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    mitsuhitomugi

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    mitsuhitomugi

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    高1の荒垣さんの誕生日小説です。
    盛大な遅刻!!!

    #荒垣真次郎
    shinjiroArakaki
    #真田明彦
    akihikoSanada

    変哲もない誕生日昇降口を抜けると、強い日差しが一気に襲い掛かってきた。あまりの眩しさに思わず目を細める。耳には喧しい蝉の声がひっきりなしに聞こえてきて、鬱陶しいことこの上ない。あまりの不快感に、荒垣はうんざりした心持ちで溜息を吐いた。
    8月11日。本来ならば夏休み真っ只中だが、荒垣はまるで普通の平日のように学校に来る羽目になった。原因は普段の授業態度にある。無断欠席の常習犯でまともに出席すらしない日もあるのを見咎め、担任が強制的に受講者名簿に荒垣の名を加えたのだった。
    「ったく、なんだって夏休みにこんな……」
    「お前が普段サボってばかりいるせいだろ」
    隣で額の汗を拭いながら真田が言った。荒垣とは対照的に授業は皆勤、日頃の自主学習も欠かさず当然成績も申し分ない真田が何故わざわざ夏期講習など受けにきたのかは判らない。真田とはもう随分長い付き合いだが、時折思考が掴めないことがある。
    「うるせえ、この正論バカ」
    「バカはどっちだこのサボり魔が」
    「チッ……」
    いつもならば子供じみた憎まれ口の応酬に発展するところだが、流石の暑さに言い返すにもなれず、軽い舌打ち一つで聞き流してやることにした。真田もそれ以上は何も言わず、黙って荒垣と共に学校を後にした。

    ポートアイランド駅に到着し、そのままモノレールに乗り込む。幸い大して乗客はおらず、二人並んで座席に座ることができた。空調が効いた車内では、制服のシャツに染み込んだ汗が急速に冷やされて気持ち悪いとすら感じる。横目でちらと真田の方を見ると、未だに汗が引いていないのか、こめかみの辺りに薄らと水滴が見えた。若干息も荒いように思える。もしやどこか具合でも悪いのではないか。そんな懸念が頭を過り、荒垣の背に嫌な寒さが走った。
    「おいアキ、お前……」
    「話しかけるな。集中してるんだ」
    「あ?」
    一体何のことかと思い真田を改めてよく見ると、腿の辺りが座席から浮いている。どうやら空気イスの姿勢を維持しているようだった。古文の授業で聞いた覚えがあるが、驚き呆れるとはこういう状況を言うのだろうか。心配の反動で、荒垣は全身の力が抜けていくのを感じた。
    「ちっとは常識ってもんを考えろよ……」
    「今日はトレーニングに費やす時間が減ったからな、こういう時間を有効活用しないと気が済まん」
    「……そうかよ」
    真田らしいと言えば実に真田らしい理由である。休める時に休まないのもどうかと思うが、本人が満足しているならそれでいいだろう。真横で空気イスに耐えながら小刻みに震える真田から視線を移し、荒垣は向かいの座席越しに窓の外を眺めた。

    やがてモノレールは巌戸台駅に到着した。停車する瞬間のひと揺れにどうにか真田が打ち勝ったのを見届けてから席を立つ。改札を出て再び外気に晒されると、今度は逆に冷房の効きすぎたホームとの落差に一瞬くらりと眩惑された。相変わらず蝉の声は喧しく響き渡り、不快指数をさらに上昇させる。
    「暑ぃ……」
    思わず声が出た。全くだ、と同意する真田の声色にも疲れが滲んでいる。最も、真田の疲労の原因は気温だけではないだろうが。
    「こうも暑いととてもラーメンなんて食う気分じゃないな。わかつにするか?」
    「ん?ああそうだな……」
    暑さのせいで思考がぼんやりしたまま、荒垣は適当に相槌を打った。それとほぼ同時に目の前の歩行者用信号が赤を灯し、横断歩道の前で立ち止まる。照りつける太陽の下で立ちっぱなしというのはなかなかに酷だ。無意味にも信号機を忌々しげに睨みつけていると、不意に真田が声を掛けてきた。
    「お前、何を食うかはもう決めたのか」
    「決めてねえ。つかお前には関係無えだろ」
    「あるさ。今日は俺が奢ってやるんだからな」
    真田の言葉の意図がわからず、荒垣は眉間に深い皺を寄せた。
    「なんでそうなんだよ」
    「なんでって……お前は自分の誕生日も覚えてないのか」
    「……あ?」
    言われて初めて思い出した。確かに8月11日は荒垣の誕生日だった。それ自体はどうだって良かったが、仕方がない奴だ、とでも言わんばかりの間抜けを見るような真田の顔がどうも気に食わない。素直に祝われてやるのも癪で、荒垣はつい悪態をついた。
    「別に忘れちゃいねーよ」
    「嘘だな」
    「うるせえ。ほらさっさと行くぞ」
    信号機が緑色に光ったのを確認し、荒垣は足早に横断歩道を渡る。おい待てシンジ、と後ろから声がしたかと思えば、真田はすぐに真横に並んできた。
    「何怒ってるんだ」
    「うるせえ」
    「お前は本当に昔から変わらんな。意固地な奴だ」
    「ほっとけ」
    「まあいい。とにかく、今日のところは好きなものを食えばいい。遠慮はいらないからな」
    子供の頃は自分の後ろにくっついて来て、何をするにも不安げにしていた癖に。ふと出会って間もない頃の真田を思い出し、随分立派になったものだと柄にもなく感慨に耽る。今日くらいはこいつの厚意に甘えてやってもいいかもしれない。そんなことを考えながら、商店街のアーチの下をくぐった。
    「そんじゃ、今日は大盛りにでもすっかな」
    「ああ、好きにしろ」
    「ならおかわりも食っちまうか。今日は勉強なんかしたせいで腹減ってんだ」
    半分揶揄うような調子で荒垣が言うと、真田は呆れた様子で溜め息を吐いた。
    「お前、少しは加減ってものをだな……」
    「好きなもん食えっつったのはアキだろ」
    「こっちはお前のせいで講習を受ける羽目になったんだぞ」
    「なんでそうなる」
    「美鶴の奴がな……。シンジが夏期講習を受けることになったと言ったら『ついでだからお前も受けてこい』だと」
    「はっ、そりゃひでぇ話だ」
    真田が講習に参加した真相に納得する以上に、桐条の名を出した途端に分かりやすく弱気な態度になったのが可笑しくて、荒垣は笑いを堪えられなかった。負けん気が強く自分の前ではすぐムキになる真田も、どうやら彼女には逆らえないらしい。
    「クソッ……こうなったら俺も大盛りにしてやる……」
    「そんで気が済むならいいんじゃねえか」
    そんな話をしている内にわかつの店先まで辿り着いた。引き戸を開けて暖簾を潜る。店員に案内されるままに席に着き、向かい合わせになって座った。
    「まあ、お陰でこうしてお前と飯が食える訳だ。悪い事ばかりでもないな」
    メニュー表を眺めながら真田が言う。よくもまあこんなクサいことが平然と言えたものだ。真田の言葉に裏や他意なんてものが存在しないことを熟知しているばかりに、荒垣はむず痒い感覚を覚える。照れ隠しでもするように、グラスの水を一気に喉に流し込んだ。
    「で、決めたのか」
    「まあな」
    言いながら、真田はこちらにメニューを寄越してくる。それを受け取って一通り目を通すと、荒垣は無言で真田に返した。それを注文が決まった合図と受け取り、真田は店員を呼んだ。ご注文伺います、と言いながら店員は慣れた様子で手の平サイズの端末を開く。
    「スタミナ定食一つ」
    「生姜焼き定食で」
    両方とも大盛りで、と付け加えたのは二人同時だった。意図せず声を揃えてしまったのが妙に気まずくて、荒垣は店員から目を逸らした。
    「はい、少々お待ち下さい」
    そう言って去っていくのを見届けると、真田は改めて荒垣を見た。
    「なんだ、意外と普通だな」
    「……何の話だよ」
    「大盛りだろ?もっとガッツリしたものが来ると思ったが」
    「何だっていいだろ」
    「……夏バテか?」
    「違ェよ」
    他愛無い会話をしていると、やがて料理が運ばれて来た。だが、荒垣の分より先に卓に置かれたスタミナ定食を前に、真田は箸を付けようとしない。
    「食わねえのか」
    「今日の主役はお前だろ。先に食うわけにはいかん」
    真田は妙なところで律儀な奴だ。恐らくは、共に育った孤児院を離れた後に養家で身に付けたものなのだろう。性根の真っ直ぐな真田には似合いだとは思うが、その真面目さが自分に向けられるのはどこか落ち着かなかった。
    「別に良いだろ、好きに食えば」
    「何だよ、昔だって全員揃ってからでないといただきますも言えなかったろ」
    俺たちが時間を忘れて遊んでいたせいで皆が飯を食えなくて先生に叱られたこともあったな、などと懐かしそうに真田は微笑む。本当にこいつは、文字通り何も変わっちゃいない。
    「仕方ねえ奴だな」
    「お前だって大概だろ」
    言いながら、同時に二人は笑った。そうしている内に荒垣の分の料理も運ばれて来て、どちらともなく姿勢を正す。
    「じゃあ、あれだな。『声を合わせて……』」
    「『声を揃えて』じゃなかったか?」
    「どっちでもいいんだよ」
    胸の前で手を合わせ、ずっと昔に孤児院でやっていた恒例の挨拶を再現する。せーの、と小さく真田が言えば、二人は息を合わせた。
    「「いただきます」」
    生姜焼きを口に運びながら、それとなく真田の方を見る。ちゃんと野菜も食べていることを確認すると、荒垣は満足して自分の食事に集中した。
    「シンジ」
    不意に真田に呼ばれて顔を上げる。
    「改めて、誕生日おめでとう」
    「……ああ、ありがとな」
    再び山盛りになった豚肉に箸を入れる。それなりに食べ慣れたはずの味が、不思議と普段より旨いような気がした。
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    mitsuhitomugi

    DONE3月5日には間に合わなかったし言うほど3月5日に寄せた話でもない、後輩達の卒業を祝う美鶴の話です。
    スターチス その日中に終えねばならない粗方の仕事を片付け、ふうと息を吐く。するとふっと力が抜けて、こんなにも肩に力を入れていたのかと美鶴はようやく気が付いた。
     ここ暫くは公安と共同での非公式シャドウ制圧部署の設立及び始動に向けた各所への調整、交渉、加えて各地に出現したシャドウの対処など、やるべきことが隙間なく詰まっていて休む暇がほとんど無い。当然、仕事で手抜きなどするつもりは毛頭無いが、やはり疲労は相応に溜まってしまうものである。
     気分転換に紅茶でも淹れよう。そう思い立ち席を立った時、窓から差し込む夕陽が目に入った。時計を見やると、時刻はそろそろ18時になろうかという頃だった。
     ほんの少し前までは、この時間になるととっくに陽は落ち切っていた気がする。春というのはこうも知らぬ間に訪れているものだったか。大人になると時の流れが早くなる、とは聞いたことがあるものの、いざ実感すると何かに置いて行かれてしまったような寂しさがあった。それはきっと、1年前まで寮で共同生活をしていた仲間達を想う懐かしさと一体の感情なのだろうと美鶴は思う。
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