璃瑞がどうしても作りたいという料理の材料を調達へしに行く。
今回は重いものもあるため5人で行くことになった。
立ちはだかるヒルチャールやアビス、スライムを倒しながら進んでいくのはいつもの事。
倒し終え、また再び進み歩く。
するとぽつり、と頬に伝う。
雨だ。
ぽつり、ぽつり、と多くの雨水が地面を濡らす。
「うわ!雨!?強くなってきちゃったぁ」
「今日は晴れの予定だったのに…」
あまりにも酷い雨に不満を漏らす。
「てか……ここ………………」
「どこ〜!?!?!!?」
エコーがかかるくらいの大声で叫ぶ璃瑞。
単刀直入に言うと、迷ったのだ。
迷ってしまったのだ。
「ん…どうしようか。結構森の奥まで入ってきちゃったけど」
「どうしたらこんな森の奥行くわけ?アリアさん?」
「ごっ…ごめんなさいね…確かに地図を見ているのだけれど…」
雨で髪が濡れ、どこかも分からない森の奥深くに迷って帰り道も分からない場所に連れてこられて不機嫌なジェミニが極度の方向音痴のアリアを責める。
「そこまで言わないであげてよ。悪気があったわけじゃない。それにジェミニだって迷う時くらいあるでしょ。」
「何寝惚けた事言ってるの、僕が迷うわけないだろ。誰かサンと違ってさ。」
「う…」
トゲのある言葉がアリアの胸に刺さる。
「ふむ…とりあえずジェミニが傘になれば良いんじゃないかな」
「お前は本当に何言ってるの?」
ぎゃあぎゃあと言い合いながらも無事人が住んでいるであろう場所へ辿り着くことが出来た。
するとやがて雨も止み、太陽が頬を撫でた。
「わ…!!晴れたぁ!」
「本当だ。良かったね、ジェミニ。僕の日頃の行いが良いから君は傘にならずに済んだ。」
「ネーヴェは人体をどう理解してるんだよ。」
「理解はしてるよ。人体はね。」
「お前僕が人間じゃないって言いたいの?」
「ちょっとここで言い争うのやめて!?」
暴走機関車たちをすぐさま止めに入る璃瑞
けらけらと楽しそうにふたりを見て笑うアリア
怒るより前に呆れてものも言えない狐雪
そんな時、なにかがジェミニの肩とぶつかった。
「ッたいな、ねぇ?どこに目ェつけて」
「…リア?」
「は?」
「お前…アリアだよな!?」
「あ、」
「えっえっ…アリア知ってる人?!」
「知っている…と、いうか、」
「知ってるも何も、父だよ。この子の。」
「え、あなたが…アリアのお父さん…?」
髪はくすんだ緑色で、髪自体も長く肩あたりで緩く結んでいた大きな背丈の男が手をひらひらさせながら話しかけてきた。アリアの父だった。
「いや〜久しぶりだなあ!元気にしてたか?こんなに大きくなって……」
アリアから父にされてきたこと、捨てられたことほとんどを聞いていた4人はその言葉に重みを感じられなかった。
一斉に武器を構え警戒する。
「どうして武器をこちらに向けるんだ?……ここで立ち話もなんだし、家に入ってくれ。」
「アリア…大丈夫?無理して行く必要ないんだからね…」
「だ、大丈夫……よ、」
呼吸が荒くなっていくのが分かった。
とても大丈夫と言える状況では無い。
「アリアのお父さん。僕達はやっぱり」
「……良いわネーヴェ。ありがとう。…良い機会だから縁を切る。その為の話し合いをしてくるわ……」
「…もし何かあったら言え。」
「私たちもそばにいるから。」
「ええ、ありがとう」
「アリア。おまえも手伝ってくれ。」
「…………分かったわ」
荷物をおろし居間に連れてこられた。
だがゆっくり羽を伸ばしてなどいられなかった。いつでも戦える体制でいなければいけない。
「アリア」
「…ッは、」
「はぁい、なんですか?おと〜さん♡」
「キモ」
「君たち…?座っていて良いんだぞ。お客さんなんだから。」
「いえ、もてなしてもらうだけなのは割に合わなくて。僕達にも手伝わせてもらえませんか。」
「…優しい人達と出会えて幸せだな、アリア。じゃあこの皿を居間に」
一気に仕留めるため、首元をネーヴェが、心臓をジェミニが狙った。
だがその攻撃は止められた。
風で弾かれてしまったのだ。
「話の最中だが?」
「失礼、”偶然”手が滑ってしまって。」
「長い」
「はは、……アリア、ちょっと話があるんだ。来なさい。」
アリアはびくっと体を跳ねらせた。
「は、はいッ…お父さん」
「それなら僕達も」
「ああ、君たちはここに居てくれ。親子の大事な話し合いだ。」
これは話し合いをするチャンスなのかもしれない。そう思い父の後ろを着いていく。
部屋に入ると鍵をかけた音がした。
「お…父さん?」
「入ってきて欲しくないからだよ、真剣な話をするからな。」
「あ、わ、私も…話があるの」
「何を勝手に喋ってるんだ?俺がいつ喋っていいと言った?おいお前!!!」
「!!ちが…ごめ、なさ……ッ!」
「それにあいつら、俺に向かって刃物を向けてきたぞ。どうなってるんだ?おい、」
「……ッ、う…痛……ッ!」
怒鳴り声が部屋中に響く。髪の毛を強く引っ張られ、昔の記憶がフラッシュバックしてきた。
「聞いてるんだが?」
「あ、わわたし……」
震えた声で口を開くと同時に扉が大きな音を立てて崩れ落ち、壊れた。
「そんな奴に答えなくていいよ、アリア」
「自分の娘相手に何してんの?!ねぇ!」
「…愚図野郎がよ」
「死に方だけ選ばせてあげる。特別だよ」
「貴方たち…、!」
ネーヴェたちは明らかに不審な父の様子を狐雪と璃瑞に説明し、4人は2人に気付かれ無いように後をつけていたのだ。
怒鳴り声が聞こえた瞬間、すぐさま扉を壊した。
「来るな。来たらこいつを殺す。」
「立てこもり犯かよ」
「お前!なんか言ったか!?ったく、計画が丸潰れだ。お前たちのせいで。」
「何とでも言いなよ。それよりアリアを返して」
「威勢がいいなァ、ガキ共。だが」
「?!」
4人は何も手出しが出来ない状態だった。
1人だけならいとも簡単に攻撃できる。だが人質としてアリアがいる。どうしようかと作戦を考えていた時、突然強風が襲いかかった。
父の元素は風。
風を巻き起こし、4人を浮かせ、何も出来ない状況に仕立てあげた。
「こんなのありかよ」
「ご、ごめんアリア」
「……ッ!みんな!!!」
「あいつらが弱いからこうなるんだぞ」
アリアの中でなにかがぷつりと音を立てた。
「……あのひとたちが?」
「ああ、ああそうだ……!あいつらが」
「そんな訳ないでしょう。ふざけないで。」
突然聞いた事のない声を聞いて驚愕した。
ひくついた口をゆっくりと動かす。
「俺に向かって…言ったのか?」
「あなた以外他に誰が居るの」
「俺に向かってその態度!!!!!」
「私ね、守るものが増えたの。」
「あァ?」
「最初は自分だけだった。自分さえ無事ならそれで良い。後はどうでも良い。良かったの。だけど…こんなに増えたのよ。4人も。」
「何が言いたい?俺の話を遮ってまでしたい話か?」
「愚問すぎるわ。つまりね、私、かなり怒っているの。」
「うるせぇガキだ。あの時殺してりゃあ良かった。」
「話を変えないで。あなた、彼らに酷いことをしたのよ。仲間を傷付けたら許さない」
「何言って……」
突然アリアに向けられていたナイフが手から滑り落ちた。水で滑らせたのだ。
父の使う法器は神の目が緑色に輝いていた。
だがその法器は一定の時間、使い物にならなくなった。
「あれ、確か鉄で出来ていたのよね。だから小さい頃触らせなかった。」
「てめぇ……やりやがったな、」
「あら、あなたが彼らにした事には負けるわ」
強風が止み、狐雪たちは自由に動けるようになった。
飛ばされた剣や弓、槍を手に取り、一気に立場が逆転した。
「アリア!!ありがとう!よく頑張ったね、こっちおいで」
「ごめんね、私たち完全に油断した…」
璃瑞と狐雪がアリアの手を取る。
「助かったよ、アリア。」
「これくらい当然でしょ、まぁ。…りがと」
「法器が錆びたからと言って使えなくなったわけじゃない。あれは一時的に止めただけ…みんな気を付けて…!」
「ああ、大丈夫。わたしが感電させて二度と機能させなくする。その間にジェミニ、ネーヴェ、璃瑞。やって来て。」
「私は……」
「アリアは休んで。よく頑張ってくれたね。あとは私たちに任せなよ。」
そう言い聞かせ、頭を撫でる。
一気に安心した彼女はその場に倒れ込んだ。
「何してくれてんだ、このクソガキ共!!」
「声が大きくて聞き取りやすいね。」
「言ってる場合?!」
「お前さ、僕にぶつかっておいて何も無かったよな。謝れよ。謝った後殺す。」
「ジェミニ……あれ根に持ってたんだ…」
「器の小さい男は嫌われるよ?」
「後で覚えてろよお前ら」
色々好き勝手言われて腹を立てたジェミニは父に矛先を向け、凍結させた。
「謝罪は。僕とアリアに。」
「す、みま、……せで…た」
「ふん」
「うん、よく出来ました。じゃあ後はもう死んでいいよ。……璃瑞」
ネーヴェが爽やかな笑顔でとんでもない事を言う。
「はいはい、じゃあねアリアのお父さん。」
「あ……あ…」
一気に炎火がそれを包む。氷塊が溶けるのに時間は掛からなかった。氷だけではなく、皮膚や骨も焼き焦げ、跡形も残らなかった。
「お疲れ様」
「アリアは…寝ちゃったか」
「人が戦ってる時にすやすや寝てたの?」
「起こさないであげて。今、本当に幸せそうな顔してるからさ。」
「どんな夢見てるんだろうね!狐雪ちゃんもありがとう。」
「そっちこそ。倒してくれたんだね。」
すっかり緊張がとけて笑い合う。
安心しきった顔で眠り続けている彼女の隣で。
「さ、結構遅くなったし帰ろうか!」
「僕がアリアを背負うよ」
「ありがとうネーヴェ。お願い。」
「お安い御用さ」
アリアを軽々と持ち上げ、彼らはまた足を進める。
すっかりと辺りは暗くなり、完全に夜になっていた。
「今から食料を到達することは難しいよね」
「また今度だね!急ぐ必要なんてないから大丈夫だよ。さて!帰ったら即ご飯の支度をするから待っていてね。」
どれほどの時間眠っていたのだろう。
ふと目を開けるとそこには見慣れた天井と仲間の声があった。
「目を覚ましたんだね、おはよう」
「飯だって。腹減ってるんでしょ。行くぞ。」
「…ええ、ありがとう」
男子2人に連れられてダイニングキッチンへ向かった。
「お!おはようアリア!」
「体に不調はない?」
「心配してくれてありがとう。大丈夫よ、雪。」
「じゃあアリアも起きたことだしご飯にしよう!」
「ふふ、ええ。いただきます。」
本来作る予定ではないものだったが、決して簡単なものではなく、しっかり手の込んだ料理だった。
1口ずつ丁寧に口へ運ぶ。
「…美味しい。」
いつも口にしているが、今日の料理は一段と愛情溢れる幸せの味がした。