「あっつ!」
「当たり前だろ、焼きたてなんだぞ。気をつけて食えよ」
「あー……舌火傷した……でもやっぱり焼きたて、美味い」
「そうだな」
目の前のカザマは専用のピックで器用にたこ焼きを回転させながら笑う。……あんまそう無防備に微笑まないで欲しい。ただでさえ予定外に今日は二人っきりなワケだし。そもそも今日の発起人はダーホンじゃん? そりゃ急な家の用事は仕方ないけどさ、こんな急に二人っきりにされたらこっちの心臓が持たないんデスよ。
目の前のカザマはそんなこっちの気持ちなんて素知らぬ顔で『焼けたぞ』なんて言いながら俺の皿に焼けたたこ焼きを放り込んでくる。……あーあ。意識してるの、俺だけなんだろーね、コレ。
「流石にタコ余りそうだな」
「まー、元々三人分を想定して買ってきたし。ダーホンが来れないなら言っといてくれよな、俺が買い出し係だったんだから」
「悪かったよ。本多からおまえにも連絡してたと思ってたんだ」
「……ダーホンが来れないなら、また別の機会でもよかったんだけどな」
「おまえにも連絡が行ってたと思ってたし、その上でおまえから延期の提案がなかったから俺は二人でするつもりだと思ったんだよ」
「男二人でタコパとか侘しいこと」
「……あいつとか、呼べばよかったか?」
……呼べばよかったじゃん。カザマはその方がイイでしょ。そんな言葉を息を吹きかけたたこ焼きと共に飲み込んだ。カザマはその方が良かったかもしれない。……けど、俺は。
「まー、それも今更でしょ。てか焼きたてたこ焼き美味いな、ホント。焼きたてってだけで素人が焼いてもこんな美味いなら本場だとどれだけ美味いのか気になるな」
「いいな。大阪旅行。粉もんツアーか。七ツ森、太るぞ」
「う……。いーの! 旅行は楽しんだ者勝ち!」
「それもそうだな」
くすくすと笑いながら、カザマは空っぽになったたこ焼き器にまた生地を注ぎ込む。ジュウジュウと美味そうな音を立てるそこに小さく切ったタコを押し込み、ネギや紅しょうがを散らしていき、それを丸くひっくり返す。……何度見ても鮮やかな手つき。
「カザマ、たこ焼き返すの上手いね。練習でもした?」
「……練習したよ。今日のために」
「はは、マジ?」
「うん。おまえに『すげー』って言ってもらいたくて」
……え。
俺が目をぱちくりさせると、たこ焼きをひっくり返し終わったカザマが湯気の向こうから俺の目をじっと見つめてきた。
「……カザマ?」
「旅行、楽しみにしてる。七ツ森プレゼンの粉もんツアー」
「あ、ああ。……そーだな、じゃあダーホンにも都合を聞いて」
「なんでだよ。旅行の話は俺たち二人でしたことだろ」
「え」
「……俺は、おまえと二人で行きたい」
なに、………え?
多分顔を真っ赤にして戸惑う俺に、カザマはたこ焼きを冷ますために息を吹きかけながらにっこりと微笑んだ。