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    noupura

    @noupura

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    noupura

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    画像でツイートした話に付け足ししたもの。
    ちゃんとハッピーエンド

    掌から滑り落ちて御覧「来馬先輩と一緒にいられるのってあとどれくらいなんだろうって考えてしまうんです」
    村上が残り少ないカレンダーを捲りながら呟く。
    「春夏秋冬365日じゃ全然足りなくて、あと2つくらい季節を足したりしないと追いつかない」
    「たとえば?」
    「例えば……春より暖かくて夏より涼しい季節とか……天気が良くて湿度の低い季節とかはどうでしょう」
    「いいね、過ごしやすそう。名前はどうしようか」
    有り得るはずもない戯言に、来馬は楽しそうに応える。村上はなんとか会話を続けなければと必死で脳に思考を巡らせる。覚えることは得意だが、ウィットに富んだ会話は得意ではなかった。
    「えっと、ええと……」
    「……ぼくも思いつかないや。いっそ方角みたいに春春夏とか夏夏秋とかにしちゃう?」
    雑談の一部に過ぎないはずの言葉だが、来馬の物言いがあまりに神様めいていて本当に“そう“なってしまいそうだと村上は思った。
    よく来馬は村上に大きな世界へ出て行けと諭すが、もう暫くは来馬の側がいい。来馬辰也という人間の作り上げた世界がいい。たとえ付け足した季節が夏よりもっと過酷でも、来馬の世界で生きることを許されたかった。
    「来馬先輩の作る季節ならきっと素敵なんでしょうね」
    「ぼくが作るの?!てっきり鋼が作るんだと思ってたよ」
    責任重大だなあと来馬は嘯く。
    貴方の掌の上は居心地がいい。まるで迷路に迷い込んだみたいにずっと彷徨い続けられれば良いのに。しかし村上は自分の願いが叶わないことを知っている。
    「ほら、鋼もちゃんと考えて……流石に春春夏はだめだよ」
    「えー……っと、既存の言葉だと違和感がありますね……」
    「言葉から作るのはハードルが高いなぁ」
    来馬と村上とで勝手に季節を増やしても、春夏秋冬365日が変わることはない。それはお互いにわかっている。ただ、無為に戯れる間だけでも1年を伸ばすことが出来るのなら、このままずっと戯れていたいと村上は願ってしまう。
    そのまま2人は、まるで魔法が解けるまでとはしゃぐ子供のように自由に言葉を並べて世界を組み替えた。
    「こんなにたくさんの時間を鋼と過ごせたならきっと幸せだね。今だって幸せなんだから、もっとそれが増えるってことだね」
    来馬は微笑んで村上の頭を撫でる。きっと、来馬はこの会話が村上の悪あがきだと知っていた。抗えない別れが目前に迫っている。
    「だったら、この先も一緒にいたいです」
    「ごめんな」
    来馬は尚も微笑んで、ただそれだけを答えた。
    来馬は決定を覆さない。
    「今生の別れってわけじゃない。ただぼくの生きて行く世界が少しだけ変わるだけ。だからご飯とか旅行とか、誘うよ」
    未来の約束を村上は喜ぶべきだ。しかし、村上の中の素晴らしい世界が終わってしまうことに変わりはない。苦楽を共にし、共通の課題に立ち向かい、同じ方向を向いていられたことが全て過去になってしまう。
    「でもその時の先輩はボーダー関係者でない来馬先輩なんですよね?」
    「来馬隊でなくなっても鋼はぼくの大切な人だよ」
    来馬は分かっていてはぐらかす。ボーダーから離れた人間に対して、村上が日々体験することを話すことは許されないのに。
    「どうにかならないんですか」
    「鋼は優しい子だよね」
    村上の言葉を遮って、唐突に来馬は村上を褒めた。「それは、だとしたら来馬先輩のおかげです」
    「うん。だから今度は鋼の美しい世界にその子たちを入れてあげてよ。お前にはお前の未来が待ってるんだ」
    村上の頬を止めどなく涙が伝う。いよいよ来馬との別れが避けられない未来なのだと実感してしまったからだ。
    「ああ、泣かないで。ぼくはお前に泣かれると弱いのに」
    「泣き落としで絆されてくれますか?」
    最後の最後の、最後の足掻きだ。それで何が変わるわけでもないと知りながらも、村上は諦められなかった。
    「……ボーダーにはいられないけどさ。鋼はぼくの恋人になる気はない?」
    「えっ」
    来馬の発言が理解できず、村上は涙を流すどころではなくなってしまう。呼吸すら忘れた様子で静止する村上に何を思ったのか、来馬は少し拗ねたように言葉を重ねた。
    「鋼が絆されてくれないかって言ったんだよ」
    「い、言いました」
    「ぼくは来馬の人間としてボーダーには残れないし鋼はボーダーに残ってやることがある。でもぼく個人なら鋼の側にいられるんだけど、どう?」
    どう?と質問形式ではあるが、来馬の言葉は断らせるつもりのない強い言葉だ。しかし、その強さが来馬が抱く不安を証明している。
    「本当を言えば、ボーダーに残って隊長を続けた上で恋人になって欲しいです」
    「なるほど?」
    村上も自分で言いながらかなりわがままな発言をしているという自覚はあった。しかしそれは紛れもない本音だ。
    「…………覆すことは出来ないんですよね」
    「決めたことだからね」
    「好きです、来馬先輩」
    「うん。ぼくも」
    村上は来馬という掌の世界から滑り落ちてしまった。その喪失を抱えて、村上は来馬の背に腕を回した。
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