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    WritukoM

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    玲マリ文字書きです。

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    バレンタイン前の、玲マリになる前の玲マリのようなもの。
    心配性な玲太くんと、玲太くんは頼りになるなととても素直に思っているタイプのマリィちゃんです。

    【玲マリ】春の足音「さむいっ」「さむすぎるな」

    校舎から一歩外に出ると、ビュウっと強い風に煽られる。
    思わず口を突いて出る声は抵抗できずに即白旗を上げる敗北宣言みたいになってしまう。
    寒くて冷たくて痛いくらいの空気。一瞬で体が凍えてぎゅっと縮こまってしまいたくなる。
    今日は寒波到来とかで朝からずっと芯から冷える寒さだったけど、午後からも気温が上がらないし、どんより曇り空だし、なんだか気持ちがしぼんでしまう。
    立春は過ぎたんじゃなかったっけ?
    早く春になってほしい。

    「マフラーしっかり巻いたか? 手袋は?」
    「してるよ。これないと指先凍っちゃう」
    「あ、あとカイロ」
    「ポケットにある。これも忘れてないよ」
    「それならいい。じゃあ帰るか」

    お母さんみたいなことを言う幼馴染は余程わたしが心配らしい。
    防寒着でもこもこの姿になったわたしを確認して安心したように頷いてる。
    それを見てわたしは、なんだかなぁ、と感心するような……嘆息するような、ハッキリとは分からない気持ちを胸にしまい込む。
    彼がこんなに保護者のようになってしまったのは、わたしが再会早々に水溜りに足突っ込んだり、ボヤッとしたところを見せてしまったせい……だと思う。
    とにかく気遣ってくれて、一緒にいてくれて、今はわたしの隣でわたしの歩幅に合わせて家までの道を歩いてくれる。
    こうして守るように扱ってくれるのは正直に言って居心地がいい。たくさん甘えられるし、いてくれることで安心する。
    でも……、玲太くんの方はそれでいいのかな? わたしのお守りばかりしていて楽しいのかな? ――そういうことは、時々考える。

    「今日はいつもの場所に行ったら凍っちゃいそうだね」
    「ああ。今日は寄り道はなしだ」
    「焼き芋も?」
    「毎日用意してるわけじゃないからな? あれは特別」
    「ふふっ。キャンプ場で食べるのも、河原で食べるのも、どっちも美味しかったな。また食べたいな」

    楽しかったこと、美味しかったことを思い出してると、寒い中でもちょっと心がポカポカあったまった気がしてくる。
    サプライズで出してくれた焼き芋とかコーヒーとか、特別な味の記憶になってるのは玲太くんがしてくれたから。玲太くんのおかげ。

    「またって……この食いしん坊め。まあ、おまえが喜んで食べるの見ると用意した甲斐があったというか、こっちも嬉しいけどさ」

    玲太くんは困ったようにふっと力を抜いて笑う。
    しょうがないなって、また世話が焼けるなって言うような表情。
    こういうのじゃないのが見たいのにな。
    わたしも甘えてばかりじゃなくて、玲太くんをたくさん笑顔にしたい。
    楽しいとか美味しいとかをくれるみたいに、玲太くんから貰っている分を少しでも返せたらいいのに。
    何か……せめて、感謝だけでも、形にして……。
    考えて、ふと思い出したのはバイト先の雑貨店でのこの季節ならではの光景。

    「そうだ。玲太くんは、チョコはどんなのが好き?」
    「チョコ……って、おまえ、それどういう意図で訊いてるんだ?」

    言ってしまって、訝しむ目で問われてから、わたしは遅れて気付く。
    こういうのって、本人に直接聞いたりすると贈り物として台無しになっちゃうのでは?
    前にも、こっちからサプライズで何かお返ししたいって言って、それじゃサプライズにならないって呆れて笑われた気がする。
    慌てて口元を押さえてから、それらしい理由を考える。

    「ええと……。お店でバレンタインギフトのおすすめを聞かれることあるでしょ? いつも売れ筋を案内してるけど、ホントのところ、男の子の好みってどんなのかなって……思って……みたいな」
    「……ふうん?」

    じぃっと見てくる瞳に、泳いで逸らす視線。
    しばらくのせめぎ合いの後、玲太くんの方が、まあいいかと息を吐いて折れてくれる。

    「…………俺は、チョコに特定の好みはない」
    「そうなんだ。そっか……」

    去年はすごく軽く、自分が食べてみたいものを選んで一緒に食べようって言って……バレンタインという名目で玲太くんを試食に付き合わせるようなことをしていて、イベントとしての中身なんてなかった。
    バレンタインデーらしく、……愛とは違うけれど、きちんと感謝を伝えたい。
    そのために今年はちゃんと、玲太くんのために選びたい。
    どんなものでもいいかな。
    キャラクターものとかは違うよね。
    アンティークっぽい箱に入ってるのとか?
    お魚の形のチョコとかあったかな?
    難しいなって考えてると、隣で玲太くんも一緒に何か考える素振りをして口を開く。

    「参考にしたいなら、他のヤツに訊いた方がいいんじゃないか? 七ツ森とか詳しそうだし、柊も贈答菓子とかよく知ってるんじゃないか?」
    「えっ? え……っ、と」

    もっともな提案に、わたしはまた狼狽える。
    そうなのかもしれないけど、そういう話題を出せるほど仲が良いわけじゃないし、そもそも他の意見はあまり必要としていないと言うか……

    「……玲太くんじゃなきゃ意味ないし……」

    何て言って返そうかもごもごと考えて、結局隠しきれないものが、小さく口から漏れ出てしまう。
    それと同時に玲太くんの足がぴたりと止まった。
    ゆっくりとこちらを向いた真剣な表情が、少し気まずい気持ちのわたしを真正面に捉えた。

    「それなら言うけど、ちゃんと、よく聞けよ?」

    少し低くなった声。
    あまりにまっすぐに見つめてくる瞳に思わず息を飲む。
    ピリッとした空気に、背筋が自然と伸びて、わたしはコクッと頷いた。

    「『おまえが』俺にくれるものなら、なんでも、だ」

    強調して言われた言葉を頭の中で繰り返す。
    おまえが。
    わたしが。
    わたしが、玲太くんに。

    「なんでも……?」
    「ああ。それならなんでも嬉しいし、なんだって好きだ」

    なんだって、すき

    ドキッとする言葉。
    その言葉を口にしたとき、玲太くんの表情がやわらかく変化した。
    とてもやさしい、とろけるような笑顔。
    大切なものを慈しむような眼差し。
    それはいつもの保護者のようなものとは違って、わたしの心はそわそわと落ち着かなくさせる。

    「おぼえたか?」
    「う、うん」
    「なら、よし」

    満足げに頷く玲太くんの顔が、耳の端まで急速に赤く染まっていく。
    コクコクッと頷くわたしの頬っぺたも、つられるように熱くなってくる。

    「帰ろう」
    「うん……」

    見合ってるのが気恥ずかしくなってお互い目を逸らせて、――そこから家に帰るまで、何か会話はしたはずだけど覚えてない。
    頭の中は「どうしよう」ってことでいっぱいで、いろんなことで忙しくなってた。

    どうしよう、ドキドキが落ち着いてくれない。
    このドキドキは何? どうしたらいい?
    というか、結局、チョコ選びどうしよう?
    みちるさんとひかるさんに相談していいかな?
    わたしは……玲太くんにどんな気持ちを伝えたいの?


    それから、家の前で別れた後、玲太くんの背中を見送りながら……とても寒かったはずなのに、いつの間にかそんなの忘れて、ドキドキしたせいかぽかぽかあったまってるものだから、

    春ってこんなふうに来るのかな、なんて考えた。



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