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    ネギとキメラ

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    ネギとキメラ

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    #kmt夢ワンドロワンライ
    【ひらり】
    🍃×🚺
    👹学軸/先.生同.士/キメラ作
    「うつろう数式」

    既に著作権が切れている小説作品より一部引用した箇所がございます。(出展明記済)苦手な方は閲覧をお控えください。

    うつろう数式 移り行く時代の中で変わるものがある。そのひとつをあげるとすれば「言葉」だろう。今や、なつかしさや郷愁を表す言葉はすべて『エモい』の一言に集約されている。
     それを別に悪いとも思わない。しかし、1+1=2のようにどの年代、時代においてもすべての人への問いに対し「変わらない解」というものに俺は確固たる意志を感じており、なによりも昔から好きだった。
     人も意志を持って行動するものである。勉学も、交流も、恋愛も――すべて己の意志のうえで成り立つ行動の賜物だと信じてやまない。ただ、それが相手にとって幸か不幸かを慮り問いかけることはいつも苦手だった。言葉よりも移ろうのは人の感情でもある。なによりも今、俺の中にあるこの感情を――たとえば「恋」を表す言葉すら、見つけられないでいる。

     見慣れないものが我が家のテーブルにあった。
     滅多に本を読まない弟が、現国の授業の課題で借りてきたものらしい。小説の著者は有名な文豪でありきっと名作には違いないが、弟がその文豪の作品を選んだことが、どうしてか腑に落ちなかった。
     背表紙の下部に貼り付けられた小さな紙片には、いくつかの数字と勤め先である学園の名前が記載されている。まだ読み進められてもいないのだろう、重なりあう紙の隙間から飛び出した細いスピンが天板の木目に逆らうように緩やかに波打っていた。
     ふと、分厚いレンズの奥で鈍くきらめく焦げ茶色の瞳を思い出す。ひそやかにこちらに注がれる視線は、いつもどこかうるんでいた。その理由を問うてみたくて彼女の視線を捉えようとすると、次の瞬間には見失ってしまうのが常だった。
     いつかだれかが「言の葉の森の住人」と例えていたのも納得がいく。彼女は俺の知らない世界に住んでいる。

     俺が数学教員として教鞭を執る私立キメツ学園は中高一貫校でもあるため、生徒ならびに教員における人数規模が飛び抜けて多い。それに付随するように校庭、校舎、各教室の設備も充実しており、なにより図書資料室においてはなかなかの数の蔵書数を誇るため、校舎内でもかなりの面積を有していた。
     そんな図書資料室の主であり、生徒たちから「シショセン」と親しまれる司書教諭の彼女と、数学教諭の俺との接点はないに等しい。もちろん、朝に職員室で顔を合わせた時や、夕方に帰路につく時に、たまたま居合わせれば挨拶をする程度だ。職員会議でも彼女の気配はいっとう薄くて、声を耳にすることは少ない。
     煉獄や宇髄は授業の一環で資料や蔵書を使用することもあるため、彼女と何かしらのやり取りがあるらしい。しかし、数学という「国語」とは真逆の性質上、物語性を持った書物よりも電卓の方が身近だし、国語よりも数学の方が人生で生きていく上で重要だとも信じてやまない。

     その日は校舎内の見回りと戸締りの当番だった。とっぷりと日は暮れて、生徒はもちろん教師陣たちも既に帰宅し、校舎には自分以外の人の気配すらない。校舎内の見回りを終え、職員室に置いていた荷物を取り、電子警備に切り替えるためのカードキーを確認していた時だった。
    「不死川先生、お疲れ様です」
     職員室の引き戸が開いて生ぬるい風が肌を撫でたかと思えば、か細い声が耳に届く。先ほど校舎内の見回りをした限りでは、彼女が主を務める図書資料室は既に暗く施錠されていた。他の教室も人っ子ひとりいなかった。だというのに、彼女はなぜ今ここにいるのだろうか。
    「すみません。図書室の展示物の作成で、教員用の準備室にいまして」
    「……教員用の準備室?」
    「はい。図書室の受付カウンターの奥にあります」
     そういえば宇髄が言っていた。「図書室に教員用のさぼり部屋がある」と。脳内で記憶を手繰り寄せる傍らで、彼女はなかなかの大きさの段ボールを器用に抱え直して、デスクに向かって歩き出す。よたり、と上半身が左右に揺れていて見るに堪えず、気が付けば体が動いていた。
    「持ちますよ」
     彼女から取り上げた段ボールの中身は、書籍や雑誌にその他資料が高さいっぱいまで詰め込まれており、かなりの重さがあった。レンズの内側にある瞳が大きく見開かれて、俺の顔をまじまじと映している。ちらりと彼女の手元に視線を落とすと細い指先が赤く染まって痛々しい。
    「これ、デスクでいいんですか?」
    「あ、はい。ありがとうございます……」
     入口に一番近いところにある俺のデスクから、島ふたつ分離れたところにある彼女のデスクまでの移動は時間にして一分にも満たない。ちらりと横目で見やれば、唇を引き結びながらも軽い足音を立て後をついてくる姿が、親鳥についてくる雛に似ていた。
    「不死川先生は、いつも遅いんですか?」
    「いや、今日は施錠当番なんで」
    「あ、そうでしたか」
     最後に正門の施錠をして電子警備に切り替えれば今日の仕事は終了である。時刻は間もなく二十一時。いくら成人女性とはいえ、遅い時間に夜道を一人で歩かせるのはいささか心配でもある。彼女を先に帰るよう促したが、彼女は眉尻を下げ謝罪を口にしながら最後の施錠まで付き合うと言った。
    「帰りは電車っすか? バス?」
    「電車です。不死川先生は?」
    「俺も電車です」
    「……駅までご一緒しても、いいでしょうか?」
     隣に立つ彼女がじっと見上げている。レンズ越しに俺に注がれるうるんだ視線には覚えがあった。もちろん、と応えることがどうしてか気恥ずかしくてひとつだけ頷いてみる。やわらかく細められていく瞳に初めて彼女の笑顔を見た気がして、慌てて視線を逸らした。きっと、これはチャンスなのだ――たまにこちらに注がれる視線の意味を彼女に問いただす格好の機会。
     互いに無言のまま駅までの道のりを歩く。歩道側を歩く彼女と俺の間を、時折、生ぬるい風が吹き抜けていく。静かな時間に気まずさを感じているのか、それとも心地よさを感じているのか――それを判別するには俺は彼女を知らなすぎた。目的の問いかけまでにせめて会話のきっかけを、と再び彼女の方に視線を落とせば、ちょうど同じタイミングで彼女が顔を上げて、焦げ茶色の瞳が俺を映し出す。二つの足音が止んだ。
    「あのっ!」
     どちらからともなく切り出した言葉を引き裂いて、地を這うような轟が鳴り響いた。口を微かに開けたまま、まるく形を変えていく彼女の瞳には、たちまち赤くなる自分の顔が映っている。
    「不死川先生、もしかしてお腹空いてますか?」
    「……お恥ずかしながらァ……」
     ちょっと待ってくださいね、と彼女が鞄の中を探る。あった、という声は弾んでいて握り込まれた右手の端から、黒い包み紙が見えていた。
    「不死川先生、手、出してください」
     差し出した手のひらに転がるのは、黒い包み紙に覆われた黒糖を使った飴玉だった。予想外の味のチョイスにしげしげと手のひらを眺めていると「足りませんか?」と彼女はさらに鞄の中に手を突っ込んだ。慌てて静止すると、じっ、と俺の顔を見つめている。まただ、また瞳に水の膜が張られたようにうるんで、ゆらゆらと揺れている。どうにも居心地が悪くなって、袋を破いて飴玉を口に放り込んだ。頭脳も体力も使い果たした一日の終わりに、しみこんでいく甘さはやさしい。
    「……不死川先生、甘いものお好きなんですね。意外です」
     今までに見たことがない彼女の表情に、口の中の飴玉がうんと甘くなった気がした。

     それからの駅までの道のり、問いかける言葉を探す代わりに他愛もない話をした。彼女が司書教諭になった理由は単純に「本が好きだから」ということを知った。そして「国語が好き」な人間にありがちな「数学が苦手」という言葉に思わず苦笑を浮かべてしまった。「数学の方が社会で生きていくには役立つんですよ」と返せば「数学が好きな人はみなそういいます」と唇を尖らせながら反論されて、たまらず笑ってしまった。
    「答えの可能性が多い方が、いいじゃないですか」
    「答えがひとつに決まっている方が、わかりやすくていいでしょ」
    「その感覚、私にはどうしてもわかりません」
    「俺は『登場人物の気持ちを考える』って問題の意味がわかりませんねェ……」
    「……たしかに苦手そうですね、不死川先生」
    結局俺たちは最後まで相容れることのないまま、改札をくぐり反対方向のホームへ向かう。腹のうちをさらけ出す意気地のなさを覆い隠すように笑い合う時間は、まんざらでもないほどに心地がよかった。

    「司書先生なら今お昼休みです。いつも図書室の奥で――」
     昨日の別れ際に追加で飴玉をふたつ受け取ってしまい、お礼を伝えるべく朝から様子を伺っていたものの、どうやら今日の彼女は俺よりも早く出勤していたらしい。午前中はこちらも授業やその準備もあり慌ただしく彼女を捕まえることができずにいた。
     一日の大半を図書室で過ごす彼女のことだから昼も図書室にいるだろう、と踏んで久しぶりに足を踏み入れた彼女の城は、紙とインクが混ざり合った、あたたかなにおいで満たされている。
     受付を任されている図書委員も利用している生徒も、この空間に縁遠い俺の姿を物珍しそうに見つめていた。時折、ひそやかに立てられる声にはさすがに居心地の悪さを感じて、さっさと用を済ませて出ていこうと思いながら足を速める。
     いつか、誰かが言っていた。彼女は「言の葉の森の住人」だと。図書室の中のさらに奥の奥、背の高い本棚のすき間を縫ってわずかに差し込む光の中で、古びた木製の椅子に彼女はこちらに背を向けて座っていた。きっと、この後ろ姿を見た誰かがそんな風に言い出したことは想像に難くない。ただ、俺が知るよりも前からずっと、彼女はいつもここにいて――それを知らない自分自身に、左胸のあたりがざわついていく。
     声をかけても返事はない。前に回ってみると、膝に置いた本の片方のページを指先でやわく押さえてはいるものの、頭は小さく船を漕いでいた。どうやら読んでいるうちに眠ってしまったらしい。
     動くうちにわずかにずれた眼鏡のせいで、いつもレンズで遮られている彼女の目元がよく見える。瞳を縁取るように生える睫毛は細く長い。瞼にはほんの少しだけ色が乗せられ、星屑が鈍く瞬いている。
     眼鏡の蔓にそっと両の手を伸ばした。眠る彼女を起こさないように静かに耳から引き抜いていく。誰かが図書室の窓を開けたらしい。生ぬるい風が吹き込んで、ひらり、ひらりと本のページがめくられていく。
     彼女の手元の本には覚えがあった。先日弟が借りてきたものと同じものだった。風に煽られていた紙の束がとあるページで止まる。物語の最後、目に飛び込んできた一文がさきほどよりも左胸を搔きむしるので、くそくらえ、と悪態をついた。

    ≪片恋というものこそ、常に恋の最高の姿である。≫



    ***

    ≪≫内引用元:太宰治『チャンス』1946(昭和21)年7月「芸術」八雲書店
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    ネギとキメラ

    DONE #kmt夢ワンドロワンライ
    【初恋】【リボン】
    🔥×🚺
    👹学/🔥先.生と社.会人🚺/キメラ作/90分
    「初恋の人はいい香りがした」

    女生徒→🔥✕🚺です。
    生.徒の初.恋泥.棒な🔥先.生に夢を見ています。
    遅ればせながら参加となりますが、主催者様、いつもありがとうございます。
    初恋の人はいい香りがした 学園の最寄り駅から電車で四十分ほどのところにある国立公園が、新入生が交流を深めるべく設けられた校外学習の場だった。
     まだ四月の下旬だというのに、照りつける日差しはどこか夏の鋭さをはらんでいて、最高気温は三十度を超えるらしい。
     私立キメツ学園の制服のリボンを初めて結んだ日は、冷たい風が吹いて肩を竦めるほどだったというのに――公園で一番大きな広場で整列させられている間も、先生の説明なんかまったく耳に入ってきやしない。じりじりと焼け付くような日差しと、首の後ろを伝う汗の不快感から逃げ惑うように顔を伏せた。
     視界が揺れている気がするのは慣れない暑さのせいだろうか。すぐに自由時間に入ってよかった、と胸をなでおろしながら近場の大木の木陰に入り、膝を抱えて座り込む。くっつけた膝と膝の間に額を預けて、息を吸ってみる。だからと言って肺が大きく膨らむことも、ぼんやりとした思考が鮮明になるわけでもない。胸がつかえるような気分の悪さも相まって、体をさらに小さくして抱え込んだ。
    3023

    ネギとキメラ

    DONE #kmt夢ワンドロワンライ
    【エアコン】【この指止まれ】
    🍃×🚺
    現パ.ロ/社.会人/付.き合って.ない/キメラ作

    「隣に住んでる🍃さん」をテーマに、お隣さん同士という前提でふんわり読んでいただけると幸いです。
    エアコンが壊れた夏の日 酷暑のさらに上の暑さを表す言葉は何になるのだろう――部屋に吹き込む風を一言で表すならばまさに熱風。夜になっても気温は下がることなく、少しでも涼を求めて風呂場で頭の上から水を浴びたものの、瞬く間に肌は汗ばみ、髪も毛先から乾きはじめていた。
     小さく舌打ちをしながら、吐き出し窓のさらに上を睨みつける。いつもなら上下二枚並ぶフラップが開き、冷たい風を送り込んでいるというのに――今はうんともすんとも言わないエアコンに、本日何度目かわからない溜息が漏れた。

     都内の片隅にある築三十五年の古アパート。建物内の階段を中心とし左右に二つずつ設置された部屋は、どの部屋も角部屋になるように、という大家の配慮らしい。
     壁も薄く、設備も古くはあるがしっかりと手入れが行き届いている。しかも駅から徒歩十分かからない。都心にも出やすい立地で破格の家賃。住人の質もよく、面倒な近所付き合いなどは一切ない。
    3195

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     小さく舌打ちをしながら、吐き出し窓のさらに上を睨みつける。いつもなら上下二枚並ぶフラップが開き、冷たい風を送り込んでいるというのに――今はうんともすんとも言わないエアコンに、本日何度目かわからない溜息が漏れた。

     都内の片隅にある築三十五年の古アパート。建物内の階段を中心とし左右に二つずつ設置された部屋は、どの部屋も角部屋になるように、という大家の配慮らしい。
     壁も薄く、設備も古くはあるがしっかりと手入れが行き届いている。しかも駅から徒歩十分かからない。都心にも出やすい立地で破格の家賃。住人の質もよく、面倒な近所付き合いなどは一切ない。
    3195

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    DONE #kmt夢ワンドロワンライ
    【初恋】【リボン】
    🔥×🚺
    👹学/🔥先.生と社.会人🚺/キメラ作/90分
    「初恋の人はいい香りがした」

    女生徒→🔥✕🚺です。
    生.徒の初.恋泥.棒な🔥先.生に夢を見ています。
    遅ればせながら参加となりますが、主催者様、いつもありがとうございます。
    初恋の人はいい香りがした 学園の最寄り駅から電車で四十分ほどのところにある国立公園が、新入生が交流を深めるべく設けられた校外学習の場だった。
     まだ四月の下旬だというのに、照りつける日差しはどこか夏の鋭さをはらんでいて、最高気温は三十度を超えるらしい。
     私立キメツ学園の制服のリボンを初めて結んだ日は、冷たい風が吹いて肩を竦めるほどだったというのに――公園で一番大きな広場で整列させられている間も、先生の説明なんかまったく耳に入ってきやしない。じりじりと焼け付くような日差しと、首の後ろを伝う汗の不快感から逃げ惑うように顔を伏せた。
     視界が揺れている気がするのは慣れない暑さのせいだろうか。すぐに自由時間に入ってよかった、と胸をなでおろしながら近場の大木の木陰に入り、膝を抱えて座り込む。くっつけた膝と膝の間に額を預けて、息を吸ってみる。だからと言って肺が大きく膨らむことも、ぼんやりとした思考が鮮明になるわけでもない。胸がつかえるような気分の悪さも相まって、体をさらに小さくして抱え込んだ。
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