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    takekavat

    @takekavat

    @takekavat
    ここには小話みたいな短い燭へしをぽいぽい投げていけたらいいなと思っています。
    ある程度まとまったのは→ https://www.pixiv.net/users/10505475

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    takekavat

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    同棲中な冬のリーマン燭へし。お題はまいじつ燭へしから、「猫舌の燭台切×汗だくの長谷部」。
    冬のへしは寒さですぐ鼻の周りとかほっぺたとか赤くなっちゃうと可愛いなと思う。

    #燭へし
    decorativeCandlestick

    うちについたら「昼はラーメンにしよう」
     長谷部がそう言いだしたのは、ある冬の休日の昼前。
    「いいね、たまには食べにいこう」
     頷いてそう応じれば、
    「俺たちの部署も最近忙しかったし、これだけ働いてるんだから外食くらい許されるだろ」
    にやりと笑って返される。燭台切が料理を好きなので、あまり二人は休日に外食をすることがない。だが最近は忙しいせいで少し億劫さを感じていたのも事実だ。それに気づいたうえでの提案だとしたら嬉しいけれど、聞いたところできっと彼は首を縦に振らない。だからそれには触れず、歩いて15分ほどのラーメン屋に向かう。


     長谷部は福岡出身なのでとんこつが好きなのだが、味にこだわりがあるようで彼が認めるとんこつを出すラーメン屋は少ない。このラーメン屋でもとんこつではなくごま醤油を頼む。それでもとても美味しそうに啜るから見ているだけで幸せになる。カウンター席の隣に座る長谷部を見ながら、僕が長谷部くんを好きになった決め手はものを美味しそうに食べるところなのかもしれない、と思っていたら、
    「おい」
    気まずそうに長谷部が声をかけてくる。
    「俺を見てる暇があったらお前も食べろ」
    「いや、もちろん食べるけど」
    「どうせ麺が伸びるのを待ってるんだろ」
    「伸びるのをじゃないよ、冷めるのをだよ」
    「同じことだろ。お前が食べれるくらい冷めたら伸びてるんだから」
     くっと喉の奥で笑うと、
    「お前は本当に猫舌だな」
    そう続けて唇をぺろり。思わずそこに注視してしまう。
     いけないいけない、僕は昼間っから何を考えているんだろう。そう思いながら麺を一本だけ箸ですくい、啜ってみる。流石に一本だけなら平気だ。だが左隣の長谷部のように豪快に啜ろうとすれば痛い目を見るのは必定。もう少し冷めるのを待とうと、また長谷部を盗み見てしまう。
     熱いラーメンを勢いよく啜り続けているせいで長谷部は汗だくで、顔も赤い。そのせいで思い出してしまう。夜のことを。
     燭台切の腕の中でくったりとしている時の長谷部は今のように汗をかいているし顔だって赤い。もちろん表情は今と違って瞳が潤んでいるし、漏らしている切なげな吐息は今の豪快な啜りっぷりとは似ても似つかないのだけれど。

     だから、僕は何を考えてるんだ。再び我に返る。

     考えてみれば、互いの仕事が忙しいせいで「そういうこと」からはしばらく遠ざかっていた。二人とも疲れ果てて家に帰るし、夕食を外で済ませることも多くて、帰宅しても風呂に入ってそれから寝るだけ。同じベッドに寝ていても、なんとも健全な夜を過ごしていた。
     だからって何も美味しそうに食べているところに欲情することはないだろう、確かに僕は美味しそうに食べる長谷部くんのことが大好きだけれど、そう思いながらやっと啜れるようになった味噌ラーメンを食す。ちらりと左に視線をやれば、もうあらかた食べ終えた長谷部が、「またこいつは伸びきったラーメンを食べて」とでも言いたげな憐れみの視線をこちらに投げかけていた。
    「ちゃんと美味しいよ」
    「俺は何も言ってない」
    「目は口程に物を言うって言うだろ」


     替え玉に餃子も頼んで、満腹になった二人は店を出る。こんなに痩せてるのによくあれだけ入るなぁと、隣を歩くぺたんこの体をしげしげ見つめていたら、
    「何だ。何か言いたそうだな」
    長谷部がこちらを振り向き、そちらこそ何か言いたげなジト目で見てくる。
    「別に、言いたいことはないけど」
     そう返すと、
    「嘘つけ」
    と素っ気なく返され、それから長谷部はコートのポケットに両手を突っ込むと、気まずそうに燭台切とは反対のほうを向き言う。
    「お前なぁ…… 帰ったらちゃんとさせてやるから、外で飯を食ってる時に、あんな顔で見てくるのはやめろ」

     虚をつかれたこちらは真っ赤になって立ち止まるしかない。

     立ち止まった燭台切を長谷部は一瞬だけちろりと見遣り、ふん、と鼻で言うと放置してすたすたと歩き去る。慌ててその背中に追いすがる。
    「待って長谷部くん、気づい……」
    「馬鹿かお前は。あんなあからさまな表情でじろじろ見てきて気づかないわけないだろ。何年お前とそういう関係だと思ってるんだ馬鹿」
     二回も馬鹿呼ばわりされたほうとしては悔しくなるが、きっとそれに甘んじねばならないほど今の自分が間抜け面をさらしているだろうという予想はつく。
    「なんか、こんな日の高いうちからって、付き合いだしたころみたいでどきどきしちゃうな」
     そう言うと長谷部が呆れたような顔で返してくる。
    「何がどきどきだ。色情魔」
    「しき…… 長谷部くんひどくない?」
    「そう拗ねるな。……今日は俺が晩飯つくるから。お前がつくるものほど美味くはないだろうがな」
    「あれっ、やっぱり長谷部くん、お昼外食にしたのって僕の負担を減らそうと考えてくれたから?」
    「さあ、どうだろうな」
    「そこではぐらかさなくてもいいのに」
    「うるさい」
     長谷部が本当にうるさそうに手を振るけれど、表情が照れているから真意が分からないはずがない。
     ぎゅっと抱きしめたくなる気持ちを抑えながら隣を歩いていると、
    「おい、スーパーに寄るぞ。晩飯の買い物済ませておいた方がいいだろう」
    コートの裾をちょいと捕まえられる。
    「そっか、うちに着いたらしようって思いながら晩ご飯の買い物するんだ。なんかそれってえっちだね」
    「……お前は本当に色情魔だな」
    「失礼だなぁ、長谷部くん限定だよ」
    「その色情を一身に受ける俺の身にもなってみろ」
    「喜んでいいんだよ?」
     にっこりと笑って告げれば、
    「……ばか」
    三度目のそれは、少し甘い媚びを含んで燭台切に降ってきた。
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