かーにばる・ぱにっく久々の休みになり、ブラジルに遊びに行く。
待ち合わせの場所に行くと何故か、ASASのメンバーが居て、何処かに連れていかれる。
そこで出会ったのは、サンバの衣装(女性用)を着た日向だった。
「なんでそんな恰好してるの。」
「どうせ似合いませんよ!キモイだけですよ!だから言っただろう!似合う訳ないじゃんって!」
前半は日本語で及川へ、後半は現地の言葉でチームメイトに、器用に叫ぶ。
呆けている及川に、メンバーがにやけながら何か言えよとヤジを飛ばす。
「なにこれ、罰ゲーム?」
「罰ゲームの方が良かった!」
嘆いて両手で顔を隠す日向に、漸く此処で少々意地悪し過ぎたかと反省する。
そして、素直じゃない及川に、メンバーがもう一つ見せてやれと言って、何やらスマホを操作する事数秒、小さなスピーカーから音楽が流れだす。
その音楽は、リオのカーニバルで掛かる様なサンバのリズムが効いた曲だった。
その曲を聞いた瞬間、日向の顔が歪み、チームメイトを睨む。
しかし、チームメイトは気にも留めず、早くやれと囃し立てる。
嫌だーと叫ぶ日向を他所に、チームメイトはサンバのリズムを刻みだす。
一気にお祭りムードになった空気に、日向は大きく溜息を付いた。そして、未だ付いていけずに傍観している及川に、言葉を掛けた。
「変でも、笑わないで下さいよ。」
ぽつりと呟いた刹那、チームメイトに呼ばれる。日向は意を決し顔を上げると及川から離れ、仲間の元へと行くと、リズムに合わせて踊り出した。
たどたどしい足取りながらも、身体でステップを踏む。
あの大きなカーニバルのダンサーには遥か及ばないが、力強く踊る様は、太陽の様な眩しい程輝きがある。
そして、はつらつとした表情と挑発的な瞳は、とても魅惑的である。
このアンバランスな姿に、見惚れない訳が無く。
「あー、もう。ヤバイって。」
小さく舌打ちをし、不機嫌な顔を貼り付けて日向の腕を掴む。
きょとんとする瞳に、及川は問答無用で引き寄せた。
「そんなに情熱的に誘って、俺を虜にしたいんだ?」
「んな!そんな訳ないでしょ!」
憤慨して顔を染める日向に、及川は赤く染まった耳元に口を寄せた。
「そっちがその気じゃなくても、こっちはもう墜落してるの。これ以上やられたら、我慢できない。」
何時もよりも低い声で囁くと、日向は違う意味で顔を朱に染める。
言葉を詰まらせて見上げる瞳は、ゆらゆらと揺れる。
その瞳に吸い寄せられるように、顔を近付け、震える唇に重ねた。
途端に驚き離れようとする日向の腰を緩く摑まえ、引き寄せる。
「今はキスで我慢するよ。」
「皆の前で、キスしちゃだめですってば!」
「別に、良いじゃん。愛する人にキスするのは当たり前なんだし。」
さらっと言った「恋人」という言葉に、日向は目を泳がせ「そりゃあ、そうですけど」と口ごもる。
そんな相手の様子に可愛いなと目を細めながら、両手を取る。
「さて、折角誘って貰えたんだし、踊ろうか?サンバ。」
そう言い、日向の手を握ったまま、踊り始めた。
社交ダンスのサンバは、見た事しかない日向にとっては難しい事この上なかったが、及川がフォローしてもらい、見様見真似で踊り出す。
次第に二人の息が合い、軽快に踊る。
二人はお互いだけを見つめ、お互いに誘惑する。
二人のダンスに、チームメイトは「いいぞもっとやれ!」「お前ら結婚しろ」と囃し立てる。
その言葉に苦笑している日向に対し、及川は何故か真剣な表情で日向を見ていた。
丁度、音楽が途切れ、二人の足が止まる。
すると、及川は「あのさ、」と視線を逸らし歯切れの悪い声を出した。
どうしたのかと首を傾げる日向に、及川は一つ息を吐き出すと、日向へ向き直る。
大人の瞳が小さく揺らめく。
「本当は、こんな形でやりたくなかったんだけど、でも、どうしても今言いたいから。だから、言うよ。」
そう言うや否や、日向の両手を掬い持ち上げた。
日焼けをしたスポーツをやる手を愛おしそうに見つめ、そして恭しく口付けた。
途端に、日向の身体に電流が駆け抜けた。
「翔陽」低く艶やかな声で、呼ぶ。
誘われる様に、ゆっくりと目を合わせる。
明るく輝く瞳が揺れる。
大人の瞳の色が柔らかくなる。
「俺と、一生を共にしてください。だから、結婚しよう。」
その甘い言葉に、日向は破顔して抱き付いた。
「一生、離しませんから。」
「それは、こっちの台詞。覚悟しておいてよ。」
雫を零した明るい瞳に、及川は愛おしそうに目元にキスした。
それを擽ったそうに受け止めた日向は、お返しとばかりに唇に触れるだけのキスをした。
その様子を見ていたチームメイトが「もっとやれ!」と囃し立てるので、及川は日向を抱き寄せて叫んだ。
「嫌だね。俺のだから、見せない!」
そう英語で宣言する及川に、日向は顔を染めた。
そして、チームメイトは「お熱い事で」と笑った。