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    ネギとキメラ

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    ネギとキメラ

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    #kmt夢ワンドロワンライ
    【あつい】
    🍃×🚺
    👹学軸/先.生同.士/キメラ作
    「揺るがぬ言の葉」

    既に著作権が切れている小説作品より一部引用した箇所がございます。(出展明記済)苦手な方は閲覧をお控えください。

    揺るがぬ言の葉 チャンスだと思った。

     高等部の現国の授業で読書感想文が課題となった。図書室に現れた生徒の顔を見て「よろしくお願いしますね」と老齢の教諭から受けた引き継ぎの内容を思い出す。
     細身でありながらも高い身長と特徴的なとさかの頭。見た目の厳つさに相反する礼儀正しい所作。吊り上がった瞳はさすが兄弟というべきか。瓜二つかと思うぐらいそっくりだった。
    「恋愛小説の読書感想文の課題、聞いていますよ。おすすめはね――」


     私が司書教諭として勤める私立キメツ学園は、私立にしては自由な校風である。もちろん校則がしっかりとあってそれに準ずる形とはなるが、生徒ひとりひとりを尊重しており、それを私は好ましく思っていた。教師陣も個性豊かでいつみてもみな光り輝いていて、一般人の私からすれば、彼ら彼女らの眩しさが、時折、羨ましいとも思ったりする。
     その中でもひとり、私の網膜に焼き付いたことをきっかけに、頭から細胞のひとつひとつにまで刻み込まれてしまった人がいる。
     私はこの学校に赴任してからもうずっと、彼にからだの内側を嵐のようにかき乱され続けている気さえしていた。
     赴任した翌日のことだった。慣れぬ校舎に慣れぬ人。そもそも人付き合いが昔から苦手だった私は、会話のきっかけを作ることすら難しかった。職員室に顔を出し、逃げるようにそそくさと図書室へ向かう。物語の世界は私をいつだってあたたかく迎え入れるし、さまざまな物語の中で私は何者にでもなれる。幼いころから私の中で育つ信念に水をやりながら覚えたての廊下を足早に駆け抜けていた――はずだった。
    「オラァ! 嘴角ァ! 止まれっつってんだろうがあ!」
    「ぜっっってえ止まらねえ!」
     廊下の曲がり角に差し掛かったところで、ふたつの怒号が響いたかと思えば男の子にしては大層美しすぎる顔が目の前にあった。しかし、今はそれどころではない。ぶつかる、と思うも時既に遅し。重心が崩れて足元から力が抜けていく感覚がする。この後にくる衝撃に備えて硬く目を閉じ、頭のどこかで「嘴角、という名前は珍しい」などと考えていた。
     ところが、どれほど構えても襲い来るはずの衝撃はこない。代わりに、右腕をなにかに引き上げられている。おそるおそる目を開けてみれば、銀色の前髪の隙間から黒い瞳がこちらをじっと見つめていた。顔の右側、額と頬に走る傷跡と吊り上がる眦。さらに大きく厚みのある体躯もあいまって、じわじわと恐怖感が迫る。それでも私の右腕を掴む手は熱くて、優しかった。熱が伝播して、心臓が温度を持って脈を打つ。流れだした血液が私の肌を赤く染めている――と錯覚さえ起こしてしまいそうなほど。遠ざかる足音に小さな舌打ちが聞こえたのでたまらず視線を逸らした。眼鏡をかけていてよかった、と心底思った。
    「悪い――っと、大丈夫ですか?」

     不死川先生とまともに会話したのは、それが最初で最後だったと言っても過言ではない。そもそも数学の授業で図書室を使うことも書籍を使うことも、もとより資料すら使うことがない。単純に言って私たちには接点がなかった。もう少しだけ話してみたい、という小さな思いが積み上がる頃には、もしかしなくとも特別な好意を抱いていたようにも思う。
     しかし、彼も個性豊かに光り輝くキメツ学園教師陣の一人。しかも、数学という私とは正反対の世界に生きる人。根本的に考え方が違うのは火を見るよりも明らかだ。幼稚な思いに傷ついてしまうぐらいならば、たまに盗み見るぐらいがちょうどよい。手元の文庫本の文字を追いかけるその途中、視線だけをわずかに上げて銀髪を探す。視界に捉えたなら心臓が勢いよく血液を送り出すのを感じて、また文字に視線を戻す。それだけで十分だった。なぜなら、『片恋というものこそ、常に恋の最高の姿である
    』と、本にはそう書いてあって、私はそれを心から信じているからだ。

    「返却確認しました……読んでみて、どうでしたか?」
     朝いちばん、図書資料室であくびを噛み殺していたところに現れたのは、細身でありながらも高い身長と特徴的なとさかの頭の彼だった。図書の返却を確認しながら投げかけた質問にいつもは吊り上がっている眦が下がり、瞳は困ったように揺れている。
     不死川先生の弟君にこの本を勧めたのは、ほんの出来心と好奇心と――なぜかチャンスだと思ったからだ。あまりにも独りよがりで幼稚なことはわかっていた。ただ、彼の視界に入る範囲内に「恋」に関する言葉を存在させてみたかった。一か八かの賭けでもあり、あえて言うなら差出人を書かずにラブレターを渡した感覚にも近いかもしれない。
     弟君は必死に言葉を探しているようだった。普段はこんな質問すら投げ掛けないのに、きっと昨日の夜の出来事のせいだ。
     あの不死川先生とついに会話をしてしまった。声は震えていないだろうか、言葉選びは間違ってないだろうか。すべての細胞が震えて、ただただ隣を歩く不死川先生を味わおうと躍起にさえなっていた気すらする。
     そして、私は彼のことを知ってしまった。甘いものが好きなことと、厚いレンズ越しに見えた表情がとてもやわらかいこと。夢見心地で過ごした駅までの帰り道から、家について、寝て、起きて。時間は確かに過ぎているのに、駅の改札から私は動けないでいた。その証拠に今もどこかで浮かれているのか、頭がほわほわとしている気さえする。 
    「恋愛とか、片思いとかはちょっとわかんねえ、です」
     すずめの丸焼きの味の方が気になります、と続ける弟君に小さく相槌を打った。
    「もしかしたら、にいちゃ――不死川先生や先生みたいな、大人だったらわかるのかも」
     ふと並べられた名前。たったそれだけのことなのに心臓が血液を勢いよく送り出した。己の中にはないと思っていた、必要のないもののはずだった「彼を知りたい」という欲望の鍵は、たった一晩の出来事でいとも簡単に外されてしまったようだ。こんなの知らない。己が信じていたまばゆく光る世界から一転して暗闇に落ちていくような不思議な感覚。何度も浮上と降下を繰り返す言葉にできない感情の「原因」は、誰でもない不死川先生だ。

    「あ、司書先生! 不死川先生に会えました?」
     昼休みのわずかな楽しみである読書タイムは、昨夜うまく寝付けなかったことによりうたた寝をして終わってしまった。受付を任せていた図書委員が、教室に戻る準備をしながら出した名前に、頭の中に疑問符が浮かぶ。
    「不死川先生?」
    「いや、司書先生を探しに来てたんですよ。司書先生はお気に入りの場所にいるって伝えて探しにいったけど、すぐ戻ってきたから見つけられなかったのかも」
     きっと私はたいそう間抜けな顔をしているのだろう。体の力の入れ方がわからなくなって左手で持っていた本がするりと抜け落ちて床へ落下した。
     あれから特に不死川先生に会う用事も機会もなく、下校時刻もとっくに過ぎた。昨日、残業をしてまでも終わらなかった図書室の展示物の制作も一段落し、今日は昨日よりいくらかは早く帰ることができそうだ。
     朝、職員室で今日の施錠当番が宇髄先生なことを確認して少しだけ気分は落ちたものの、放課後の今となってはなぜか晴れやかな心持ちでいられた。図書資料室の施錠をして、荷物を取りに職員室へ向かう。外はすっかりも暗くなって生徒どころか教師陣もすでに帰宅しているだろう。一人分の足音が響いている。静まりかえる校舎は少しだけ怖いが、何よりも寂しさの方が勝って速度を速める。
    「お疲れさん」
     職員室の引き戸を開けると、そこにはいるはずのない彼が――蛍光灯に照らされた銀糸の髪の、そのまばゆさが網膜を焼いた。予想外の出来事に上げそうになる悲鳴を噛み殺して、少しの間をおいて「おつかれさまです」と紡いだ。情けないことに声は震えていて、全身の血液が心臓やおなかにむかって急速に吸い寄せられていく気がする。
    「アンタも、結構遅くまで残ってるんだな」
    昨日から少しだけ砕けた口調とやさしい声色に息をのんだ。さっさと帰るぞ、と言わんばかりに荷物を手にした不死川先生が、入口で動かなくなってしまった私に向かって訝し気な視線を寄越す。はっとして、たたらをふみながら自分のデスクまで駆け抜けた。どうしよう、どうしよう――などと考えているうちに、不死川先生はセキュリティーカードの確認を始めている。今日の当番は宇髄先生だったはず。
    「ああ、アンタに用があったから変わってもらった」
     不死川先生はそれだけ言って職員室を出て行った。私はもたつきながらその背中を追いかける。時折、大きな歩幅の足が止まって、こちらを気にするように振り返る。視線が交わると吸い寄せられる磁石みたいに、私の足はしっかりと意志をもって駆け出していく。
     正門の施錠が完了したことを確認した不死川先生が体ごと振り返って、私を見下ろした。駅までいきましょうか、と声をかければいいのに。一歩を踏み出せばいいのに、どうしてか躊躇ってしまう。踏み出すと、不死川先生との時間が始まって、終わる――それがひどく寂しい。私は不死川先生と離れがたいとその時気が付いた。今、交わっている視線だってそうだ。
     今夜は新月なのだろうか、どこを探しても綺麗な月は浮かんでいない。いつもより暗い夜なのに分厚いレンズ越しでもわかるほど、見上げた先の不死川先生の頬が赤く染まっていた。かくいう私も不死川先生につられてしまったのだろうか。同じように顔も肌も瞳も唇も、きっと赤くて、すべてが熱くて、まるで燃えているみたいだ。
    「なんで、不死川先生がそんな顔をしているんですか……」
    「アンタこそ、なんつー顔してんだァ……」
     私たちの間にある二文字の言の葉は、きっといつの時代も揺るがない。


    ***

    『』内引用元:太宰治『チャンス』1946(昭和21)年7月「芸術」八雲書店
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    ネギとキメラ

    DONE #kmt夢ワンドロワンライ
    【初恋】【リボン】
    🔥×🚺
    👹学/🔥先.生と社.会人🚺/キメラ作/90分
    「初恋の人はいい香りがした」

    女生徒→🔥✕🚺です。
    生.徒の初.恋泥.棒な🔥先.生に夢を見ています。
    遅ればせながら参加となりますが、主催者様、いつもありがとうございます。
    初恋の人はいい香りがした 学園の最寄り駅から電車で四十分ほどのところにある国立公園が、新入生が交流を深めるべく設けられた校外学習の場だった。
     まだ四月の下旬だというのに、照りつける日差しはどこか夏の鋭さをはらんでいて、最高気温は三十度を超えるらしい。
     私立キメツ学園の制服のリボンを初めて結んだ日は、冷たい風が吹いて肩を竦めるほどだったというのに――公園で一番大きな広場で整列させられている間も、先生の説明なんかまったく耳に入ってきやしない。じりじりと焼け付くような日差しと、首の後ろを伝う汗の不快感から逃げ惑うように顔を伏せた。
     視界が揺れている気がするのは慣れない暑さのせいだろうか。すぐに自由時間に入ってよかった、と胸をなでおろしながら近場の大木の木陰に入り、膝を抱えて座り込む。くっつけた膝と膝の間に額を預けて、息を吸ってみる。だからと言って肺が大きく膨らむことも、ぼんやりとした思考が鮮明になるわけでもない。胸がつかえるような気分の悪さも相まって、体をさらに小さくして抱え込んだ。
    3023

    ネギとキメラ

    DONE #kmt夢ワンドロワンライ
    【エアコン】【この指止まれ】
    🍃×🚺
    現パ.ロ/社.会人/付.き合って.ない/キメラ作

    「隣に住んでる🍃さん」をテーマに、お隣さん同士という前提でふんわり読んでいただけると幸いです。
    エアコンが壊れた夏の日 酷暑のさらに上の暑さを表す言葉は何になるのだろう――部屋に吹き込む風を一言で表すならばまさに熱風。夜になっても気温は下がることなく、少しでも涼を求めて風呂場で頭の上から水を浴びたものの、瞬く間に肌は汗ばみ、髪も毛先から乾きはじめていた。
     小さく舌打ちをしながら、吐き出し窓のさらに上を睨みつける。いつもなら上下二枚並ぶフラップが開き、冷たい風を送り込んでいるというのに――今はうんともすんとも言わないエアコンに、本日何度目かわからない溜息が漏れた。

     都内の片隅にある築三十五年の古アパート。建物内の階段を中心とし左右に二つずつ設置された部屋は、どの部屋も角部屋になるように、という大家の配慮らしい。
     壁も薄く、設備も古くはあるがしっかりと手入れが行き届いている。しかも駅から徒歩十分かからない。都心にも出やすい立地で破格の家賃。住人の質もよく、面倒な近所付き合いなどは一切ない。
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     まだ四月の下旬だというのに、照りつける日差しはどこか夏の鋭さをはらんでいて、最高気温は三十度を超えるらしい。
     私立キメツ学園の制服のリボンを初めて結んだ日は、冷たい風が吹いて肩を竦めるほどだったというのに――公園で一番大きな広場で整列させられている間も、先生の説明なんかまったく耳に入ってきやしない。じりじりと焼け付くような日差しと、首の後ろを伝う汗の不快感から逃げ惑うように顔を伏せた。
     視界が揺れている気がするのは慣れない暑さのせいだろうか。すぐに自由時間に入ってよかった、と胸をなでおろしながら近場の大木の木陰に入り、膝を抱えて座り込む。くっつけた膝と膝の間に額を預けて、息を吸ってみる。だからと言って肺が大きく膨らむことも、ぼんやりとした思考が鮮明になるわけでもない。胸がつかえるような気分の悪さも相まって、体をさらに小さくして抱え込んだ。
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     小さく舌打ちをしながら、吐き出し窓のさらに上を睨みつける。いつもなら上下二枚並ぶフラップが開き、冷たい風を送り込んでいるというのに――今はうんともすんとも言わないエアコンに、本日何度目かわからない溜息が漏れた。

     都内の片隅にある築三十五年の古アパート。建物内の階段を中心とし左右に二つずつ設置された部屋は、どの部屋も角部屋になるように、という大家の配慮らしい。
     壁も薄く、設備も古くはあるがしっかりと手入れが行き届いている。しかも駅から徒歩十分かからない。都心にも出やすい立地で破格の家賃。住人の質もよく、面倒な近所付き合いなどは一切ない。
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