二千年の初恋「やっと今日の宿に着いたね」
「……ああ」
「長谷部くんも旅に慣れてきてるけど、今日はちょっとハードだったからね。ゆっくり休もう」
「……そうする」
「どうしたの長谷部くん。体調でも悪い?」
「そんなことはない。ただ、緊張しているだけだ」
「緊張……?」
「ここ数日、お前に伝えたいと思っていることがあって、でもなかなか言えなくて」
「えっなに? 遠慮しないで言ってよ。水臭いよ」
「遠慮じゃない。ただ、本当に緊張して」
「そんな緊張するようなことなの」
「うぅ……」
「なんでそんな、顔真っ赤に」
「おれは、おまえのことがすきなんだとおもう」
「え……、待って、何を」
「お前はすごくやさしい。お前がつくってくれるご飯は全部おいしい。お前といるとおれは、いつもあたたかくてふわふわした気持ちになる。2000年生きてて初めてなんだ。これが、おれの初恋なんだとおもう」
「だって君は2000年の間、ずっとあのほこらの中で一人で過ごしてたんだろう。たまたま出会って一緒に旅をしている僕に舞い上がっているだけだよ。恋だなんて、まさか……」
「……迷惑か。俺みたいなのに好かれたら」
「! そんな」
「迷惑だろうとは思ったんだ。でもこの気持ちに気づいてしまったら、どうしても告げずにいられなかった。すまない。お前を嫌な気持ちにさせたかったわけじゃないんだ」
「待って、話を聞いて」
「この気持ちに応えてもらえるとは思っていない。ただ、想い続けることを認めてほしいだけなんだ」
「……僕は」
「なぜそんな、苦しそうな顔をする」
「……………………」
「やっぱり、想い続けるだけでもだめか」
「そういうことじゃないよ。ただ、僕は……そんな風に思ってもらえるような人間じゃない」
「なんでそんなことを言うんだ」
「聞いて長谷部くん。僕があのほこらに近づいたのは……単なる好奇心だったんだ」
「好奇心……?」
「正直言うと、魔王を倒す前からほこらの存在は知っていた。そのほこらを護っている君のことも。でも魔王を倒すまでは近寄らなかった。なぜか分かるかい。あのほこらを無視したままでも、魔王を倒すことは可能だったからさ。それくらい、君とほこらの存在は魔王軍と関係ない距離に置かれていた」
「………………」
「魔王を倒して強くてコンティニューを選んでから、僕はふとほこらの存在が気になった。近隣の村の人々の話だと、いつか分からないくらい昔から一人ぼっちでほこらを護っているモンスターがいるらしい。しかも、魔王が倒された今でもだ。僕は滑稽だと思ったんだよ。何も知らずにほこらを護り続けている小ボスを嗤ってやるつもりであそこへ行った。最低だろう? だから僕は君に好かれる資格なんてない」
「……罪滅ぼしなのか?」
「え?」
「俺をあのほこらから連れ出してくれたのも。俺に優しくしてくれるのも」
「……分からない。ただ、実際にほこらにいる君と出会って、話をして、君が何も知らないまま一人ぼっちであそこで過ごし続けるのはおかしいと思った。……いや、許せないと思った」
「お前がそう思ってくれたお蔭で俺は今、ほこらから遠く離れた村の宿屋にいる。……お前と」
「……長谷部くん」
「きっかけはなんだっていいんだ。大事なのは、お前があの日ほこらに現れてくれなければ今も俺は孤独なままだったってことだ。……ありがとう、俺を見つけてくれて」
「そんな風に頭を下げないで。……僕は」
「いいんだ。俺が嬉しいんだ。……俺がお前をすきなんだ」
「……ずるいよ」
「? なにがだ?」
「僕のほうから言いたいってずっと思ってたのに」
「……?」
「ぼくも、きみのことがすきなんだ」
「……! な、ん」
「ふふ、長谷部くんさっきよりもっと真っ赤だよ」
「だって、お前、そんな、」
「かわいい、長谷部くん」
「おれ、おれなんかでいいのか」
「長谷部くんだからいいんだよ」
「おれは、ツノも生えてるし」
「そこも可愛いよ」
「しっぽだって生えてるし」
「素敵じゃないか」
「お前と同じ速度で老いていくこともできないし」
「そこは悲しいけれどね。僕が絶対に置いていくことになっちゃうから」
「うぅ……」
「あ、待って」
「死ぬな…… 燭台切……」
「別に今すぐおじいさんになって死んじゃうわけじゃないから泣かないでよ……」
「いやだ…… おいていくな……」
「うん。健康に気をつけて頑張って長生きするから」
「……おれよりもか?」
「う。そこは……まあ、善処するよ」
「絶対だぞ」
「ふふ。……こうやって長谷部くんをぎゅってするの、初めて会った時以来だね」
「おまえにこうされるのすきだ。すごく安心する」
「じゃあこれから、今みたいに二人っきりの時はずっとぎゅーってしてよう」
「それはいいな」
「約束だからね」
「もう一つ約束しろ」
「なぁに?」
「……ずっと一緒だからな」
「……うん。約束」