初めて参加した高校時代の同窓会の席は、あの頃の記憶を薄らと刺激する、そんなありふれた様相だった。高校時代の縁か、あるいは自分が不参加だった数回のうちに新たに生まれた人間関係か、ある程度出来上がったグループを避けて人の少ない一席に座る。それが学生時代も文化部でパッとしない青春を過ごし、今も特に目立った人生を送っていない自分にはちょうど良い場所だった。そんな人間がなぜ同窓会などという場に出席したのか、それには確固たる理由があった。
「あれ、葦崎?」
賑やかだったテーブルの端で笑っていた男が、ふと自分の名前を口にした。男性にしては少々長い茶髪を低い位置で結んだ、幾分かやんちゃそうな男だった。とはいえ明るく跳ねるような声に威圧感はない。この場はクラス単位の同窓会であって、いるのは全員元クラスメイトであるはずだったが、あのような知り合いがいたかどうか。記憶は定かではなかった。どう返事をすべきか悩む自分の様子を察してか、男はひと席開けた隣に座り、言葉を続けた。
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