紫苑の花言葉を君に④ ~ CODE:BIRD CAGEより~▼▼▼
「約束したんだよ」
二十歳をいくつか過ぎた青年にしては高い声音でマーブルが言う。
「あいつを殺してやるって」
もし、ヨハンが過去に負けて誰かを攻撃しようとしたら。
もうどうしても、これ以上生きてはいけないと思ったら。
そのときは、オレがおまえを殺す。
「けどあいつ、すげえ強いじゃん? だからムカつくけど、生かしてやってんの」
「約束したんですよ」
やわらかく落ち着いた声音が言う。
「アーティに殺されてもいいって」
殺してやる、と言ってくれたから。
死にたがっていた、死ぬしかないと思っていた自分を、強い目線でまっすぐ貫いて。
誰かに殺されるなら、おまえがいい。
「でも悲しいかな、抵抗してしまうんですよね。習性で」
あはは、となんでもないように、ヨハンは笑う。
ヨハンを、まるでアベンジャーズのようだと例えたのは、誰だったか。
「過去の事情」からマーブルを拾い上げたのは、前述したとおりレイナード艦長だ。特殊な環境で育っていたにもかかわらず己を保っていたマーブルを連れ帰り、超一流の戦闘機パイロットに育て上げた。
マーブルにとって、艦長も特別な存在だったろう。
いつだったか、コリーンと二人きりで話す機会があった折に、マーブルにとって艦長とヨハンは「空気」なのだと話していたことがある。
うまい空気があるからここにいるのだと。
あの二人が、自分の生きる意味なのだと。
話は少し戻るが、その愛らしいクマをマーブルにプレゼントしたのは、ヨハンである。
自分が殺してしまった妹に贈ったクマと同じぬいぐるみ。偶然見かけて、思い出したら買わずにはいられなかったのだと言う。自分の定位置をでかいクマに奪われたと文句を言っていたマーブルだったが、そのクマは捨てられることなくずっとその場に鎮座し続けた。
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