世界線が同じか分からないこうなればいいな程度の話「あの、小次郎先生」
「もう違うだろ」
そうだけど。
だって慣れないんだ、ずっと先生って呼んできたから。
「…小次郎さん」
「なんだ?イノリ」
「あの。…見づらい、です。映画」
「そうか?じゃあ見るの止めて別のことするか」
「いえ!あの、見ます」
背中から抱きしめてくる先生の腕の力が少し強くなって、僕は焦って否定した。
背後で小次郎先生が笑っているのがわかる。
ああもう。
小次郎先生は僕が卒業して開き直りすぎだと思う。
元々は僕が推していたハズの関係は僕の卒業と共にあっさりと逆転していて。
僕はこうやって翻弄される。
おかしいな、僕の方が先に好きになったのに。
「イノリはこういう話が好きなのか?」
「こういうのも嫌いじゃないです。だけどこの映画は夜ノ介先輩がおすすめしてくれたんですよ」
「ああ、夜ノ介の趣味か。それなら納得する」
言いながら、先生はすり、と顔を寄せてくる。
先生の癖のついた髪が僕の耳を擽った。
「こ、小次郎先生。こそばゆいんですけど」
「……イーノーリ?」
「はい?……っ」
不機嫌そうな先生の声に疑問の声を上げると、不意に頬に触れる柔らかい感触。
反射的に先生の顔を見ると、いつもの悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「何回言っても直さないから、これから言ったらこうする」
「え、あの」
「罰ゲームな」
「え、先生何言っ……んッ」
耳に唇を押し付けられて、ゾクリとする。
おまけに耳孔を舌で舐められて変な声まで出た。
なんだ、今の声。
恥ずかしい。
頬に熱が籠った感覚がした。
何故か先生も動揺したようで、耳元でため息が聞こえた。
「え、っと、あの」
「…罰ゲーム、つったけどさ」
「…え」
「あんまそういう声出されると、我慢出来なくなるからな?」
我慢、って。
……キス、以上の事なんだろうか。
まだ唇へのキスもそんなにしていないのに、そんなこと。
「駄目、ですよ」
「だろ?だからちょっと気をつけてくれな」
「わかりました。…『先生』」
先生が目を瞬く。
一瞬して、ニッと笑う。
僕はといえば震える唇を噛み締めて、小さく頷いた。
心臓が口から飛び出しそうなくらい恥ずかしいけど。
それでも。
「悪いな、夜ノ介。あとでしっかり見るから」
そう言って先生はリモコンでTVの画面を消した。
僕は眼鏡を外して、小次郎先生の胸に顔を埋めてその体に腕を回した。