こじんまりとしたキッチンに軽快な金属音が響く。
「マァム、此方も入れるので、一旦手を止めなさい。」
「分かったわ。」
マァムは言われた通り作業を止めると、彼女は銀色のボールの中にココアパウダーと薄力粉を合わせたものを振るいで入れる。さらさらと混ぜ合わせた粉が生地の中に入っていく。振るいの中粉を全部出し終わると、振るいを洗い場の中に入れ、ゴムベラをマァムに差し出さした。
「では、これを使ってさっくり混ぜなさい。さっくりですよ、さっくり。」
「え、さっくり?さっきみたいな混ぜ方で良いんじゃないの?」
「それでは百パーセント失敗します。」
「う、分かったわ。さっくりね、さっくり。」
ゴムベラを受け取り彼女の忠告通り慎重に混ぜようと掻き混ぜようとするが、どうしても力任せに混ぜてしまう。それを見かねた彼女は溜息を付き、見てられないと手をマァムへと差し出した。
「貸しなさい。私がやります。」
「ご、ごめん、アルビナス。」
マァムは素直にゴムベラを渡すと、彼女は慣れた手つきで混ぜていく。
「アルビナスって、器用ね。」
「貴方が不器用なだけでは?普通の方でも、これ位当たり前に出来ます。」
「でも、アルビナスって裁縫や料理とか何でも出来るから、やっぱり器用よ。」
凄い事よとマァムは笑顔で相手を褒めるが、彼女は黙って手を動かすだけだった。
軽薄な態度だが、彼女の性格を理解しているマァムは特に気にする事無く、型の準備をする。
「そう言えば、米麹甘酒入りのガトーショコラって、珍しいなって思ったんだけど、やっぱりハドラーに上げるのよね?」
「その予定です。」
「喜んでもらえると良いわね。」
「お世話になっている感謝の為の贈り物です。私情は挟むなど、言語道断。」
「でも、バレンタインの日は告白する日でもあるのよ?」
「……ハドラー様が元気でいて下されば、それで良いのです。」
「アルビナス、貴方本当に好きなのね。」
マァムの小さな言葉は彼女の耳を擽るだけだった。
「それよりも、貴方こそ、どうなんです?」
話を切り替えされ、マァムは首を傾げた。
「誰に上げるのかと聞いてるのです。」
「えっと、先生に、レオナ、ダイは勿論、ヒュンケルとポップも上げるわ。」
「そうではなくて……本命は誰かと聞いているんです。」
「本命?」
どういう事だと眉根を潜めるマァムに、彼女は溜息を付いた。
「ヒュンケルとポップのどちらなんです?」
「え、なんで、二人の名前が……」
「この前言ってましたね、二人の事が気になると。なので、今回で結審したと思ったのですが……」
ちらりとマァムを見遣り、そして彼女はやれやれと肩を竦めた。
「その様子じゃ、まだまだですね。」
戸惑い目を泳がせるマァムの様子に、彼女はこれはまだまだ相談役は続きそうだと溜息を零した。
そして、混ぜ終わった生地に満足そうに頷いた。
***
作業場所はマァムの家です。