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    teasぱんだ

    @nice1923joker

    紅茶とパンダが好き。
    好きなものを好きな時に好きなだけ。
    原ネ申アルカヴェ沼に落ちました。
    APH非公式二次創作アカウント。
    この世に存在する全てのものと関係ありません。
    䊔 固定ハピエン厨
    小説・イラスト初心者です。

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    teasぱんだ

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    5/26🌱🏛️ワンドロお題お借りしました。
    せっかく書いたので供養です。全年齢。

    #アルカヴェ
    haikaveh

    ワンドロ【スケッチ】【片付け】 絵にあって写真機にはないもの。そのひとつは、描いた本人から見えている世界を好きに反映できることが挙げられると思う。
     写真は日常のワンシーンをまるで時間を止めたように切り取ることができ、その瞬間に息づいていたもの、もう戻らないものも閉じ込めることができる。絵にもそれは可能だが、日常を描いた人がどう感じているかで映し出されるものは大きく変わるだろう。
    「…………」
     もう長いこと、カーヴェは手に持った一枚の紙を見下ろしていた。
     朝焼けが窓の向こうに顔を出し始めた時間。昨晩寝た時間は覚えていない。ティナリとセノと、コレイと旅人とパイモンと一緒にランバド酒場で学院祭のお疲れ会をして、アルハイゼンが帰ってきて、持ち帰ってきた料理を食べてるあいつを見ながら酒をあけて。
     この絵を描いたのは、そのあと部屋に戻ってからだろう。
    「これは、……あまりにもな……」
     紙に描かれた絵。柔らかい多くの斜線で描かれていたのはアルハイゼンだ。アルハイゼンが、ふと笑ってしまったような表情の。カーヴェでもあまり見かけるのことのない表情だった。
     これまで短くはない年数をアルハイゼンと過ごしているが、学生の頃を思い出して指折りで足りるほどしかこの顔を見たことがない。
     実際に、本当にこの表情だったかは確認することはできない。写真機のように日常ありのままを映し出しているわけではないのだ。この絵は、このスケッチは、カーヴェから見た世界がおおいに反映されている。
    「ダダ漏れすぎるだろう……」
     言い終えて、手のひらで額を覆った。表情の真意はわからなくとも、作者からみたモデルはこんな風に見えている何よりの証拠なのだ。どれだけ表に出ないように制御していても、形になってしまっては目を逸らすこともできない。
     スケッチの中のアルハイゼンは機嫌が良さそうで、嬉しそうで、ふと見てしまったその表情がカーヴェの網膜に焼き付いたのだろう。
     何がきっかけで見かけたのかは知らないが、その顔が頭から離れなくてスケッチを描いて学院祭の疲れで寝落ち。そして今に至る。
    「…………はぁ」
     好きな人というのは自分から見てこう見えていたのかと思う。昨晩のように酒が入った状態ではない素面で知らされるのは居心地が悪く、それにしては幻想がすぎないかと疑いの心境すら生まれてくる。
     とにかくこの絵が見つかるわけにはいかない。それに、無意識のうちにこんなものを描いてしまうくらい感情への制御ができなくなっているのは重大な問題だ。
    「よし。……まずはガンダルヴァ村にでも行こうかな」
     家を出て行こうと思った。
     学院祭の賞金を手にしなかったから、不動産を購入することはできなかった。しかし、三日もあれば出ていけると旅人に豪語しただけあって、カーヴェの部屋はかなり整理されている。
     数日分の荷物を持って、後少しの片付けを終えて、今日の夕方にはこの家を出ていけるだろう。
     完全に出ることは叶わなくても、一週間くらい……制御できなくなってきた感情を落ち着かせるために色々回ってみるのが良い。
     静かな隣室に気づかれないように大きなカバンを取り出して、カーヴェはその中に荷物を放り込んでいく。
     ふと昨日の教令院での会話を思い出して手をとめた。
    『二十年前に君の父親とあっていた可能性が高い』
    『感謝がしたいなら、普段の三倍は誠意を見せろ。さあ、もう一回だ』
     可愛げのない言葉と裏に隠された行動。あれのせいか、感情が制御できなくなったのは、と息をつく。
     カーヴェですら目を背けていた父の件を、アルハイゼンは自分のためではなくカーヴェのために調査していた。
     その事実に揺れ動かないわけがない。アルハイゼンを好きだという感情を抱いてから、何年も経っているのだから。
     また物思いに耽りそうになったのを首を振って追い払う。
    「ダメだ、コーヒーでも飲もう……」
     睡眠時間も短いし、思考回路がぐるぐると回っている。溢れ出しそうな感情を人はどうやって制御するのだろう。カーヴェに教えてくれる人はいなかった。
     家出の準備と片付けの手をとめて、キッチンにフラフラと歩いていく。慣れた動作でコーヒーを淹れると芳醇な香りが鼻腔を満たした。
     コーヒーを持って部屋に戻り、片付けを再開しようとしたところで手が滑って本を落としてしまった。拾い上げようとすると、机の上の紙がはらりと落ちていく。滑るように空を切ったその紙は、先ほど閉め忘れていた扉の下から廊下へ出ていく。
    「あ、ちょ……」
     まさにアルハイゼンが描かれたスケッチの紙だった。焦って廊下に飛び出して、カーヴェは目を見張る。
    「あ、アルハイゼン……」
     廊下に立っていたのは同居人。足元に流れてきた紙を拾う片想いの相手。カーヴェがその紙を取り上げるよりも前に、アルハイゼンは何が描かれているかを見てしまった。
     サァっと血の気が引く。引かれるだろう。まさかこんなことになるなんて思わなかった。眉を寄せる表情を想像し、言い訳を口にしようとしたところで。
    「……っ」
     アルハイゼンが赤面し、顔を手で覆った。
    「ん?」
     状況の整理がつかずに呆然と立ち尽くす男二人。朝の光がステンドグラス越しに廊下を映し出す中で、あまりにも滑稽な状況だった。
     すぐにカーヴェは紙を取り戻さなければと思い出し、棒立ちのアルハイゼンの手元に手を伸ばす。後少しのところで、その紙は頭上高くへとあげられてしまった。
    「おいっ! アルハイゼンっ!」
    「…………」
     特に言い返しもせずカーヴェの手が届かないところへ紙をあげているのが腹立たしい。そもそも、なんだその反応は。
    「その紙を返すんだ」
     そう言ってから、そのスケッチがカーヴェが描いたものだとアルハイゼンは知らないのではと思いつく。両親の絵を描いて以降、カーヴェは人物スケッチをやめていた。だから見たことがないはずだ。
    「その絵は、えっと、知り合いが描いたもので、だから」「知り合い? 君が描いたものだろう。そして、これは俺のものだ」
     ようやく口を開いたと思えばそう言われ、カーヴェはさらに混乱する。
    「はぁ? 訳のわからないことを言うな。僕が描いたという証拠はないだろう。それに、君がモデルだとしても君のものじゃないはずだ」
    「ほう。いいだろう。少し待て」
     アルハイゼンは頷くと、すぐ隣にあった自室のドアを開ける。その手にはまだ絵が掴まれたままで、カーヴェは立ち去ることもできずにその背中をじっと見つめる。
    「はい、これ」
     室内から持ってこられた紙の束。
     訝しげに受け取って、裏面が向けられていた紙をひっくり返す。カーヴェは目を見張った。
    「なっ……! なんだ、これっ」
     紙の束は全てアルハイゼンの絵だった。本を読んでいたり、酒を飲んでいたり、コチラを見ていたり。毎日を切り抜いたかのような日常風景。それが何枚も、十枚近くも描かれていた。
     そしてその全てが同じタッチで描かれている。まさに、カーヴェの手癖で描かれたスケッチだ。
    「君が俺にくれたものだが」
    「嘘だろ、おい……」
     信じられなくて震える手からアルハイゼンによってスケッチが取り上げられる。カーヴェが廃棄しようとしたのに気づかれたのだろう。
     カーヴェはチッと舌打ちをして、アルハイゼンを睨みつけた。
    「どうして僕が君の絵を? それに、記憶がない時の行動証拠なんて残しておくべきじゃない!」
    「俺に対してあげるよと手渡してきたのは君自身だ。記憶があるのかないのか知らないから言及はしなかったが、まさか全て無意識下でおこわなわれていたこととは、恐れ入る」
    「減らず口だな! 作者命令だ。その絵を返してもらおう」
    「モデルの著作権と譲渡契約違反になる。これは俺のものだ」
    「じゃあ」
     一旦カーヴェは息を止めて、勇気を出して抗議する。
    「さっき廊下で拾った絵は君にあげていない。僕のものだから、返せ」
    「一つ聞きたい」
    「はぁ?」
     話を逸らす言葉に眉を跳ね上げる。腕を組んで睨むと、決して紙の束から手を離さないままのアルハイゼンが、一度言葉を切ってから問いかけてきた。
    「君から見た俺はあの絵の通りなのか?」
     あの絵の通り。つまり、明らかに恋愛感情がのせられて描かれた絵のことだ。カーヴェから見て、アルハイゼンがあのように見えているのかという確認。
     それは実質、カーヴェがアルハイゼンへ抱いている感情への明言要求ではないか?
     言い返す言葉を探っている頭の隅で違和感に気づく。そういえば、なぜアルハイゼンはあの絵を見て赤面したのだろう。らしくもない表情を思い出して、こちらも照れてしまいそうになる。
     しかし頭の回転だけは早かった。事実確認のためにカーヴェは返答とは違う言葉を返す。
    「まさかと思うけど、あれは僕があげた絵を受け取った後の君ってことか」
    「……おそらくそうだろう」
     この状況で、白旗をあげたのはアルハイゼンだった。
     あの嬉しそうな表情が、カーヴェが描いたアルハイゼンの絵を受け取った後だって?
     そんなの。
    「そんなの、告白しているようなものじゃないか」
     思考はカーヴェの自制の隙をついて口からこぼれ、見逃さなかったアルハイゼンによって捉えられる。
    「なるほど……今なら返事が聞けるようだな」
    「な、んの?」
    「俺からの告白の返事だと、この絵たちを渡してきただろう。いい加減、正気の言葉で返してもらう」
    「嘘だろう?」
    「カーヴェ」
     薄暗い室内からこちらを見るアルハイゼンの目が光を反射させる。猛禽類が獲物を狙うかのような瞳に、カーヴェは動けなくなってしまう。
    「俺は君が好きだ。恋人になって欲しい」
     写真よりもスケッチよりも雄弁な表情で、カーヴェの答えなどアルハイゼンには筒抜けだろう。何かを決心したような表情のアルハイゼンから伸ばされた指先に、カーヴェはそっと目を閉じた。


    End
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