幼馴染とアンバランスなキスあるところに、とても仲の良い男の子と女の子がいました。
二人は小さい頃にはいつも一緒にいましたが、男の子のお家の事情によりしばらく離ればなれになっていました。
大きくなって再会した二人は、また毎日一緒に過ごせるようになることを喜びました。
二人は昔のように仲良くできました。
お互い成長して見た目は変わっていましたが、昔と変わらない空気でいられることに男の子は安心しました。
同じ学校に通って、同じ教室で学ぶ、ごく普通の高校生活は、二人にとって楽しいものになりました。
男の子は女の子によくこう言うようになりました。
「俺たちは特別だろ?」
「特別?」
「一旦離れたのにまた会えたし、学校もクラスも一緒だし、ただの幼馴染じゃないってこと」
「それもそうだね……?」
「バイトも一緒になったし」
「うん。玲太くんが一緒なの、安心するよ」
女の子もまた、男の子ほど過去の細かな記憶はありませんでしたが、二人でいることはごく自然なことだと考えていました。
男の子と過ごす時間は楽しくて落ち着く気分になります。
何でも話せて頼りになるとても身近な存在で、けれど、家族とは違うと感じていました。
それが幼馴染というものなのだと思っていました。
二人で出かける時に手を繋ぐのは子どもみたいで少し恥ずかしさはありましたが、はぐれる心配がなく安心するなと考えていました。
時々、男の子は女の子の額にキスをすることがありました。
「お礼ってことでいいだろ?」
「うん」
おでかけのお誘いへのお礼だと言います。
女の子は驚きましたが、男の子がイギリスで育ったためこういうスキンシップもあるのだなと思いました。
また別の日のおでかけでは、頬にキスをします。
「クリーム付いてたから」
「恥ずかしい…」
女の子は、クレープを食べながらの公園の散策には細心の注意を払おうと思いました。
いつの頃からか二人だけのお出かけは「デート」と名を変えていました。
その時間が楽しいことに変わりありませんでしたが、手を繋いで肩を寄せ合うような軽くやわらかな触れ合いは、女の子をドキドキさせるようになりました。
ある夏の日には、花火の眩しい光で照らされる美しい横顔に引き寄せられるように唇に。
………直前に、さすがに女の子は躊躇って男の子に訊ねます。
「キス、するの?」
「したい」
「いいのかな…?」
「俺たちは特別、だろ……?」
「そっか。特別なら、いい…かな……」
目を閉じて触れ合わせた唇は、女の子が思っていたよりあたたかいものでした。
一瞬の幸せな心地と、離れた後の顔の熱さと、キュウッと胸が苦しくなる感覚に、女の子はクラクラしてしまいました。
その感覚をずっと憶えたまま、忘れられないまま、特別な幼馴染の高校生活は三年目になりました。
相変わらず仲良くしている二人でしたが、唇へのキスは花火大会の日だけのものでした。
女の子は時々、あのキラキラした光の中で触れた感覚を思い出していました。
熱くて、あまくて、苦しくて、クラクラする幸せ。
忘れられなくて、もう一度触れたいと考えていました。
「あのね。今日、キスの日だって」
だから、何か理由を付けて自分からねだることにしました。
「へえ。そんなのあるのか」
「だからね、……したいなって」
放課後の教室で、女の子は男の子と一緒にカーテンの中に包まりました。
二人きりの空間にして、抱き合って囁き合います。
「して、いいのか?」
「うん。玲太くんとわたしは、特別、なんでしょ?」
「ああ……」
女の子は、今度は男の子の赤い瞳を見つめたままキスをしてもらいました。
それは以前よりももっとドキドキして、柔らかくてあたたかくて、女の子は幸せな気持ちでとろけてしまいました。
ふにゃりと力が抜けた体を男の子の胸に預けて、嬉しそうに微笑みます。
「あのさ」
「なあに?」
「こんなことしたら、俺たち、もっと特別になるな」
「それって、毎日キスできる……?」
「ああ、いくらでもしよう……!」
女の子の大胆な発言に、男の子は驚いた顔をして、それから顔中を真っ赤しながら女の子の体を力いっぱい抱きしめました。
特別で幸せな幼馴染の二人は、その日から毎日キスをしました。
それはもう幼馴染ではなく別の関係性を表す言葉の方がピッタリなくらいの間柄ですが、そこに至るための大切な気持ちと言葉が女の子には足りていません。
その気持ちに届くまで、まだ少し。あと少し。
これはそんな、歪な幼馴染のお話。
[end]