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    mitsuhitomugi

    @mitsuhitomugi

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    mitsuhitomugi

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    真田と荒垣の幼少期の話です。勢い任せに書いたらそれなりの文量になったので上げます。
    過去捏造設定甚だしい(特に真田家)のでご注意ください。

    #真田明彦
    akihikoSanada
    #荒垣真次郎
    shinjiroArakaki
    #P3

    転校生 その日は、明彦が初めて月光館学園の生徒として教室に入った日だった。転校生がそんなに珍しかったのか、明彦はあっという間に同級生達に取り囲まれ、為す術無く見世物同然の存在となった。元来臆病な性格の明彦には、自分に向けられた関心が好意によるものだとは到底思えなかった。子供たちが皆一様に首に赤や黒のリボンを着け、同じ白いシャツの上に同じ黒い上着を羽織っていることすら不気味に思えた。こちらへ向けてしきりに何か呼びかけてくる、その嵐のような騒々しさに狼狽えて、明彦は少しも声を発することができなかった。どこから来たの、前の学校はどんなところだったの、と矢継早に質問を投げかけられる中、明彦は黙り込んだまま、ここに自分を知る者が一人もいない事実を突きつけられていた。
     そうして孤独に耐えながら時間が過ぎるのを待ち、一緒に帰ろうと無邪気に誘う同級生を振り払って、逃げるように「真田」と書かれた表札の下がった家へ駆けこんだ。重たいドアが閉まる音を聞いてから、上がった息を整え、それからやっと小さく「ただいま」と言った。リビングからお帰りなさいと返事があったが、リビングへは向かわず、自分のために用意された部屋へ入った。
     一人きりの空間になると、途端に体の力が抜けた。両方の肩紐を下ろすと、そのまま手から滑ってランドセルがどすんと床に落ちた。部屋の明かりも点けないまま、明彦はその場に座り込んだ。頭の中には、救えなかった妹の姿が浮かんでいた。

     そんな日々を暫く過ごした。次第に同級生は転校生の存在に慣れたのか、それとも面白い反応が返ってこないことに気が付いたのか、明彦を取り囲むことも減っていった。僅かばかりの静けさを手に入れた明彦は一人、昔のことを思った。
     ほんの少し前まで寝起きしていた孤児院には、こんなに大勢の子供はいなかった。同い年の子供はただ一人だけで、明彦が来るよりも前から孤児院で過ごしていた彼は、明彦と妹に色々なことを教えてくれた。喧嘩もたくさんした。明彦よりも背が高く、一ヶ月と少しだけ先に生まれた彼は、同い年でありながら兄のような存在だった。そのことを院の先生に言うと、双子の兄弟のようだと言われた。両親の顔を知らなかった妹は、彼のことを本当の兄だと勘違いしていた。あいつは本当は兄じゃないと教えると、それに戸惑って妹は泣いてしまった。妹を泣き止ませるために、明彦と彼とであの手この手を試した。結局妹は泣き疲れて眠ってしまい、疲れた顔のまま二人で笑った。
     貧しいながらも温かく楽しかった日々を懐かしんでいると、目の淵に涙が溜まった。ここに友人はいないし、妹は自分のせいでこの世のどこにもいなくなってしまった。孤児院も焼け落ちてしまってもう帰ることもできない。唇を噛み締めて涙が溢れ出すのを止めようと必死になっていると、どこかから友人の「アキは泣き虫だからな」と揶揄う声が聞こえたような気がした。幸い、同級生が明彦への関心を失っていたお陰で、泣き顔を誰にも見られずに済んだ。
     
     友人が月光館学園にやってきたのは、その翌日のことだった。
     彼が教室に入ってきた瞬間、明彦は思わず席から立ち上がって、シンジ、と叫んだ。ずっと黙ってばかりだった明彦が突然大声を出したことに驚いて、教室中がどよめいた。友人は明彦の顔だけを見て、へへっ、と照れ臭そうに笑った。
     
     彼――真次郎は、あっという間に同級生の輪の中に溶け込んでしまった。明彦が完敗した怒涛の質問攻めも上手く対処しているらしく、時折歓声が上がるのが聞こえた。真次郎がすぐそこにいるのに、どこか遠くへ行ってしまうようで寂しかった。同級生達の隙間から真次郎の横顔をぼんやり見ていると、不意にその顔がこちらを向いた。
    「な、アキ」
    突然呼びかけられたことに驚いたが、それ以上の嬉しさに心が沸くのを明彦は感じた。孤児院から離れてそんなに経っていないはずなのに、アキと呼ばれるのが随分懐かしく思えた。
    「なんだよ、シンジ」
    いつも通りに返事をしたつもりだったが、妙な高揚と緊張のせいで声が上ずってしまった。真次郎はそれを笑うでもなくこちらへずんずん向かってきて、明彦の机に手を置くと、神妙な面持ちで言った。
    「なあ、この学校、すっげえ白いよな?」
    「は?」
    今度こそ、緊張感のないいつも通りの声を出した。というより、あまりに突飛なことを言われ、驚き呆れるよりほかになかったのだ。思いがけず念願の再会を果たした親友との久々の会話がまさかこんなものになろうとは。訝しげな目で見られた真次郎は、真剣な顔で明彦に力説した。
    「だってよ、外から見ても白かっただろ?で、中入っても白い。壁も床も、机まで白いんだよ。俺らの前の学校ってこんなじゃなかっただろ?」
    真次郎に言われて、明彦は周りをぐるりと見渡してみた。確かに、壁も床も机も白い。以前まで通っていた学校は、壁は白かったかもしれないが、床や机は木で出来ていた気がする。ずっと俯いていたせいで気が付かなかったが、真次郎の言う通りだった。
    「本当だ。白い」
    素直に真次郎に同意するが、なぜだか今度は真次郎が呆れた顔をしていた。
    「お前、今気付いたのかよ!?」
    真次郎の言葉を皮切りに、周囲から笑い声が上がった。ヘンなの、という声に交じって、白いのがフツウだって、と抗議の声も聞こえてくる。ついに真次郎まで笑い出してしまい、明彦は悔しいやら恥ずかしいやらで、言い返さずにはいられなかった。
    「なんだよ、シンジが白いって言うから俺もそうだなって思ったのに、なんで笑うんだよ!」
    「まさか気付いてないとは思わねえだろ!なんだよ、本当だ。って!」
    「別にいいだろ!?じゃあお前は今日見たもの全部何色か言えるのかよ!?」
    「なんでそうなんだよ、バカかよ!」
    教室の中にいることも忘れ、二人はぎゃあぎゃあと喚きだした。呆気に取られた同級生の一人が先生を呼びに行って仲裁が入るまで、二人は互いに相手を言い負かすことしか考えていなかった。その間、明彦の心から孤独感や寂しさはすっかり消え去っていた。

     放課後になると、明彦と真次郎は喧嘩の余韻を引き摺ったまま、不機嫌な顔で並んで帰った。また会えて嬉しいとか、ここに来るなんて知らなかったとか、言いたいことは色々あったが、お互いに黙り込んだままだった。昔から喧嘩の後は決まってこうだ。相手が話を切り出してくれることを期待しながら、自分からは仲直りなんてしてやるものかと意地を張る。そうして真次郎と喋ったり遊んだりできないことに明彦が耐えられなくなった辺りで、それを察したように真次郎が先に明彦に声を掛けるのがいつもの流れだった。その度に明彦は嬉しくなって、そして同時に少し真次郎に負けた気分になった。
    「……」
    やはり今回も、明彦は真次郎と話せないことに耐えられそうになかった。俯いたままちらりと横目で真次郎の表情を盗み見ようとすると、その先に真田の家が見えた。帰る先が真次郎と同じでないことに気付き、明彦は心臓を冷たい手に鷲掴みにされたような感覚を覚えた。真次郎は真田の家の場所を知らない。となれば、明彦から言い出さなければ今日は互いに黙ったまま解散することになってしまう。
     意を決して、明彦は足を止めて口を開いた。
    「あ、のさ……」
    やっとの思いで出した声はわずかに震えていた。声だけではない。制服の裾を握る指先も震えている。心臓は先ほどよりもさらにばくばくと暴れ、緊張で顔を上げることすらままならない。隣の真次郎が明彦に合わせて足を止めたのを確認すると、少しだけ安心した。
    「あのな。さっき、見たんだ。学校。外から」
    ぽつりぽつりと少しずつ言葉を発する。真次郎はただ黙って聞いていた。
    明彦はついに顔を上げて、真次郎の方に向き直った。
    「白いんだな」
    「んだよそれ!」
    真次郎は思い切り噴き出してしまった。今度は怒りよりも動揺が大きく、明彦は腹を抱えて笑い転げる真次郎を前にその場で狼狽えるしかなかった。やがて真次郎は落ち着いてくると、少し困ったような顔で明彦の方を向いた。
    「アキお前、ずっと気にしてたのかよ」
    「だって、シンジがそう言ったんだろ」
    「んな気にすることじゃねえだろ」
    呆れたような、それでいて諭すような優しい声だった。なんだかむず痒くなってきて、明彦は話題を逸らした。
    「にしたって、あんなに笑うことないだろ。というか、笑うところじゃないだろ」
    「や、なんつーか、自分でもわかんねえ。なんであんな笑ったんだろうな」
    「変なヤツ」
    「アキにだけは言われたくねえ」
    真次郎がそう言うと、今度は二人揃って笑い出した。ひとしきり笑った後、明彦は少し寂しげな顔で真田の家の方を指差した。
    「ここ、俺の……今の、家なんだ」
    「そうか」
    明彦の人差し指の先には「真田」と書かれた表札があった。明彦の苗字が自分の知っていたものから変わったことを静かに受け入れ、真次郎は一瞬だけ明彦と同じ寂しそうな顔をした後、笑って言った。
    「じゃあ、またな」
    「……ああ、また明日な!」
    大きく手を振って、二人は笑顔を交わし合って別れた。おはようやおやすみを言っていた相手に別れの挨拶をするのは、彼らにとっては勇気の要ることだった。

     子供の手には少し重いドアを開け、明彦は家の中に入った。ドアの閉まる音を聞いてから、リビングに向かってただいまを言った。
    「お帰りなさい、明彦」
    リビングから出てきた養母は、明彦の姿を見るなりひどく嬉しそうな顔になった。明彦が部屋に引っ込んでしまわないことに感激したらしい。上機嫌な母にどう接すればいいか分からず、明彦は困惑してしまった。
    「あの、俺、ランドセル置いてくる……」
    「待って、明彦!」
    どうにか退路を見つけたものの、引き止められてしまってはどうしようもない。どうしたものかと考えていると、母はそっと屈んで明彦と目線を合わせ、そのまま視線を明彦の制服のリボンのあたりに下げた。
    「タイが少し歪んでるわね。お父さんが帰ってきたら結び方を教えてもらいましょう。お父さん、そういうの得意だから」
    そう言うと、母はリビングの奥へ引っ込んでいった。暫く呆然としていたが、やがてはっと思い出して明彦は部屋へ向かった。
     自室に入ると、壁のスイッチに触れて電気を点けて、学習机の傍らにランドセルを下ろした。制服の上着を脱いでハンガーに掛け、ベッドに倒れこむ。
    「ちょっと疲れたな……」
    ため息を一つ吐き出すと、静かに目を閉じた。今日の出来事を順に振り返ってみると、あまりの急展開に思わず笑いが込み上げてきた。
    真次郎が転校してきたというだけで、どうしてこうも全てが様変わりしたのか。嬉しいような可笑しいような、明彦自身にもなんだかわからなくなって、声を抑えて笑った。
    「美紀も、お兄ちゃん達は一緒の方が良いよな?」
    明彦の頭に浮かんだ妹は、どこか満足そうに笑っていた。
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    mitsuhitomugi

    DONE3月5日には間に合わなかったし言うほど3月5日に寄せた話でもない、後輩達の卒業を祝う美鶴の話です。
    スターチス その日中に終えねばならない粗方の仕事を片付け、ふうと息を吐く。するとふっと力が抜けて、こんなにも肩に力を入れていたのかと美鶴はようやく気が付いた。
     ここ暫くは公安と共同での非公式シャドウ制圧部署の設立及び始動に向けた各所への調整、交渉、加えて各地に出現したシャドウの対処など、やるべきことが隙間なく詰まっていて休む暇がほとんど無い。当然、仕事で手抜きなどするつもりは毛頭無いが、やはり疲労は相応に溜まってしまうものである。
     気分転換に紅茶でも淹れよう。そう思い立ち席を立った時、窓から差し込む夕陽が目に入った。時計を見やると、時刻はそろそろ18時になろうかという頃だった。
     ほんの少し前までは、この時間になるととっくに陽は落ち切っていた気がする。春というのはこうも知らぬ間に訪れているものだったか。大人になると時の流れが早くなる、とは聞いたことがあるものの、いざ実感すると何かに置いて行かれてしまったような寂しさがあった。それはきっと、1年前まで寮で共同生活をしていた仲間達を想う懐かしさと一体の感情なのだろうと美鶴は思う。
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