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    ネギとキメラ

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    ネギとキメラ

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    #kmt夢ワンドロワンライ
    【エアコン】【この指止まれ】
    🍃×🚺
    現パ.ロ/社.会人/付.き合って.ない/キメラ作

    「隣に住んでる🍃さん」をテーマに、お隣さん同士という前提でふんわり読んでいただけると幸いです。

    エアコンが壊れた夏の日 酷暑のさらに上の暑さを表す言葉は何になるのだろう――部屋に吹き込む風を一言で表すならばまさに熱風。夜になっても気温は下がることなく、少しでも涼を求めて風呂場で頭の上から水を浴びたものの、瞬く間に肌は汗ばみ、髪も毛先から乾きはじめていた。
     小さく舌打ちをしながら、吐き出し窓のさらに上を睨みつける。いつもなら上下二枚並ぶフラップが開き、冷たい風を送り込んでいるというのに――今はうんともすんとも言わないエアコンに、本日何度目かわからない溜息が漏れた。

     都内の片隅にある築三十五年の古アパート。建物内の階段を中心とし左右に二つずつ設置された部屋は、どの部屋も角部屋になるように、という大家の配慮らしい。
     壁も薄く、設備も古くはあるがしっかりと手入れが行き届いている。しかも駅から徒歩十分かからない。都心にも出やすい立地で破格の家賃。住人の質もよく、面倒な近所付き合いなどは一切ない。
    最低限の暮らしができればそれでいい、と入居した部屋は意外と心地が良く、すっかりと俺の城となった。そう、俺の城のはずだった。
    「えっ! 不死川さん家、エアコン壊れたって本当だったんですか?」
     がしゃり、と玄関の鍵をしめながら「ご愁傷様です」と続けた女性――俺の部屋の隣人でもある――の言葉尻はこちらに気を使っているが、声色はどこか楽しそうである。そう、まるで何かおもちゃを見つけた子どものような。
    「昨日の夜、大家さんから不死川さん家に修理のために業者さんが来るから騒がしいかも、って聞いていたんですよ。この暑さの中大変ですね」
     隣人と朝に家を出るタイミングが揃うようになったのはいつからだろう。毎朝わずかに聞こえる隣人の音に無意識に耳を澄まして、それに気づいて頭を左右に振っているなんて――絶対に言えやしない。言えるわけがない。

     そもそも、隣人を隣人として認識するための出会いは本当に最悪だった。
     弟達が自立し、己に生まれた少しの余裕。そんな折に開催された高校時代の同窓会には、当時想いを寄せていた女性が参加していた。顔を見て蘇る感情に機会を狙って、見事に撃沈。すべてがどうでもよくなって、やけ酒を煽りアパートまで帰ってきたはいいものの、玄関前で寝入ってしまった俺を部屋に放り込んだのがこの隣人である。
     それ以来、これまで全く意識していなかった隣人を意識するようになった。もちろん最初は必要最低限のやりとりだった。おはようございます、こんばんは、おやすみなさい――そこから朝、家を出るタイミングが一緒になれば天気の話をするようになり、帰りが一緒になれば夕飯の献立話をするようになり。
    今や隣人は休日に「スーパーでお米が安いんです!」と、俺の部屋のインターフォンを鳴らすので、彼女の手作りおかずのおすそ分けと引き換えに、簡単な買い物に付き合うまでとなった。
     施錠の確認をする隣人の傍らで、己も部屋の施錠を進めていく。女性特有の靴が床を叩く軽やかな音がした。先に階段を降り始めた隣人の後姿を、二段分の距離を保って上から観察してみる。
     涼し気な水色のブラウスから伸びる白い腕は、連日続いている強い日差しの下に晒されたらどうなってしまうのだろう。真っ赤に染まってしまうのだろうか、などと勝手な心配をしていると、突然足を止めた隣人が勢いよく振り返ってこちらを見上げた。
    「不死川さん、よかったら今夜うち泊まりますか? この暑さだといくら不死川さんでも熱中症になりかねないですよ」
     ソファで寝てもらうことになりますが――と顔をこてんと右に傾けながら見上げられて、どうすればいいかわからず、思わず上半身が仰け反ってしまう。
     付き合ってもいない女性の部屋に上がり込んで泊まるなどいかがなものか。いや、この隣人は親切心でもって申し出てくれているのだから――湧いては巡る思考はとどまることを知らず。苦虫を嚙み潰したような顔をしている自覚はあった。隣人もその表情から何かしら読み取ったらしい。困ったように笑って「なにかあったらいつでも言ってくださいね」とだけ言って、再び俺に背を向けて階段を降り始めた。

     それにしても暑い。本当に暑い。茹った頭で今朝の隣人の申し出を受け入れてもよかったのでは、と考えるぐらいには暑い。明日までの辛抱とはいえ、暑いものは暑い。
     寝間着として着ているTシャツと短パンも、下着も脱ぎ捨てて全裸になればまだ涼しくなるだろうか――Tシャツの裾に手をかけたところで、インターフォンの音が部屋に鳴り響く。
    「はい……」
    「あ、不死川さんこんばんは~」
     声の主は隣人だった。呑気な声色で名を名乗り「開けてくださーい」という声は心なしか弾んでいる。腹の底から出た溜息は大きいのに、下階の住人には申し訳なくなるほど大きな歩幅で玄関に向かう俺がいる。
    「何か用っすか」
     玄関のドアを開けたことで、生温かい風が部屋を通って抜けていく。隣人も今帰ってきたばかりなのだろうか。服装は朝と変わらないものの、額には汗が薄くにじんでいた。
    「これ、差し入れです。熱中症対策に飲んでくださいね」
     がさり、と片手で差し出されたビニール袋には冷やされたスポーツドリンクが数本入っていた。エアコンが壊れただけで大層なとも思ったが、熱中症により救急搬送された人数が報道されるほどの暑さが続いているのだ。ありがたいことには変わりないので、小さく頭を下げながらビニール袋を受け取る。そんな俺の様子にどこか嬉しそうにした隣人の後ろで、もう一つビニール袋が揺れていることに気が付いた。
    「あと、もうひとつ。これからアイス食べません?」
    「ハア?」
    「アイス食べましょ! 一緒に」
     じゃーん、という声と共に、背中に回っていた隣人の手が勢いよく眼下に差し出される。見慣れたスーパーの袋の中を覗いて目を見張った。袋の中には己の手より一回り大きく、濃紺の地に丸いバニラアイスが描かれた真四角の板――いや、蓋だ。重力に従い伸びるビニールの袋が、中身の重さを物語っている。袋の中身と隣人の顔を交互に見やっていれば「せっかくなので憧れの業務用アイス、買っちゃいました」と小さくこぼした。ふにゃりと笑う顔は、暑さのせいかどこか赤い。
    「……こんなに食べたら、腹壊しちまうぞォ」
    「む、これは不死川さんも食べるんですよ。と、いうことなので、お邪魔させてください!」
    「なんでそうなる」
    「だって、朝に不死川さんにうちに来ないかって聞いたとき、そこまでって感じだったから。逆に涼を持ってきました」
     アイスが柔らかくなるのが先か、隣人が俺の部屋に上がるのが先か。そもそも目の前の女性は、一人暮らしの男性の部屋に上がるということについてどう思っているのだろうか。
     たまに時間を共有することはあるが、お互いに知っていることと言えば顔と名前と職業ぐらいだけ。俺と彼女は、友人でも、ましてや恋人でもないのだ。見知ったものとはいえ、野郎の部屋に上がるなんてハイエナの群れに放り込まれた野ウサギみたいなものだ。もとより危機感とやらがないのだろうか。そもそも、俺はまだまだ彼女にとって「人畜無害なただの隣人」でしかないのだろうか――なんて。らしくないことを考えるのも、きっとこの暑さのせいだ。
    「ほらほら、アイス食べる人この指とーまれ!」
     歯を見せて楽しそうに笑う彼女に毒気が抜けて、考えることを止めた。今、口に放り込むバニラアイスはきっと冷たくて、暑さに火照る体を冷やしてくれるだろう。
     ドアに手を添えたまま、彼女を部屋に上げるための空間を作るため体勢を変えた。ごく近いところを彼女が通り、上がり框を上がっていく。その姿を視線だけで追いかけていると、赤く色づく耳の後ろからうなじにかけて伝い落ちる汗の玉が見えて――思わず喉が鳴った。
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    ネギとキメラ

    DONE #kmt夢ワンドロワンライ
    【初恋】【リボン】
    🔥×🚺
    👹学/🔥先.生と社.会人🚺/キメラ作/90分
    「初恋の人はいい香りがした」

    女生徒→🔥✕🚺です。
    生.徒の初.恋泥.棒な🔥先.生に夢を見ています。
    遅ればせながら参加となりますが、主催者様、いつもありがとうございます。
    初恋の人はいい香りがした 学園の最寄り駅から電車で四十分ほどのところにある国立公園が、新入生が交流を深めるべく設けられた校外学習の場だった。
     まだ四月の下旬だというのに、照りつける日差しはどこか夏の鋭さをはらんでいて、最高気温は三十度を超えるらしい。
     私立キメツ学園の制服のリボンを初めて結んだ日は、冷たい風が吹いて肩を竦めるほどだったというのに――公園で一番大きな広場で整列させられている間も、先生の説明なんかまったく耳に入ってきやしない。じりじりと焼け付くような日差しと、首の後ろを伝う汗の不快感から逃げ惑うように顔を伏せた。
     視界が揺れている気がするのは慣れない暑さのせいだろうか。すぐに自由時間に入ってよかった、と胸をなでおろしながら近場の大木の木陰に入り、膝を抱えて座り込む。くっつけた膝と膝の間に額を預けて、息を吸ってみる。だからと言って肺が大きく膨らむことも、ぼんやりとした思考が鮮明になるわけでもない。胸がつかえるような気分の悪さも相まって、体をさらに小さくして抱え込んだ。
    3023

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    DONE #kmt夢ワンドロワンライ
    【エアコン】【この指止まれ】
    🍃×🚺
    現パ.ロ/社.会人/付.き合って.ない/キメラ作

    「隣に住んでる🍃さん」をテーマに、お隣さん同士という前提でふんわり読んでいただけると幸いです。
    エアコンが壊れた夏の日 酷暑のさらに上の暑さを表す言葉は何になるのだろう――部屋に吹き込む風を一言で表すならばまさに熱風。夜になっても気温は下がることなく、少しでも涼を求めて風呂場で頭の上から水を浴びたものの、瞬く間に肌は汗ばみ、髪も毛先から乾きはじめていた。
     小さく舌打ちをしながら、吐き出し窓のさらに上を睨みつける。いつもなら上下二枚並ぶフラップが開き、冷たい風を送り込んでいるというのに――今はうんともすんとも言わないエアコンに、本日何度目かわからない溜息が漏れた。

     都内の片隅にある築三十五年の古アパート。建物内の階段を中心とし左右に二つずつ設置された部屋は、どの部屋も角部屋になるように、という大家の配慮らしい。
     壁も薄く、設備も古くはあるがしっかりと手入れが行き届いている。しかも駅から徒歩十分かからない。都心にも出やすい立地で破格の家賃。住人の質もよく、面倒な近所付き合いなどは一切ない。
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    🍃×🚺
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    エアコンが壊れた夏の日 酷暑のさらに上の暑さを表す言葉は何になるのだろう――部屋に吹き込む風を一言で表すならばまさに熱風。夜になっても気温は下がることなく、少しでも涼を求めて風呂場で頭の上から水を浴びたものの、瞬く間に肌は汗ばみ、髪も毛先から乾きはじめていた。
     小さく舌打ちをしながら、吐き出し窓のさらに上を睨みつける。いつもなら上下二枚並ぶフラップが開き、冷たい風を送り込んでいるというのに――今はうんともすんとも言わないエアコンに、本日何度目かわからない溜息が漏れた。

     都内の片隅にある築三十五年の古アパート。建物内の階段を中心とし左右に二つずつ設置された部屋は、どの部屋も角部屋になるように、という大家の配慮らしい。
     壁も薄く、設備も古くはあるがしっかりと手入れが行き届いている。しかも駅から徒歩十分かからない。都心にも出やすい立地で破格の家賃。住人の質もよく、面倒な近所付き合いなどは一切ない。
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    DONE #kmt夢ワンドロワンライ
    【初恋】【リボン】
    🔥×🚺
    👹学/🔥先.生と社.会人🚺/キメラ作/90分
    「初恋の人はいい香りがした」

    女生徒→🔥✕🚺です。
    生.徒の初.恋泥.棒な🔥先.生に夢を見ています。
    遅ればせながら参加となりますが、主催者様、いつもありがとうございます。
    初恋の人はいい香りがした 学園の最寄り駅から電車で四十分ほどのところにある国立公園が、新入生が交流を深めるべく設けられた校外学習の場だった。
     まだ四月の下旬だというのに、照りつける日差しはどこか夏の鋭さをはらんでいて、最高気温は三十度を超えるらしい。
     私立キメツ学園の制服のリボンを初めて結んだ日は、冷たい風が吹いて肩を竦めるほどだったというのに――公園で一番大きな広場で整列させられている間も、先生の説明なんかまったく耳に入ってきやしない。じりじりと焼け付くような日差しと、首の後ろを伝う汗の不快感から逃げ惑うように顔を伏せた。
     視界が揺れている気がするのは慣れない暑さのせいだろうか。すぐに自由時間に入ってよかった、と胸をなでおろしながら近場の大木の木陰に入り、膝を抱えて座り込む。くっつけた膝と膝の間に額を預けて、息を吸ってみる。だからと言って肺が大きく膨らむことも、ぼんやりとした思考が鮮明になるわけでもない。胸がつかえるような気分の悪さも相まって、体をさらに小さくして抱え込んだ。
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