絆を、きみに「アンタに、トス、あげるで。」
あの時言われた言葉に、思わず胸が踊った。
実は、その時から気になっていた、なんて言ったら、驚きますか?
異国の地に有る、彼の家。
見慣れない部屋に招待され、少々居心地の悪さを感じながら入ると、ふとあるものを見付け、侑は思わず顔が綻んだ。
日本で同じチームに居た頃に撮った、チームの写真を入れた写真立て。
それは、彼が大事にしている証拠。
「あ、適当に座っててください。今、飲み物作ってきます。」
「おん。分かったわ。」
家主の言葉に返事を返し、改めて辺りを見渡すと、自分が贈った物が大事に飾られている。
異国の、知らない部屋に、自ら選んだ物が溶け込んでいる。
その事が嬉しくて、仕方が無かった。
彼に、少しでも許されているような気がした。
愛おしさが体中に駆け巡る。
告白して付き合ってから、何年も経った。
遠距離になっても、関係は順調の方だ。
そろそろ良いだろう、と思う。
彼を縛る、絆を与えたい。
言いたい。
欲しい。
でも、彼の笑顔の前では、言えない。
言葉が詰まってしまう。
「なっさけないなあ、ほんま。」
後頭部を掻いて、自嘲する。
「なにが、ですか?」
丁度コーヒーを入れた日向が、カップを二つ手にして隣に立っていた。
首を傾げる大きな明るい色に、侑は「あー、うん。その、な。」と歯切れの悪い回答をする。
それを見た日向は、ふうと一つ息を吐くと、侑を真っ直ぐ見上げた。
「もう、仕方ないですね。」
小さく笑う声に、侑はゆっくりと視線を合わせた。
お互いの瞳が絡み合う。
「ずっと一緒に生きましょう。」
少し乾いた唇から告げられた言葉に、侑は目を丸くした。
「侑さんの言いたい事、分かりますよ。だって、もう何年も付き合ってるし。」
したり顔を浮かべる日向に、侑は思わず片手で顔を押さえた。
その耳は、ほんのりと色付いている。
「それ、おれが言いたかってんけど。」
「だって、遅いんですもん。俺待ったんですよ?」
頬を膨らませる日向に、侑は手を伸ばした。
伸ばした先は、柔らかく明るい髪。
「あー、それはスマン。せやから、もう一度仕切り直させてや。」
「仕方ないですね。」
さあ来いと気合十分な日向に、「試合みたいやん」と笑いを噛み殺した。
そして、髪を触っていた手を下へと滑らせ、頬へと触れる。
昔よりも引き締まっているが、やはり触り心地が良い弾力を堪能する。
目を細めて手に擦り寄る日向を見ながら、徐に親指を伸ばし、乾いた唇に触れ、一撫でする。
刹那、淡く色付いた、気がした。
「翔陽くん。」
呼ぶ声に、大きな瞳が一つ瞬く。
「一生のパートナーになってや。」
部屋の窓から昼間の賑やかさが響く中、大事な言葉が強く届く。
「勿論です。」
目元を赤くさせ、少々上擦った声で破顔する日向に、侑は表情を緩めると、乾いた唇へ恭しく口付けをした。
日向が持つカップの液体が、揺れ動いた。
何度かの軽い触れ合いの後離れると、日向は随分と艶めいていた。
その様子に喉を鳴らしながら、「続きは夜にな」と艶やかな声で囁くと、日向から二つのコップを奪った。
「ちょ、その声反則です!」
「翔陽くんは、ほんま好きやなあ。」
「そりゃあ、侑さんだからに決まってるでしょう!」
「……翔陽くん、それこそ反則や。」
魔性やと嘆く侑に、日向は「魔性は侑さんです!」と反論する。
そして、不意に二人の視線が絡む。
すると、どちらからともなく笑んだ。
丁度部屋の窓からは、二羽の鳥が仲睦まじく飛んでいった。
HAPPY END