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    namo_kabe_sysy

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    namo_kabe_sysy

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    女装アル空話 パーティ当日のお話
    次回えちパート(予定)

    #アル空
    nullAndVoid
    ##Cutiemagic

    Cutie magic5パーティ会場に通された空とアルベドは、案内をした男と別れて、本日の主役である人物を待っていた。
    会場内にはクロスのかかった円形のテーブルが規則性を持って配置され、その上にはキャンドルや花の装飾、立食形式にはぴったりなあらゆる食事が広げられていた。鮮度の高そうな野菜、香ばしく焼かれた肉料理、宝石の展示でもされているかのようなデザート。ここにパイモンがいたなら端から端まで残さず全て平らげそうだなと、今は不在の小さな妖精を思った。
    あまり目立たない場所にいようと決めた二人は、会場の中心から遠い壁際で待機していた。そろそろかな、とアルベドが豪奢な時計を見上げると、長針が12を指した瞬間に照明の一切が落とされて、代わりにスポットライトが扉の前を明るく照らした。ざわついていた声は途端消え失せて、どの人も見守るように、光の場所へ眼差しを注ぐ。
    やがて厳かに開かれた重厚な扉の間から、一人の男が静かに会場へ足を踏み入れた。
    耳朶の下まである金髪の髪を後ろに撫で付けている男は、落ち着いたブラウンのタキシードを身に纏っている。てっきり両親と同様派手な衣装で揃えてくるかと思ったが、所作も含めて二人とは異なった雰囲気を漂わせていた。事前に写真で見た通り、吊り眉で垂れ目、長い鼻梁と薄い唇を顔に乗せ、母親と同じエメラルド色の瞳は、瞬きのたびに映す場所を変えているような動きをしている。気まぐれに目線の先にいる女性たちに微笑むと、向けられた笑みをそのまま受け取ったどこか幼さの残る彼女たちは、黄色い声をあげていた。
    「あれも探してる仕草かなあ」
    「おそらくは。……けれどとても自然に見えるから、あまり不快感は残さないのだろうね」
    招待客から迎えられた男は広間の中央に立ち、後から入ってきた両親と共に周囲を見渡した後で声高に挨拶をする。主には足を運んできたゲストへの感謝と、年齢を重ねたことによる抱負、この家の今後について考えていることといった内容だった。口の動く速度は常に一定で、焦ることもなければ遅れることもない。こうした経験がずっと積まれてきたのだろうとなんとなく伝わってくる振る舞いに、空は素直に内心で賛辞を送った。
    そして傍に立つ両親からも挨拶がされると、割れんばかりの拍手が響く。三人が満足そうに微笑むと、それを合図にスポットライトは役目を終えて光を消し、代わりにシャンデリアから眩い明かりが溢れた。まだ真昼間ではあるがこの演出のためか会場のカーテンは全て閉められていて、照明装置は定められた仕事を徹底して行っているようだった。
    しばらくは招待客への挨拶回りに時間を割くだろうとはリサから聞いている。頃合いを見計らって声をかけようと話した空とアルベドは、近くのテーブルにある食事を口に入れようと踵の高い靴で移動した。
    「うーん、どれも美味しそう……セシリア、何食べる?」
    「そうだね……私はひとまずサラダにするわ。空は?」
    「肉料理……にそそられるけど、わたしもサラダにする」
    遠慮しているの? と涼やかな目元で微笑まれて、だって、と空は唇を尖らせた。
    「こういうところも気を抜かない方がいいって話だったから。……セシリアこそ、デザートはいいの?」
    「まだいいかな。パーティの終わる頃、残っていたものを食べられればそれで」
    「そっちこそ遠慮してない?」
    「多少はね。それに、……」
    何事かを言いかけたアルベドが口を噤むのを見て空は疑問符を浮かべたが、視線の先を追いかけて合点がいった。
    パーティに招いた本日の主役、金持ち次男坊が案内役の男を付き添わせ、二人の方へ歩いてきたのだ。
    空とアルベドは一度テーブルから離れ、やってくる男二人にそっと会釈をする。もしかしたら周りにいる誰かに向かっているかと思ったが、男が微笑を携えて「ここにいたんだね」と声をかけてきたため、目的は自分達であることを明確に理解した。
    「こんにちは。本日はお招きいただき、ありがとうございます。セシリアと申します」
    「初めまして、空と申します」
    それぞれに名乗って再びお辞儀をすると、男は軽く手を振って「そう畏まらず」と目尻を下げた。
    「二人のことは母から聞いているよ。他にも警備の人間はいるし、何事もないとは思うけど……今日はよろしく頼んだよ」
    「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
    巻いた毛先を躍らせてアルベドは綺麗に微笑み返す。唇に薄く伸ばされたティントの色が鮮やかで、横から眺めても見惚れてしまう造形だった。
    それはどうやら男も同じだったらしく、一瞬だけ頬を赤らめていた。しかしたじろぐ程までの格好はせず、背筋は伸ばしたまま、ゆったりと構えている。この美麗さに当てられても動揺せずにいられるのか……と空はひっそり感心してしまった。
    アルベド本人のことはずっと前から知っていて、顔だって見慣れているはずだけれど、こうして化粧を纏ってさらに美しさを引き上げられたら――ましてやその美貌のまま微笑まれたら――空は今でも、思わず息を飲んでしまう。そのくらい強く印象に残る綺麗なひとなのだと、再確認をしたりする。
    アルベド自身あまり外見に拘っている様子はないが、一応一般的に見ると整っている顔立ちということは自覚しているようで、今日のような時はどのように自分を魅せればいいかをわかってるようだった。リサからのアドバイスももちろんだが、元来持っている魅力をより引き出す意識をしているのだろう。過去、空も何度かその罠にはまっている。この先もうっかりはまってしまう可能性は十分にあるが、それはもう避けようのない罠であることを認めていた。
    男はわずかに頬を緩ませた後、「これは君たちに」と、控えさせていた案内役の男からグラスをそっと受け取り、アルベドには黄金を溶かした色のドリンクを、空には薄桃色のドリンクを差し出した。
    「ありがとうございます」
    アルベドが両手で受け取ると、空もそれに倣う。アルコールではないからと付け足されて、ほっとした表情で返した時。男の唇がわずかに歪んだ瞬間を見逃さなかった。
    男の視線はアルベドに向いたまま。そしてアルベドがグラスを傾けると、目が細められていくことにも気づく。まるで何かを楽しむ直前のような、何かを仕掛ける狩人に似た空気を感じ取って、空は咄嗟に「セシリア!」とアルベドの手首を掴む。
    「そ、ら?」
    「ねえ、そのドリンク、わたしのと交換しよう?」
    「でも……」
    「わたし、ピンクよりそっちの色の方が好きなんだもの。……ダメかしら?」
    最後の確認は、次男である男に向けて放つ。不安そうにまつ毛を震わせて、眉を下げたままそっと首を傾げるように。
    わがままな娘に映るだろうが、それもこの場にいる空という人物設定としては問題はないだろう。十代の少女を演じるのだ、これくらい許容範囲にしたって構わないはずだ。
    男はしばし沈黙を落としたが、「お好きな方を」とにこやかに言うだけだった。ありがとうございますと軽やかに返し、アルベドのグラスと交換する。
    そしてそのまま、グラスの中身を一気に飲み干した。
    喉を通っていく液体の感覚を追いながらふと視線を流す。男の背後にいる案内役の人間がわずかだけ顔を青くしてこちらを見つめていることを視界に収めると、やっぱりか、と納得がいった。
    飲み干したドリンクには、きっと何かが混入されている。
    おそらくは薬の類。毒――ではないと思う。流石にこんなパーティの中で毒物が検出されようものなら信用問題に関わるはずだ。そこまでリスクが高いことはしないだろう。
    味だけでその正体がわかればと思ったが、空にはそこまでの知識はなく、また薬品に慣れているわけでもないため、今この時はそれが何なのかわからないままだ。この後訪れるであろう体の変化を追いかけるしかない。
    「とっても美味しかったです! ご馳走様でした」
    空っぽになったグラスを案内役の男に戻す。アルベドも無言のまま飲んでいたようで、同じく空になったグラスをトレイに置いていた。トレイを持つ男の顔色は元に戻っていたが、空と視線がパチリと合うと微かに肩を震わせていた。
    そうして観察している空のことを見下ろしていた次男は、母親が放ったのと同じように、どこか痛みを伴う視線を向ける。
    「お気に召したならよかった。……パーティはまだ始まったばかりですから。最後まで、楽しんでいってくださいね」
    「ありがとうございます。警護も怠りませんから、どうぞご心配なく」
    表情筋をこれ以上ないほど酷使して、空は可憐な笑みを浮かべた。その顔を見てか、男はやや引き攣ったように口角を上げたかと思うと、空とアルベドから離れ、別の招待客へと声をかけていく。
    これで当分こちらに戻ることはないだろう。むしろ最後まで戻ってこなくていいくらいだが、この邸宅を出る前には挨拶の一つはしておかなければならない。ここには騎士団の代表として赴いているのだ。礼節は弁える必要があった。
    「……空、もしかして」
    「何となく想像してる通りだと思うよ。……大丈夫。わたしがこういうものに強いの、知ってるでしょう?」
    いつかのモンドで苦しみ喘いでいたトワリンの毒を浄化できたのだから、ある程度の耐性はあるだろうと見込んでいる。けれどアルベドは違う。人間でないとはいえ、もし万が一動けなくなるような事態に陥ってしまったらと考えただけで背筋が震えた。得体の知れない何かによってアルベドが苦痛を味わう姿など、想像したくもなかった。
    アルベドの手が空の背中に伸びる。慈しむような優しさで撫でられて、空はぎこちなく笑みをこぼした。

    体温が上がっているな、とは、じっとり汗をかき始めた段階で思っていた。
    少し歩くだけでも視界がぐらつく。履き慣れない靴のせいだろうかとも思ったが、それとは違う、酔っている感覚に全身が襲われている。やんわりと支えてくれるアルベドに「大丈夫だから」と何度言ったかわからないセリフをもう一度呟いて、会場の中で一際目立つ時計を見遣った。
    男から受け取ったドリンクを飲み干してから、二時間が経過していた。
    もうあと少し経てば、プログラムに書かれた終わりの挨拶が始まるはずだ。それさえやり過ごせば、後は両親たちに挨拶を済ませて騎士団本部に戻るだけ。リサに衣装を返却し、洞天にでも行って休めばいつも通りの空になれる。だからもうちょっとだけ耐えてくれと、じくりと疼く下腹部に意識を集中させていた。
    それが油断になっていたのかもしれない。近づいてきた足音に気付いたのは、次男がこちらを見下ろして影を落とした時だった。
    「おや……体調が優れないのですか?」
    熱さで重くなっている頭を動かして、空はアルベドからゆっくり離れる。なおも腕を伸ばそうとするアルベドに目配せだけすると、「いいえ」となめらかに唇は動いた。
    「このような場所にあまり慣れていなくて……それに何より、」
    男の垂れた目に真っ直ぐ視線を合わせて、リサの教え通り、上目遣いのまま頬を緩めた。
    「貴方のような男性は今まで見たことがなかったので、見つめていると、どうしても胸が熱くなってしまって」
    そのせいで少し足元が覚束なかっただけですと言い切ると、男は逡巡した目元を見せた後、胸ポケットから一枚のカードを取り出した。
    「さすがは騎士団に在籍しているだけある。君は合格だ。今度訪ねてくるときは、ここにある合言葉を門番に伝えてくれ。すぐに部屋へ通すから」
    周囲から人が減っているとはいえ、男の行動は大胆に映った。部屋に通す、という単語を聞き拾った少女の何人かは空に向けて嫉妬めいた目線を強く放り投げてくる。男は彼女たちの変化も当然わかっている様子で、しかし対処をするつもりはないのか、空にだけ顔を向けていた。
    この立場を代われるものなら代わりたいと心底思ったものの、この苦痛まで代わってもらうわけにはいかず、ただ耐え凌ぐしかないと、空は少女たちの視線に気づかないふりをすることに決めた。微笑を取り繕って、「ありがとうございます」と微塵も思っていない言葉を紡ぎ、カードを受け取ろうとした。
    しかし手を伸ばした先にあったカードは、横に立つアルベドに掠め取られてしまう。
    驚きを見せたのは空だけでなく男も同様だったらしい。パチパチと瞬きを繰り返し、言いにくそうに口を開こうとするも、それすらアルベドによって上書きされてしまった。
    「ご丁寧に、ありがとうございます。ですが彼女はこうしたことにもあまり慣れていないので……こちらは一度、私が預かっておきますね」
    「いやしかし、」
    「そろそろご挨拶のお時間ではありませんか? あちらでご両親も待っておられるようですよ」
    「――」
    「本日はお招きいただき、ありがとうございました。とても素敵な時間を過ごせて感謝しております。警護の任務をいただいておりましたが、何事もなく終えられそうで安心いたしました。……また機会がありましたら、ぜひご用命ください。騎士団は住民の暮らしを守ることに、いつでも尽力しておりますので」
    朦朧としてくる意識を何とか浮上させようと、奥歯を噛んでアルベドの言葉を聞いていた。男はまだ何か言いたげに口を開くが、両親に派遣された案内役の男に耳打ちをされると、渋々といった仕草を隠さずに広間の中央へ向かっていく。一瞬こちらを振り返った男と再び目が合うと、空は振り絞った気力で笑顔を見せた。
    「……空。終わったら、洞天に行くよ」
    耳元で囁かれて、隣を振り返る。長いまつ毛の下にある翡翠色の透明な瞳には、どこか怒りが滲んでいるようだと重たい頭のなかで思考は巡った。
    でも着ている服を戻さなきゃ、ジンやリサに報告しないと終われない、というやらねばならないことは浮かんでくるも、それを言葉にするのがひどく億劫になっていた。
    火照った体、伝う汗、下腹部に集まる熱の温度。
    ピークは過ぎたものと思っていたがそれは誤りだったらしい。うんざりしながら呼吸する空の全身を襲っているのは、異常なまでの性欲だった。
    「……、」
    ごめん、と口から出そうになって、飲み込む。ここでそれを言ってしまったら、きっとアルベドの顔は悔しそうに歪むだろうことが想像できたから。
    男は合格だと言ったが、これは試験だったのだろうか。それともこんな状態になるようなものを飲ませるということは、〝そういうこと〟をする目的があったのだろうか。どちらにしても、害のないような笑顔を撒き散らしているくせに、やっていることは狡猾で傲慢な部分が曝け出されていて、金持ちってこんな人間ばかりなのだろうかと一括りにしたくなる。そこまで考えたところで、思考が狭まっていることを理解する。今の自分はまったく正常ではないのだとわかりやすくサインを出している脳に対して、もうちょっと耐性があると思ったんだけどな、と内心で石を蹴飛ばした。
    始まりの時と同様に室内の照明が落とされると、スポットライトが踊り出し、主役である男とその両親を照らし出す。
    三人を取り囲む人数はパーティの開始から減ったものの、生垣のような厚みを持つ程度にはまだ残っていた。
    薄暗くなった場所から、華やかで賑やかな場所をぼうっと見つめていると、アルベドの腕がきつく腰に回ったことに気がつく。
    大丈夫だよ、と、口は動いただろうか。動かなくてもせめて、笑顔だけは張り付いていたと思いたい。
    わっと拍手が鳴り響く。ああ終わったのかと胸を撫で下ろした時、アルベドの手からくしゃりと、紙を丸める音がした。
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