を練る修行になる。先ほどの「思いつき」は訂正することにしよう。
    さてここからだ。
    呼吸を整え、服をそっと箱の中に入れる。淡い光を放って服は箱に吸い込まれた。
    それから先ほど留雲借風真君から言われて摘んできた霓裳花を入れる。あとから香り付けと言われて、だったらもっとよい花を探すべきだったかと少し悔やむ。きっとあの方ならもっと品種にこだわったはずなのだ。
    水に浸し、恭しい手つきで地面に戻す。
    失敗は許されない。同じものを仕立てろと命じられてもどうすればいいのかわからない。
    そもそも自分のためになぜあんな真似をしたのか理解できない。

    (今は、迷うな、集中しろ…)


    くしゃみを一つ。
    ふむと形の良い顎を撫でる。
    いつもと違う体感温度にくしゃみをするとはずいぶん凡人らしくなったものだと独り言ちる。
    上着を忘れたと言えば雇い主に「老化 いくら雰囲気おじいちゃんとはいえ若いんだから勘弁してよねー」とけらけら笑われる始末。
    結局上着を取りに戻ることもなく、一通りの仕事を終えて街はずれに構えた邸宅へと帰り着く。
    扉を開こうとして、さてこれからどうしたものか、こちらから上着を取りに行くべきだろうかと視線を上着を置いてきた場所へと向ける。
    夕日も沈みきり、月がわずかに覗く頃合い、璃月港であっても人気が少なくなる。
    だからだろうか、かの人は一陣の風を伴って足元へと傅いた。
    「珍しいな。お前が街まで出てくるとは」
    宵闇の中でも輝く翡翠の煌めきにうっすらと目を細める。
    「…まずは、己の非力を詫びさせていただきます」
    「挨拶より先にか」
    言葉の割に楽しそうな響きに項垂れていた仙人は頭をあげて慌てる。
    「あっ、いやっ、いえ、その…夜分に申し訳ございません」
    「結局詫びてしまったな」
    さらに慌てふためく高貴な仙人に、沸き起こる愛しさを抑えきれず、それでも機嫌を損ねないよう笑いをこらえながら中に入るよう促す。
    「いいえ、今日はこちらをお返しするために来ました。これ以上鍾離様のお時間をいただくわけにはまいりません」
    捧げるかのように差し出されたのは「忘れてきた」ものだ。丁寧に折りたたまれた上着の上には一輪清心が載せられている。
    ふむと息を吐いただけの返事に、仙人は言葉を継いだ。
    「僭越ながら留雲借風真君の絡繰りにて清めました。その、できましたら二度とこのような真似はなさらないでほしいです」
    不敬だと思っているのか、それでも伝えねばならないと必死なのか小さくなっていく声音だがしっかりと聞こえる。
    「このような真似とは」
    「己の不覚で気絶するような不甲斐ない仙人に、気遣いは無用です」
    今度はしっかりとした拒絶だった。
    「そうか」
    清心を丁寧に取り上げ上着を受け取り扉を開ける。微かな霓裳花の香りにちらり上着を見る。
    仙術で香をたくことはあっても、香を焚きしめるという文化を彼が知っているとは考えにくい。留雲借風真君の気遣いに苦笑する。
    「いつまでそこにいる。忘れ物を届けてくれた礼ぐらいさせてほしいのだが」
    手近なところに清心を置き、どの花瓶が合うだろうかとぼんやり考えを巡らせる。ぽかんと呆気に取られていた仙人は言葉をようやく咀嚼したのか慌てて首を振る。
    「気遣いは無用と申し上げたばかりです。それに忘れ物などと…」
    「散歩の途中に少し暑くなってどこかで脱いで忘れた。凡人にはままあるものらしいぞ」
    「慶雲頂の七天神像まで散歩できる凡人などおりません」
    「ははっ、それもそうか」
    「お戯れを…っ」
    いよいよ動揺と苛立ちを滲ませて立ち去りそうな雰囲気に先手を打って腕を取る。
    「っ 何を」
    「凡人にこうも容易に捕らえられる仙人を放っておけないというだけだ」
    ぐうっと唸り声のような音を出して黙り込む仙人をさらに引き寄せる。ぱさりと上着が落ちる音がした後は恐ろしく静かな時間が流れた。沈黙に耐えられなくなったのは腕の中の仙人だ。
    「…どうして、どうして我に…あんな真似を…我は凡人ではありませぬ…神像の加護があれば、一晩と経たずに傷も癒えます…業障は、抑えきれぬときはその時なのです…」
    涙声にも似た問いかけに優しく頭を撫でて応える。
    「お前が神像を頼ったからだ」
    ぴくりと仙人の肩が揺れる。恐る恐る顔を上げる少年の顔は当惑に揺れている。その様さえも美しいと心底思う。
    「お前の気配が恐ろしく不安定になったのを感じた。また無茶をしたなと呆れたものだ。それからしばらく気配を辿っていたが最終的に神像の、モラクスのもとに行った」
    「そ、それは、神像の加護を受けるためで…」
    「分かっている。だが、神像のもとで安らぎに満ちたお前の顔を見ていたらどうにも我慢ならなかった。どうして俺のもとにこないのかと」
    「鍾離様に手当など…まして業障の影響が…」
    「俺の助けはいらないと。ああ、さっきもそう言ったな。俺は不要だと」
    思ったより早口で、そして存外に堅い口調になった。言葉足らずで伝わらないのがもどかしい。行動で示しても伝わらない。
    「そのようなことは申し上げておりません。ただ気遣いが無用だと」
    弾かれたような慌てぶりに口の端が上がりそうになるのを堪える。
    「俺は必要か」
    はたと仙人の動きが止まる。
    「意味が…分かりかねます。我に鍾離様が…必要とか、不要とか、そのような尺度で測れと仰るのですか…」
    「極論ではそうなるな。まあそのような尺度で割り切るのは面白くない。こういうことは直感だ」
    ますます分からないという表情で戸惑う仙人にふふっと笑みをこぼす。
    「たとえばお前はこうして俺の腕のなかにいるわけだが、なぜ逃げない」
    「え…と……腕を振りほどくのは不敬かと」
    「それだけか」
    ん と小首を傾げてみせると仙人は耳を朱色に染めながら無言になってしまった。

    十分な答えは得られた。

    仙人を解放すると落ちてしまった上着を拾い上げる。
    また少し埃がついてしまったが、まあいい。
    留雲借風真君の絡繰りの話といい聞きたいことはたくさんある。またこの汚れを落としてもらうのも悪くない。


    「あの絡繰りだが…帝君が所望している。一つもらい受けたい」
    代金の代わりと鍾離が選び抜いた菓子や料理の材料が目の前に並べられる。
    『帝君の頼みとあればやぶさかではないが、あの方が市井で風元素を繰るのは人目につくのではないか』
    ふわりと目の前に現れた箱を受け取る。
    「我が使う。問題ない」
    『ほう』
    「なんだ」
    『いつ使うのかは聞かないでおこう』
    淡々とした口調だが揶揄うような雰囲気は十分にくみ取れる。長居は無用と箱を抱えて飛び去った。
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