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    かかし

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    かかし

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    ヒバハン♀できました。
    全て捏造の産物です。
    この物語はフィクションです。お酒の一気飲みは止めましょう。
    なんでも許せる方のみお進みください。

    #ビバハン♀

    結局のところは あの人は癖毛ではない。
     あの人は声が低くない。
     会う男全てにかの人の面影を探す自分に心底嫌気をさしながら、それでもなけなしの自信を取り戻すために話しかけてきた男へ笑う。大衆向けにと作られた料理と並ぶ酒。
     隣に女、向かいに男。

     狩人は所謂合コンの真っ最中である。

     発端など何もない。
     ただ、意中の男に一切相手にされず癇癪を起こした女の意地の成の果て。魅力がないのか年の差か、もしやもう恋人がいるのか等と思い悩んで早幾年。
     おこちゃま、マセガキ、お嬢ちゃん。
     何時まで経っても子供扱いの憎くて愛しいひげ面の雄は、少しでも女の魅力を身に付けようと躍起になっていた狩人の努力を粉々に打ち砕く。そのくせ、宥めるように頭を撫でるのだから質も悪い。散々女に言い寄られて、めんどくせぇと言いながら狩人には構う雄に、期待するな等と殺生な仕打ち。 手のひらの上でころころと転がされても、何だかんだと耐えてきた、のに。

     一世一代の心で挑んだ夏祭り。
     目立つ長身を追いかけた先にあったのは女に言い寄られている意中の男であった。むっちりとした肢体を絡ませ、婀娜っぽい仕草で迫る女と逃げぬ男。そんなもの、結論など目に見えている。対する自分は身体こそ育ったものの、手練手管も何もない。
     ただ、男が、ヒバサが好きなだけである。
     ぐ、と噛んだ歯はぬるついた紅ですべり、赤く染まって気持ち悪い。私の男に近寄るな、と啖呵を切れば良かったのだろうか。突き詰めれば顔馴染み。縛る権利も口を出す自由も持ち合わせていない負け犬。そう思えばなんと術のないことか。
     思えば初恋からずっと、ずっと、一途な想いを掲げ、報われたこと等ない。言い寄る男も知らぬ身で、あの雄をどう射止められるのか。
     …ならば、経験を積むべきでは?
     
     最早正常な考えなど見込めぬ、静かに癇癪を起こした狩人は明後日の方向へと思考を飛ばす。そしてこの狩人、行動力の化身であった。あれよあれよと里娘の噂を聞きつけまんまと潜り込んだのである。 だがまぁ、その後は察して欲しい。ぎこちない自己紹介、可愛い女に集中する会話、やけに酒を薦める男にアピールを行うために猫をかぶる里娘。
     戦場である。
     先ずは興味を持つところから、と意中の雄に似たところを探し始めた時点でもう狩人は負けていた。
     あの髭が一番似てるな。そう狙いを定めた時点で里村は各自ロックオンする雄を決めており、何なら骨肉の争いにまで発展していた。開始半刻でこの有り様である。激高したラージャンに素っ裸で挑む方が、まだ勝算がある程の見事な負け戦であった。
     仕方ない、と髪型だけは似ている残った雄の傍で、くぴくぴと酒を飲む狩人。じりじりと徐々に近寄って、やけに酒を薦めてくる似たり寄ったりな顔の男は、今夜は俺が奢ってあげるから、好きなだけ飲んでと宣いぐふりと笑いを溢した。
     言われるがままに一瓶、二瓶。
     最早自棄酒と言ってもいい程に呑む。この時点で狩人は本来の目的を五割程忘れていた。

     お酒は旨いが楽しくない。
     目の前の男は欲望丸出しで笑っているし、隣に座って狩りの歴を伝えてくる男とて、新しいモンスターの情報など得られない。武器の使い方、旨い山菜・茸の食べ方、フィールドの抜け道、里の外の世界の話。何をするにもヒバサが浮かんで、結局思考がそこへ行き着く。

     何だこれでは修行にすらならないではないか。

     発火し燃え上がりやすいのは怒りであるが、此方は鎮まるのも早い。風に煽られ消えるように、鎮火した後に狩人に残ったのは、虚しさだけであった。
     右を見て、左を見て、連れてきてくれた里娘を見つける。意中の男と懇ろになっている様を視界に入れた狩人は、事前に決めていた帰るの合図を送った。
     無論、これはお持ち帰りされるときに使うためだったが、最早時間の無駄である。
     椅子から立ち上がった狩人は、口を開けて此方をみる男を一別もせずに、「帰ります」と踵を返す。
     それに慌てたのは、潰してあわよくばと狙っていた男であった。
    「え、狩人さん帰っちゃうの?!」
    「ええ。お腹が痛くて」
    「さっきまで滅茶苦茶食べてたよね?!」
    「門限が…」
    「独り暮らしと言っていたのに?」
    「……」
    「ほら、お酒も来たからさ。もう少し俺と居ておくれよ」

     言い訳を告げるのも面倒になった狩人の手をつかんで、間が悪く酒瓶を持ってきた店員に話を振る男。無遠慮に重ねられた汗ばんだ手が不快で、容赦なく狩人は手を叩き落とした。
     可愛そうに、どうしていいのか分からない様子の店員にそっと近寄る。そして徐にお盆に鎮座した瓶を手に取り、一息でそれを呑み干した。
     だぁん!と小気味いい音が机を揺らす。
    「酔いがまわったので帰ります」
     伸ばそうとしていた男の手すれすれに瓶を叩きつけた狩人は、ひらりと里娘に手を振り踵を返す。
    「暗いから気を付けてね」
    「頑張ってね」
    「外出たらポポ車拾いなよー」
     各々好きなことを言いながら、見送る里娘達の強かなこと。また話ぐらいは聞いてあげるからさ、なんて笑う姿に、余計なお世話だと軽口を叩いてふらりと店の入り口を出た。
     場を白けさせてしまったろうに、寧ろ気を遣わせたなとひとりごちる。いやしかし、あの娘達はそれすら利用しそうだと、細身の娘に隠された強かさを思えば口許が緩んだ。

     しかしかて。
     里娘とて術を身に付けていると言うのに、思考も身体も言うことを聞かない。
    「…馬鹿みたいだなぁ」
     一人の男に振り回されて、それでも愛しと泣く己も。術だと割りきっていた筈なのに、自分に触れるのはヒバサがいいと嘆く身体も。何一つ、自分の思い通りになりはしない。



     ふわりふわりと酔いがまわった頭で、狩人はぼんやりと町から里への道を辿る。
     鳥居を潜ればカムラの里だ。さぁ明日は一狩り行くかと、ぼんやり考えていた狩人の身体がピタリと止まる。


     里へ続く一本道。その終の鳥居にもたれ掛かっていた身体がゆっくりと此方に近づいてくるのを、狩人は呆然と見つめていた。

    「随分と遅かったなぁ」
     のそり、と引き締まった身体に着物を纏った男が動く。低い声には感情がこもっておらず、発する重圧は痛い程だった。
    「…皮肉?明日に帰れば良かったと?」
    「なんだ、帰ってこないつもりだったのか?」
     ついには表情すら抜け落ちたヒバサに気づかぬままに、狩人は言葉を続ける。

    「ヒバサには、関係ない」
    寧ろ何でここにいるの、と告げる言葉は捕まれた腕の力強さに途絶えた。
     一瞬で詰まった距離に引けた腰は捕まれ、咄嗟に身を庇おうと出した腕からは、骨のきしむ音すら聞こえそうだった。

    「関係ないわけねぇだろうが!」

     肌を刺す惚れた男の怒気に身がすくむ。ヒバサが、怒っている。何が気に障ったのかも分からない。怒りたいのは此方の方なのに。
     捕まれた手が痛い。傷心の乙女に何たる仕打ちか、ふざけるんじゃないいい加減にしろ。
     腕は痛いし身体はだるいし、男に触られた手も洗いたい。もういやだ。
     酒がまわって緩んだせいもあるのか、気づけばぼろりと雫が落ちた。
     一度決壊してしまえば、後は落ちるだけである。声をあげるまいと唇を噛み締めて、それでも身体は震える。滲む視界と鼻の奥がつんと痛くなる感覚に、ひどく惨めになった。
     訳の分からぬ間に怒られて、醜態をさらす自身の情けなさと、嫌われたかもしれない恐怖。何より、少しでも可愛いと思ってもらいたいヒバサに、鼻水も垂れ始めたみっともない顔を見せたくはなかった。
    「………、っぅ」
    「お前なぁ…」
     泣くんじゃねぇよ、とポツリと声が降ってきて、あやすように抱き締められる。ふ、と大きなため息をついたヒバサに震えれば、怯えたと思ったのか大きな手が背をさすり始めた。

    「ひ、ヒバサ…、よごれる」
    「いい。そのまま俺の服でふいちまえ」
    「や、でも」
    「いいから」
    「ん、ぶ…」
     隙間無く身体を覆われて、ヒバサの顎が頭に乗ったと思ったら、後頭部を鷲掴まれてぐりぐりと無遠慮に動かされた。着物は柔らかく痛くはないがそれでも苦しい。夢中になって息を吸えばヒバサの濃い匂いがした。
     今更ながらに距離に羞恥を覚えて、狩人は逃れようともがく。しかしその抵抗も呆気なくヒバサは離そうとはしなかった。

    「…悪かったな」

    「え?」
    「怒鳴ったろ。泣かせるつもりはなかったんだよ」
     はぁ、とまたひとつ息を吐いて、ゆっくり身体が離される。心配してんだよ、とらしくない顔で告げられて浅ましく狩人の心臓が跳ねた。そのままじっと見つめてくるヒバサの瞳から目が逸らせない。
    「関係ないとか、言うんじゃねぇよ」
    「…、うん」
     すっかり涙の止まった顔を覗き込み、ばつの悪そうな顔をしてヒバサは頭をかいた。
    「分かったなら、良い。
     あー、くそ、柄でもねぇ。…帰るか」
    「ヒバサは何かこっちに用事があったの?」
    「あ?……そうだな。もう終わった」
     いつになく歯切れの悪い回答に首をかしげるも、これ以上は聞き出せそうにない。
    「なぁ」
    「ん?」
    「手、貸せ」
     差し出された武骨な手に、重ねれば当然のように包み込まれた。狩人より少し体温の高いヒバサの熱が、移るように身体が火照る。
    「で、楽しかったか」
    「何が」
    「合コン、行ったんだろ。フカシギが言ってた」
    「あー、うん」
    「いい男は居たかよ」
    「あんまり覚えてない」
    「あぁ?」
     何だそれ、と苦笑したヒバサは手に少し力を込める。狩人はそれに気をよくしてぶらぶらと繋いだ手を揺らした。
    「みんな同じ顔に見えた。強いて言うならヒバサに似た髭の人と、髪型の人と、あと目元が似てた人も居た!」
     拳を握り力説すれば、大仰にヒバサの身体が揺れる。耐えきれなかったのかふは、と吹き出したヒバサは楽しそうに笑った。
    「お前の基準俺ばっかかよ」
    「何しててもヒバサが浮かんでくるのが悪いんだよ!」
     当初の予定では、今頃手練手管を身に付け、目の前でほおける男を転がしてやるつもりだったのに。
    「ヒバサは頭から消えないし、知らん男に手はべたべた触られるし。ご飯は美味しかったけど、もういいかな」
     それよりも里でヒバサの家に転がり込んで、ごはんを食べる方が余程楽しい。狩人よりも料理が上手いのは不服だが、炊事場に立つヒバサを見るのは好きだった。
    「ねぇ、何だかお腹空いちゃったから一緒にごはん食べな、……ヒバサ、何してるの?」
    「触られた手ってこっちであってるか?」
     ポツリと、虫の音に掻き消されるぐらい小さく落ちた言葉。
     そうだけど、と告げようとした唇は、狩人を見つめる熱に炙られぴたりと閉じた。いつの間にかヒバサの長い指が手首に回され、弄ぶように薄皮に這う。恐怖でも、殺気でもない得体の知れぬ感覚に、呼吸の仕方さえ忘れてしまいそうだった。
     うっすらと浮かぶ細い血管をなぞるように、太い指が動く。手入れされた指先が撫でる感覚に肌が粟立って、漏れそうになる声を唇を噛みしめ耐える。息をすれば何かが抜け落ちてしまいそうな、そんな気さえしてくる始末。生命に直結したそこが敏感だなんて、知りたくはなかったと狩人は下を向いた。
     固まった狩人を他所に、ヒバサは赤らみ始めた細い腕を顔に寄せた。すん、と鳴らされた鼻も、しかめっ面のヒバサに臭いと言われても、もはや言い返す気力もない。
    「煙草の匂いがする」
    「隣の人が吸ってたからかなぁ。ねぇヒバサ、一旦離し、…っぁ?!」
     手に髭があたってひぃ、と情けない声が漏れる。聞こえているだろうに、ヒバサはそのまま執拗に頬を往復させた。狩人が自らの肌とは全く違う、と考えたのはもはや現実逃避に近い。ガルクのようにすりよる癖に、御するのはヒバサなのだから達が悪い。何より伏せられた目が時々此方を射ぬくのが心臓に悪い。
     つまり、生娘な狩人の要領を越えていた。
    「ん、まぁいいだろ」
     何度か確認し、やっと離したヒバサは首まで赤く染めた狩人をみて、満足そうに笑う。へっぴり腰で震える様を見て、にやりとトドメを刺した。
    「可愛いなぁ、お前」
    「ふぐっ」
     ついにはぺたりと座り込んだ狩人は、最早体力は一片足りとも遺されていない。火がでそうなくらいに火照る身体と、抜けた腰。
     百戦錬磨など片腹痛い。この男は色情魔だ。
     大変失礼なことを考えながらもがく狩人に、笑いながらも手を貸すヒバサ。腰抜けたのかよ、と力強く引き寄せられた身体はあっさりと宙に浮き、懐へと収まった。
     そのまま赤子を抱くように腰を支えられ、動く不安定さに恐怖を覚えて全力でしがみつく
    「ヒバサ、」
    「黙って運ばれてろよ」
    「いや、待って、この運び方高い!怖い!」
    「よく喚く荷物だなぁ」
     よっこらせ、と支える腕を増やしたヒバサは、腕回せ、と顎をしゃくる。言われるがままに伸ばせばやっと安定感が増した。頬をヒバサの癖毛が擽って、息を吐く。そのまま頬全体を首にぴたりとくっつければ少し汗の匂いがした。

    「…おい、ちょっと離れろ」
    「え、やだよ、落ちる」
    「汗かいてるから。くさいだろ」
    「私、ヒバサの匂い好きだよ」
    「………」
    「ヒバサ?」
    「……、はぁ…」
     身体中の空気を吐き出すような、重苦しいため息をついてヒバサはぎゅう、と狩人を締め付けた。
    「お前今いくつ?」
    「え、なに」
    「いいから」
    「16」
    「…もう大人か」
    「この間成人したよ?」
     そうか酒も飲めるもんな、と頷くヒバサはぶつぶつ、と大人か等と繰り返して、ついにはじっと黙り込む。土を蹴る音が響いて、そこに火が破ぜる音がまざりはじめても、ヒバサはずっと口を開きはしなかった。放置された狩人は、何度かつついてみたが、うんともすんとも言わないと知ると早々に諦めて、棚ぼた的な触れ合いを堪能し始める。すり寄って、少し鼻をならして、ヒバサの心音に耳を傾けて。動いているからか熱く少し早い心音にすら、ときめいている始末であった。
     しかし、元々道のりとしてはそんなに長くない。ずっと続かないかなぁ、と考えていた狩人の希望は届かず、ヒバサの長い足はあっという間に狩人を家に送り届けた。ルームサービスを頼んでいない家は静かで、ヒバサは器用に片手で明かりを灯す。
     玄関で下ろされるかと思っていた身体はそのままで、土間までふらりと運ばれた。
    「ヒバサ…?」
    「足」
    「え、うん」
     かちゃん、ことん、と、慣れた手付きで足の履き物をはずして、また抱えあげられる。勝手知ったる家と言わんばかりに、寝室へと運び込んだヒバサはゆっくりと狩人を褥に下ろした。
     自由になった男の指が、確かめるように頬を擦り唇に辿る。こ、これは襲われるのでは…?!等と淡い期待をした狩人は、愛玩動物に行うような触れ合いに少しがっかりしていた。しかし、無言で行われる触れ合いに、なんだなんだと思いながらも狩人は動かず受け入れる。髪の毛でヒバサの顔が見えない事が少し寂しくて、悪戯心が沸いた狩人は口元の指をぺろりと舐めた。
    「しょっぱい」
    「…お前」
    「あっ、えーっと、これは、口元にあったからつい!」
     出来心だったの!と引かれると身構え言い訳を始めた声は、ゆっくりと覆い被さるヒバサの身体に潰されて消えた。
     布が合わさる音がやけに大きく聞こえて、広げられた足の境目にゆっくり足が入り込む。やっと見えたヒバサの顔は余裕なさそうにしかめられ、朱が差して酷く色めいていた。瞳に浮かぶのは、煮詰まり溶けた男の欲。語ることなく告げられた懇願と恋情に、肚の中心から燃えるように熱が広がった。

    「俺がどんだけ我慢したと思ってる」

     あ、と思う間もなく詰められた距離は、そのまま狩人の動きを封じる重みとなり、逃げる術もなく唇が重なる。触れた熱さに身を引くも、ヒバサの手はそれを許さず咎めるように唇を甘く噛んだ。
    「…っ、ん」
    「…は、」
     戯れのような啄む触れ合いは数度のみで、次第に重なる時間は長くなる。かさついた唇がふやけて湿っていくのが、酷く淫靡ではしたないことのように思えた。
    「おい、息止めんな」
    「わか、んな」
     きゅ、と引き結ばれた唇をぺろりとなめて、吐息混じりに告げるヒバサに従って、漏れる声もそのままに空気を取り込む。早くなるのを咎めるように柔く食んで、呼吸の方法を教える様は酷く手慣れている。
    「鼻でゆっくり吸うんだよ…そう、そのまま」
    「んぅっ?!」
     鼻に集中しすぎてぽかりとあいた口に、舌が容赦なく入り込む。逃げた狩人の小さな舌を何度かつつき、緩んだ隙を見て絡めてしごけば、くぐもった声が漏れてヒバサの喉がなった。
     すりすりと舌先を撫でられ、未知の感覚に狩人は翻弄されるがままにすがり付く。くちゅ、ぷちゅ、と粘液の混ざる音と、離れては重なる唇。
     飢えた獣のような目をしたヒバサに恐怖を覚える間もなく、ただ快楽を教え込まれて貪られ、啼く。
     頭の中には疑問が渦巻いては、ぬるついた舌と合わさる気持ちよさに霧散する。口から溢れた唾液が首筋に伝って、谷間に落ちてシミを作った。
     吸い寄せられるようにヒバサの唇がたどって、首元の唾液をすいとる。ちゅ、と柔らかくも淫靡な音が耳に届いて、狩人は甘く声を上げた。
     上がる嬌声を平らげて、ぬるついた唇を擦り付けるヒバサの口づけにただ翻弄される。
    「ん」
    「…はぁっ、ぁ」
     絡み合った舌がほどけて、銀糸がプツリと途切れる。武骨だが手入れの行き届いた指が、目尻の雫をそっと握って目元を撫でた。

    「もう、お前は大人だもんな」
    「ヒ、バサ」
    「好きだ」
    「っ、ん」
    「俺はずっと、心底お前に惚れてる」
     
     合間に降る情けなくも確信めいたヒバサの懇願に、狩人は言葉すら惜しいと唇を重ねる。口説く言葉を、唾液と共に肚に納めて熱を灯した狩人は、赦しを待つ男を焦らした。答えなど、分かりきったことを待つヒバサが少し憎らしい。

    「頼むから、流されてくれねぇか」

     狡い言葉に、仕方ないなと腕を絡めて身を差し出せば、幸せそうにヒバサは笑う。朝になったら昔からとはどういう事だと、聞き出そうと心に決めて、狩人はゆっくりと目を閉じた。
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