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    azkikg

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    【ロド】

    #94

    脱稿ハイでうっかり致してしまった話 若造とセックスした。
     勿論清く正しいお付き合いの末ではない。
     交換日記もしていないしお手々繋いでデートなどというものもしていない。正真正銘爛れた身体だけの関係というものだ。
     何故そんなことになったのかといえば簡単な話で、所謂脱稿ハイというやつだ。とち狂った若造が脱稿ハイで暴れまわった挙げ句にこの高等吸血鬼たる私をソファベッドに押し倒したのだ。
     若造の好みは一貫しておっぱいの大きいお姉さんである。これはY談おじさんが立証している。何だったらつい最近もY談波を浴びてシンヨコの中心で巨乳を叫んだので間違いはない。
     だが脱稿ハイの若造が鬱陶しく絡んだ挙げ句に勢いで押し倒したのは畏怖畏怖しいこの私だった。ハイパーキュートで愛らしくも畏怖いこのドラドラちゃんがしどけなく腕の中に収まっていては、性癖が巨乳のおねえさんであろうがうっかりその気になってしまっても仕方がない。どう考えても若造ひとりの責任とは言い難いくらい可愛い私にもほんのちょっとだけ僅かばかりの責任もある。若造のアナログスティックが誤作動したのではなく正常は反応を返しただけなのだ。
     だが押し倒してその気になってしまった若造もさすがに強姦まがいな酷いことなど出来ず怯んだので、この私が直々に導いてやったのだが。ちんこ勃起させてぎらぎらした目で生唾飲み込んでるくせに我慢しようとしたから、背中に手を回して足を絡めてやったらあっさり陥落したのだ。童貞ちょろい。
     生粋の童貞はセックスの最中泣きながら気持ちが良いと言い、泣きながら好きだと繰り返した。本当に馬鹿だ。
     可哀想に若造はおっぱいの大きなお姉さんに童貞を捧げることも出来ず、がりがりな胸板のハイパーキュートな吸血鬼おじさんに童貞を喰われた。セックスが気持ちの良いもので、泣くほど好きなことだとガリぱいに教えられてしまったのだ。
     どうせ脱稿ハイの間の記憶は残らない。このハイパーキュートかつ畏怖可愛い私がすがり付いて好きだと言ってやったことだって、覚えていない。だから若造はまだ童貞のつもりだろう。真実は私しか知らない。
     二百年ずっと知らずにいた感情を教えられてしまったのだから、これくらいの意趣返しは許されて然るべきだ。知りたくなかった感情を教えておきながらあと数十年もすれば勝手にいなくなってしまうのだから、騙されるくらい対したことじゃないはずだ。
     だからこそ、何も知らずにいて欲しい。馬鹿な勘違いで同居人を抱いたことなど忘れたままでいればいい。
     この恋は私ひとりが抱えていくと決めている。





     下等吸血鬼の大量発生でギルドから呼び出され、結局全てのカタがついたのは日付が変わる頃だった。
     出掛けにドラルクが夜食の準備をしていたのに出来立ては食べられないだろう。夜食はあくまでジョンのついでだから何よりジョンが優先されるのだ。勿論そのことに異存もない。
     今日ドラルクとジョンは出掛けると言っていなかったから恐らく部屋にいるはずだ。ここ最近寒くなってきたから虚弱な吸血鬼は外出が減ったのだ。
     だからこんな日は、帰宅すると暖かい部屋で同居人がおかえりと言ってくれる。
     それに対してただいまと返したことはないが、同居人からの苦言はない。いつか返さねばと思うのだが、今さら改めて言うのが気恥ずかしいのだ。
     同居人である吸血鬼はついこの間付き合い始めたばかりの恋人である。
     人生ふたりめの恋人ではあるが、最初の恋人には一時間で振られているのでノーカンといっても良いだろう。しかも片想いし続けて恋人に昇格したのだから比べようもない。
     始まりはどうしようもなく情けないものだった。
     ロナ戦原稿の脱稿でハイになり、気付いたら押し倒していた。
     もちろん誓って下心があって押し倒した訳ではない、純然たる事故だ。
     だが押し倒した腕の中、長く片想いしていた相手が潤んだ目でこちらを見上げていたのだから下心がむくむく湧いても仕方がないと思う。思わず生唾を飲み込んでしまったが、理性を取り戻した自分は褒められて良いはずだ。
     けれどその理性も一瞬にして崩壊してしまったのだけど。
     なんと押し倒してしまった相手からすがり付かれたのだ。もはや据え膳。いただきますをしなければむしろ失礼というものだと童貞でも分かる。
     結局片想い相手に導かれるまま致してしまったのだ。
     えっちだった。それはもうえっちだった。
     ふかふかなおっぱいなどなく、理想のえっちなお姉さんとはほど遠い体躯のくせに、えっちなお姉さんよりもえっちだったのだ。
     がりがりで下手をすれば骨と皮しかないような頼りない身体をくねらせ、普段あまり血色が良いといえない肌を上気させて甘い吐息を漏らす。細い腕や足を絡ませてねだる姿は淫靡でありながら、頼りなく震える様は健気でいじらしい。
     これがえっちでなければえっちなお姉さんなど存在しない。えっちな吸血鬼はえっちなお姉さんよりもえっちな存在だったのだ。
     何よりも、好きな相手とのセックスがこんなにも幸せなものだとは思わなかった。あまりにも幸せで泣きながら好きだと告げてしまったほどだ。
     情けない告白にドラルクは呆れもせず、それどころか嬉しそうに笑って私も好きだと言ってくれた。
     こんなに幸せなことが人生で起こるなんて思いもしなかった。
     あれから一ヶ月経つが、あの時以来恋人らしい触れ合いはない。それどころかあまりにも恥ずかしくてまともに好きだとも言えないでいる。
     このままではいくら恋人とはいえ呆れられて捨てられてしまうかもしれない、それだけは駄目だ。
     だから今日こそは照れずに伝えるつもりだった。
     手には小さな薔薇の花束。このシンヨコでは吸血鬼が多いせいでありがたくも深夜まで営業している店に事欠かない。
     退治人衣装の埃を払い、深く深呼吸。
     花束を握りしめ、覚悟を決める。
     ドアを開けたらきっとおかえりと言って出迎えてくれるから、花束を捧げて今日こそ言うのだ。
     情けない恋人だけど、ずっと傍にいてくださいと。




    (2022.05.17)
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