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    takekavat

    @takekavat

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    ここには小話みたいな短い燭へしをぽいぽい投げていけたらいいなと思っています。
    ある程度まとまったのは→ https://www.pixiv.net/users/10505475

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    takekavat

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    高校生燭台切くん×新任長谷部先生の燭へし。お題はまいじつ燭へしから「こっそりイタズラをする燭台切×薬指に指輪をつけた長谷部」。

    #燭へし
    decorativeCandlestick

    僕とセンセイの梅雨の朝 ただでさえ気怠い朝の登校時刻、それが梅雨空となれば物憂いことこの上ないが、教員という立場上それを表に出すことはできない。正門前で登校指導をしながら、長谷部は右手の傘を持ち直す。
    今年の梅雨明けは例年より早いと今朝のニュースで言っていた、それが救いだな──と2割がたまだ寝ている頭の隅で考えながら、ネクタイがどうだの、髪型がどうだのと、表面上は澄ました顔つきで生徒に指導している。
     つまらない大人になったな、なんて思っていたその時。

    「長谷部くんっ!」

     後ろから突然名を呼ばれ、振り返る隙も与えられず背中から抱きしめられる。誰だ、と一瞬思ったが直後に愚問だったと考え直す。こんなふざけたことをしてくるのは、そして自分をこんな呼び方するのは、この高校で一人しかいない。
     長谷部の担任するクラスの問題児、燭台切だ。
     問題児──と思っているのは長谷部だけなのかもしれない。いや、髪を金色に染めている時点で校則違反なのは間違いないのだが。
     他の教員には長谷部に対するような、授業中に延々と話しかけてきたり、廊下ですれ違うたび絡んできたりというようなことはしていないらしいのだ。
     だが、雨の降りしきる中こんな風にふざけて抱きつかれる時点で長谷部にとっては問題児であることに間違いない。驚いた拍子に傘を落としてしまって濡れ放題だし、その傘を取りに行こうにも信じられないほどの馬鹿力で拘束され、髪をわしゃわしゃされたり手をぎゅっぎゅっと何度も握られたりとされたい放題されてしまう。
    「お前っ…… 朝から何を」
     振り返って睨みつけると、
    「朝じゃなかったらいいの?」
    太陽のような笑顔で返されいらだちが募る。
    「そんなわけがあるか! 放せ!」
    「つれないなぁ」
     言いながら燭台切は長谷部の左手の指をそっと握ってから体を解放する。その手つきがやたら煽情的で長谷部は眩暈がした。こいつ、女性関係で面倒ごととか起こさないだろうな。そんなことになったらただでさえ仕事に追われているのに更に処理することが多くなる。
     そんな長谷部の胸の内も知らず、燭台切は相変わらずの眩しい笑顔で、
    「おはよう長谷部くんっ」
    と挨拶してくる。
    「何度言ったら分かるんだ。長谷部『先生』だ。くんづけはやめろ」
     傘を拾いながら返す長谷部。
    「分かってるよ長谷部くん」
    「絶対分かってないだろ!」
     思わず怒鳴るが、
    「怒るのは健康によくないよ?」
    8センチ上から笑顔でにっこり見下ろしそう返される。
    「誰のせいだと思ってるんだ……?」
     こうなると長谷部はもう脱力するしかない。



     登校指導を終え、ショートホームルームのため長谷部は自身が担任するクラスに向かっていた。今日は一限二限と授業があるため忙しい。早めにSHRを切り上げて、それから……頭の中では分刻みにスケジュールを考えつつ教室のドアを開ける。

     長谷部が現れた瞬間、生徒たちがざわめく。
    「? どうした?」
     不審に思いクラスを見渡すが、生徒たちはひそひそ自分たちで言葉を交わし合うだけで長谷部には教えてくれない。言えない、と表現したほうが適切な雰囲気か。
     その中で能天気に笑顔を向けてくる金髪に目が行くが、こいつにだけは教わりたくないと意地を張り、教卓へ向かう。
    「いいか。今日は放課後に保健委員会があるから保健委員は忘れず──」
     話し始めてみたものの、どんどん大きくなるざわめきに長谷部は負ける。あれか?背中に「バカ」と書かれた貼り紙でも貼られてるのか?と思い背中に手をやってみたが空振りだった。
    「おい、お前ら何をそんなにざわざわしてるんだ。俺が何か」
     途中まで言いかけたのを遮り、
    「長谷部センセイ」
    と呼びかけてくる声。……こんな気に障る「センセイ」呼びが出来るのは一人しかいない。
    「……なんだ。燭台切」
     燭台切は言葉では答えず、自分の右手の人差し指で左手の薬指をちょんちょんと指し示す。
    「? お前なにやってんだ?」
    「センセイは察しが悪いなぁ」
    「は? なんだお前ケンカ売ってるのか」
    「自分のここ見て」
    「ここ? って、はぁ!?」
     驚いた。自分の左手の薬指に指輪が。
    「え、なんか先生驚いてるよ」
    「あれ? 先生結婚したんじゃなかったんだ」
    「何かのイタズラー?」
    「だよねー、先生まだ結婚とかするには若造って感じだし」
     ひそひそと息をひそめていた生徒たちが一斉に勝手なことを言いだす。
    そして長谷部は思い出すのだ。登校指導時に後ろから抱き着いてきた燭台切が離れていく時、左手の指を妙な触り方していたのを。
    「しょ、燭台切っ!」
    「なぁに? センセイ」
     かなぐり捨てるように指輪を外しながら叫ぶように名を呼ばれたことに全くひるむ様子も見せず、にっこり笑って答える燭台切。
    「貴様、よくもやってくれたな」
    「何の話だかさっぱり分からないよ?」
    「しらばっくれるか。……昼休み理科準備室まで来い」
    「みんなの前で呼び出すなんて大胆だなぁ。何されるのか僕ドキドキしちゃうよ」
    「言ってろ。今日が貴様の命日だと思え」
     教師にあるまじき発言だが、入学式以来燭台切に対する長谷部の言葉遣いはエスカレートする一方であり、そしてそれは100%燭台切の身から出た錆なので、他の生徒たちも「先生と燭台切がまたやってる」と特に気にも留めていない、むしろ面白がっている。
     その後長谷部は嵐の如くショートホームルームを終わらせて教室を去ったので、
    「二人きりで理科準備室か…… 楽しみだね……」
    机に頬杖をつきながら燭台切が余裕の笑みで呟いたことなど知る由もないのだった。


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